オカルト好きとだけは関わりたくない
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色々と思うこともあるけど、今日は新年度の始まりだった。新入生には全く興味が無いが、クラス替えだけは気になっている。理由は、オカルト好きとはできるだけ関わりたくないからだ。
「...もうこんな時間」
苛ついていたせいで、時間を全く見ていなかったことに気が付く。急いで制服に着替え、軽くファンデーションと薄くアイメイクをする。
私の通う高校は、特別偏差値が低いわけでも、かといって高い高校でもない。いわゆるほどほどの高校だ。校則も厳しく無いため、茶髪の腰まである髪もメイクも、特には注意されない。
「...行ってきます」
玄関を開けると、やはり相当良い天気みたいで一瞬目の前が白く霞んだ。道端の桜も満開になっていて、春の風の匂いもする。普通の人間なら、とても気持ちの良い空気と言える。
しかし、私の目には桜の木からだらりと吊り下がる、まるで今でもそこに居るかのような存在感のサラリーマンの姿が見えていた。
近所では有名な桜で、よくお花見をしている姿を見掛けるけど...少なくとも私は絶対にしようとは思わない。あの独特な表情を見ながらご飯なんて、絶対に食べられない。
なるべく目を合わさないように、足早に道を進む。学校までは徒歩で20分ほどだが、私にはひとつの日課があった。
「...おはよう」
そっと一本の木に触れる。大きなしめ縄が付いていて、抱きついても腕の長さが足りないほどの大木だ。私の日課は、学校の行き帰りにこの神社に立ち寄ること。
ちっとも有名じゃない神社で、滅多に参拝客も見ないけど...いつも綺麗にしてあってゴミひとつ落ちていない。何よりここの空気が大好きだった。
どんなに嫌なことがあっても、ここに来ると不思議と気持ちが穏やかになる。昔はよくお母さんと来て、ここの神主さんにお菓子を貰っていた。
とても穏やかな神主さんで、私もよく懐いていた。でも、ある日を境に全く姿を見なくなってしまった。いつかまた会えるかもしれない、そんな期待もどこかに持っている。
「行ってきます」
暖かい風が吹き、まるで包み込まれているかのような安心感を覚える。ここで何かを見たことは無いけど、ここにはとても神聖な存在を感じていた。
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「おはよう、由奈ちゃん!」
学校に着き上履きに履き替えていると、ひとりの生徒が近寄ってきた。彼女は谷口芽衣、ボブカットが良く似合う少し天然な女の子だ。
「おはよー、クラスどうだった?」
芽衣とは高校からの出会いで、私が体調不良を起こした時に保健室に連れて行ってくれたことをきっかけに仲良くなった。
「えへへー、なんとまた一緒のクラスだよー!」
「え、じゃあ結局3年間同じクラスかあ!」
芽衣に手を引かれ、新しい教室に足を踏み入れる。新学期ということで落ち着きもなく、着席している生徒はひとりも居なかった。
「由奈ちゃん、なんと淳くんと結衣ちゃんも同じクラスだよー」
じゃじゃーん、と言わんばかりに2人の男女を指差す。その声に気付いたのか、2人もこちらに近づいてくる。
「おう、俺達腐れ縁かもなー」
そう言って右手を挙げたのは、月岡淳。金髪に近いほど髪が明るく、髪はワックスで軽く盛ってある。いわゆる、「ちょっとチャラいイケメン」と言えるだろう。
「淳とだけは離れたかったよねー」
そんな軽口を叩いているのは、橘結衣。腰までの茶髪を緩く巻き、顔は恐ろしく綺麗だ。ただ...
「あー、朝飲んだ牛乳腐ってたかもー!ちょっと出してくるわ」
かなり男勝りでズボラな、残念美人と言われている。ただ黙って座っていれば、モデル顔負けの容姿なだけに...女の私の目から見ても勿体ない。
「あいつ、相変わらず男みたいだな」
「結衣ちゃんはそこがチャームポイントだよー」
呆れ顔の淳と、無邪気に笑う芽衣。私達は皆高校からの付き合いだけど、3年間同じクラスということもあり、それなりに仲が良い。
2人の気持ちを聞いたわけでもないけど、私はこの2人は良いカップルになるのではないか、と勝手に思っている。淳は見た目はチャラいけど、男気があって性格も良い。
芽衣は独特な天然性を発揮していて、思わず守って上げたくなるような癒しオーラの持ち主だ。何度この明るさに救われてきたのか、数えられないほどだ。