第1話
「はあぁ……」
今日から学校が始まると思うとため息がでる。別に学校が嫌いだとか、いじめられてるとか、友達がいないというわけでわない。ただ学校に行くのがめんどくさいのである。
「ため息をつくと幸せが逃げていくというよ」
ため息をつく僕に幼馴染の少女が話しかけてくる。
「いいんだよ、千鶴。もともと僕に幸せなんてないから」
「君が今、幸せじゃないということを否定するつもりはないが、学校に登校するだけでそこまで嫌がるのはオーバーじゃないかな」
「夏休み明けの学校なんてみんなこんなもんだよ」
「ふむ、そうなのかな」
「ああ、そんなもんだ」
僕、細谷俊博はM県にある私立白鷺学院高等学校の2年生だ。
今日は8月の最終週の月曜日。今日から夏休み明けの学校は始まるわけだ。
今、一緒に登校しているのは幼馴染の松埜千鶴だ。
家が近所ということもあり、幼稚園のころからの付き合いだ。
長い黒髪が特徴的で顔立ちも目鼻立ちがすっきりとしていて可愛いというより綺麗という形容詞が似合う女子高生だ。
友人にきいたところ学園内でも結構人気があるらしい。まあ僕は長年一緒にいたせいか今のところは全く恋愛感情はない。
いや、永遠に芽生えないだろうな。彼女と付き合ったらうまく掌の上で転がされるだけだ。
みんな千鶴の本性知らないからな。彼女は、実は結構腹黒い。
それに、漫画やアニメで例えると、敵のボスを裏から操る黒幕のようなタイプだ。
いや実際小学校の時、児童会長を影で操るという小学生らしからぬ偉業を成し遂げているからな。児童会の役員たちからは「影の児童会長」と呼ばれていたらしい。
「なにか、昔を思い出すような遠い目をしているが一体どうしたんだだい?」
「いや、ちょっと小学校の時を思い出してたんだよ」
「ふーん、小学校時代をねえ」
「ああ、お前が影の児童会長と呼ばれていた時代をな」
「ふむ、そんなこともあったかもしれないな、しかし私は君みたいに過去をウジウジと気にしたりはしないのだよ」
ああ、そうだった。彼女は他にも気を許した相手に対しては毒舌という属性も持ってたんだ。
もう慣れたが昔は、何度も心を折られたなあ。
「ところで、今度はうちの高校でも生徒会長と代議員の選挙があるだろ。お前出れば勝てるんじゃないか」
「いや、私は表に出るタイプではないしな。それに会長や代議員になってまでやりたいこともなければ、予算をとる必要もない」
「まあ、たしかにな」
僕と千鶴は文芸部に入っているわけだが、文芸部は多くはないとはいえ予算をそれなりにもらっている。
それに部室もあるから、活動の場所に困るということもない。
現在、文化部連合の代議員に文芸部選出議員はいないが一応文化部連合は、各文化部の予算獲得に貢献してくれているからわざわざうちから代議員を出す必要がないということだ。
「それに、私は政治家というより政治屋というタイプだからね」
「いや、それって批判されるタイプの政治家だろ。確か、政局にしか興味ない奴らだった気がするんだが…」
「ふむ、その通りだよ。政策を勉強すると政局感が鈍るからよくないんだ」
「おいおい、それはダメだろ」
「大丈夫だよ、選挙にかかわるつもりは今のところないしね。今はただのうがった見方をする小うるさい有権者だよ」
「ああ、お前が候補者に対して質問とかしたら下手したら相手泣くんじゃないか」
「ハア、君は私を何だと思ってるんだい」
「カワイイ幼馴染だよ」
「また心にもないことを言うねえ。まあいいよ、今回は君の言うことを信じるとしようか」
しかし、千鶴の人気なら選挙にでれば、完全無所属でも勝てるんじゃないかと思うんだがなあ。
まあ、本人がやる気がないんだから仕方がない。
彼女も僕ほどではないが結構な面倒くさがりだからなあ。案外お互い面倒くさがり屋だからうまくいってるのかもしれないな。
「選挙の話はもういいとして、うちの次の部長は誰になるんだ?」
「さあねえ、案外君が後継指名されるんじゃないかねえ」
「えっ!」
いや、まてまて。僕が部長になるって。部長に成ったら面倒くさいじゃないか。
「おいおい、なんで僕が部長候補になってるんだ?」
「いや、単に君は部長に気に入られているからねえ。そう思っただけだよ」
「さすがに、そんな個人的な理由で選ぶか。僕そこまで真面目に部活やってるわけでもないのに」
「社会で出世するのは大体そんなもんだよ」
「それは、言い過ぎだろ。実力で出世してる人だっているだろ」
確かに、上司に取り入って出世していく世渡り上手な人もいるだろうが今の日本は以前よりは実力主義が根付いているはずだ。
「まあ、企業によっては欧米的な実力主義の会社も多いが、政治の世界なんかは自分の言うことをきくかどうかで人事を行ってると思うよ」
「うっ!まあ確かに今の官房長官も世渡り上手なとこあるもんな」
今の内閣の須田官房長官は、首相の側近として活躍してるが、実は与党が野党転落したときの選対幹部だから実は戦犯の一人なんだよな。でも側近として仕えてた政治家が党首に復帰したときに一緒に復権したんだよな。
「ああ、あの人は確かにそうかもしれないが、実力もあると思うよ」
「そうなのか」
僕たちがそんな高校生らしくない会話をしているうちに学校が見えてきた。
まあ、めんどくさいが今学期も適当に頑張るとしますか。