プロローグ
M県にある私立白鷺学院高等学校は生徒たちの自主自律を校是とし、生徒による高度な自治がみとめられている。
基本的に学校行事等に教師は口をださず、生徒たちが主体として執り行っている。
そういった行事を指揮する生徒会長の権限はとても強大であり、それは理事長や校長に次ぎ、他の一般教員を凌駕している。
生徒会長に教職員の職員会議への参加が認められ、一定の発言力を持つということの異常性からも生徒会長の強い権限をうかがうことができる。
しかし、それほどの権限を与えてしまえば、生徒会長による独裁政治がまかり通ってしまう。
そのため生徒会長へのストッパー役として白鷺学院では50人の代議員と各委員長から構成される代議員会があり、ここで執行部から出される議題や予算案を検討し賛否を問う必要がある。
またここでは、各委員長や代議員にも議案の提出権があるため、予算の獲得や練習場の割り当てを目指すため、学院内に存在する部活動が自前の代議員を送り込んでくるのである。
つまり生徒会執行部は予算を通すためには、自分の部活に多く予算を要求する代議員たちと調整を行いながら学校を運営していかなければならないのである。
いわば代議員会が白鷺学院の立法府なのである。
白鷺学院は大統領的権限をもつ生徒会長と、議会が存在する日本の都道府県や市町村の議会にあたる代議員会の二つが存在する地方自治体の政治体制と同じなのである。
その結果、毎年9月に行われる生徒会長・副会長選挙及び代議員選挙は毎回激戦となる。一部の部活動は自分たちの意見を代弁する候補者を出すために連合を組むなどして、選挙戦を戦うのである。
たいていの場合は運動部連合と文化部連合にわかれ、生徒会長の座を争い、ここ5年は運動部系の生徒会長候補が当選し代議員の構成も運動部系と文化部系、中立派で5:4:1の割合になる。
しかし、この年の選挙結果は前年までとは違ったものとなった。
これはある1人の少年とその支持者たちが、『失われた5年』を取り戻すための戦いである。