狩
かちん、かちん、と、硬質なものがぶつかり合う音がした。
宙に放られ、落ちるのは、光をはじいて煌めく、色とりどりの宝石。
三つやよっつではない。十をこえる色石をざらりと手のひらで転がすのを、銀色の眼が追う。
「宝石に執着があるか?」
どこか嗤うような声音に問われ、喉が不快に鳴った。
「吾は礫など欲さぬ」
牙の隙間から漏れた憤懣に、華奢な生き物が巨大な竜の背の上で面白げに笑う。
「旧き竜の血は気位が高い。猛き者が召すは畏怖と流血であって、金銀に現を抜かすは下の下とな」
耳障りな揶揄を聞き流そうと尾を一打ちしたものの、全身無数に刻まれた傷が脳天まで響き苛む。
ひび割れ剥がれた銀灰の鱗を踵で蹴って、小柄な魔物はけらけらと嗤った。
「地の果てまでも荒らし尽くしたと畏れられたさしもの暴竜も、先読みの前には無力だなあ」
じゃらりと、石肌がこすれあう音が聴覚に突き刺さる。
せめてもの反抗に、渾身の力を込めて打ち下ろしたつもりが、長い尾はひたりと弱い音を立てて地を這っただけだった。
巨竜をふみつけ、童子の姿をした魔物が高らかに笑う。
「無駄だよ。もうお前の力はこの大陸では使えん。その腹に埋めた宝玉が、この大陸の力と反発してお前の力を拒む」
くっくと喉を鳴らして喜ぶ姿は愛らしく、硬い竜の鱗を素手で引き裂けるようには見えない。
細い指がくすんだ灰色の鬣をつかんで、巨きな頭を楽々と持ち上げ、背の上の自分と目を合わさせる。
「東の島に渡るがいい。あちらはここほど大地の力が強くない。力を失ったお前でも暮らせるだろう」
長くしなやかな白い髪が、細い肩を滑り落ちた。
小づくりの貌のなかで、不釣り合いなくらい大きな蒼い瞳がぎらりと哂う。
「あさましき竜如きが、我が一族に牙を剥こうなどと思い上がるからだ。餌と蔑む亜人のなかで、同じように地を這って生きるがいい」