遭遇。
「俺の目を見て立っていられるのか。珍しいな」
光を反射しない、漆黒の目をしたその生き物は、わずか顎を上げた。
動きに合わせて白い髪がざらりと肩から滑り落ちる。
狼すらも笑うというのに、目の前に立つ『人間』の姿をした異形は、喋る以外の形に口を動かさない。
数十の槍に囲まれた時も、同数の戦士をまたたくまに屠った時も、感情は全くみせなかった。
ふん、と息を吐く音がした。
「東の亜人にしては魔力が高いな。まざりものか」
闇の目が、つま先から頭まで幾度か往復する。
ただ顔にはりついているような目と口だが、どこか見下げた気配がした。
「父も母も人間よ。魔力は父譲りかしらね」
恐怖ではなく反抗心を込めて睨み返す。
東大陸一の魔法使いと言われた父には、色々言いたいことはあったが、この尋常でない魔力を与えてくれたことだけは感謝だ。
ついでにいうなら、西大陸の魔物相手に平然と口を聞ける根性も。
気抜けになるでもなく、狂乱もしない亜人の雌を、魔物はじっくりと眺めた。
四肢は細いが、亜人ならそんなものだろう。
寿命の短い亜人の中では、若いほうのようだ。
魔力の高さは、西の亜人に混ぜてもそう低い方ではない。
気まぐれに東に渡って、ほんの短期間で見つけたとはとんだ拾いものだ。
ふん、ともう一度鼻を鳴らす。
「悪くない」
蛇が鎌首を延ばすような動きで、雌の顔に近付いた。
顔色は変えず、訝しげに眉を寄せる雌の匂いを確かめる。
悪くない。
「交配相手が見つかるとは思わなかったな」
予想だにしない言葉に、女はぽかんと口を開けた。