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5話 魔王VS勇者






 何時もの時間、いつもの場所に魔王が現れる。



「……」



「魔王、元気になったんだね」



「……の、だな……」



「え?」



「……いや、何でもない。始めるぞ」



「いいよ。こちらは何時でも構わない」



 勇者の言葉を受けて、魔王はマントを翻す。

 神妙な魔王の様子が気にかかる勇者だったが、あまり気を使うと魔王が怒るだろうと気に留めない様にと心掛ける。

 極力普段の言動を意識して、『神剣グランバール』を手に持ち魔王の後を追う。

 草木もない広場の中央にたどり着くと、魔王は反転し勇者を見つめて宣言を掲げる。

 戦闘開始の前口上は、どちらが始めたか気が付いたら定着していた。



「今日こそ、余が勝利をおさめこの戦いに終止符(ピリオド)を打つ」



「引き継いだ思いの為、決して負ける訳にはいかない! 『神剣グランバール』力を貸してッ!」



 勇者は気勢をあげる。たった一度でも負ければ、玉座を明け渡す事になるのだから気も入ると言うモノだった。

 グランバールを抜き、その刀身をマナによって輝かせる。

 先手必勝とばかりに魔王が駆け出す。普段は、中距離を主体とする魔王にしては珍しい行為に、勇者が警戒を強め迎え撃つ構えを取る。



「玉砕覚悟? 策があったとしても接近戦は愚策だッ!」



「……ぬかせ『ダークセイバー』」



 魔王の右手首から、漆黒の刃が生まれた。

 振りかぶり、上段から勢いをつけた斬撃は、グランバールで簡単にはたき落とされる。

 素人よろしく、愚直な魔王の剣筋は難無く対処され、最初の一合で勇者は魔王の力量を完全に把握した。



 魔王としても、ハナから近接戦闘で勝ちを拾えるとも思ってはいなかった。

 けれど上に下に、右に左に、大振りな一撃を力任せにぶつける。

 勇者は、魔王の攻撃を弾き、流し、受け止めた。涼しい顔の勇者に対して、既に魔王の息はあがり、寒空の元で汗をかく。

 十合にも満たない剣舞で、魔王の腕は痺れ勢いが格段に落ちてしまう。

 頃合か、と、勇者が弱った魔王に、重く鋭い切り返しを放つ。ギリギリで漆黒の刃を盾にして、辛くも防いだが魔王だが吹っ飛ばされてしまった。



 空を飛ぶ中、追い打ちする勇者の姿を視界に捉えた魔王は、地面に打ち付けられながらも左手を突き出す。



「くっ、『コズミックイレブン』!」



 距離を詰められる前にと、牽制の黒球を撃ち出した。

 『光波斬』の掛け声と共に、あっさりと勇者は全ての黒球を破壊する。

 地を這いながら、魔王は焦る心を抑え込み、負けじと次なる一手を披露した。



「『シャドー・サーヴァント』」



「本当に、器用だよッ?!」



 複製された影の魔王が5体現れ、勇者は驚きの声をあげた。

 それぞれの魔王は右手に漆黒の刃を生やしたまま、勇者に向かって走る。

 無防備に斬りかかってきた一体の魔王を、グランバールの露にした。



「魔王よりも格は下じゃッ、烏合!」



「『コズミックイレブン』」

「『コズミックイレブン』」

「『コズミックイレブン』」

「『コズミックイレブン』」



 勇者を囲んでいた魔王の影から、44個の黒球が生まれ勇者に向かい殺到する。

 さすがに本物の魔王程の威力はないのだが、数が数で迎撃に間に合わず、勇者はいくつかの被弾を許してしまう。

 土煙の上がる中、勇者はグランバールにマナを注ぎ込み、力を解放し大地に突き立てる。



「『神剣グランバール』我が奇跡を糧に、顕現せよ『光在(あまねくそばにあれるひかり)』!」



 グランバールを突き刺した地面から、吹き出る様に青い光が大波と衝撃を混ぜ込んで影達に襲いかかる。



「『ダークヴェー』」

「『クラシックヴェ』」

「『ナイトヴ』」

「あの、余の分が」



 影を消滅させた勇者は、地面からグランバールを抜き、魔王に引導を渡すため向き直る。

 しかし、魔王の姿が何処にもなかった。



「……本物は?」



 誤って影諸共消してしまったかと不安になる。

 では、何処に行ったのか? 答えは、城の天守閣の上にあった。

 シャドー・サーヴァントを創り出し、魔王は直ぐ様戦線から離脱していた。

 近接戦闘で切った張ったも、影を使ってみせたのも、全ては目くらましだった。正面からでは、どうしても魔王の分が悪い。近接戦闘が得意ではない魔王には、最も効果的な位置は、中距離から遠距離に集約されてしまう。

 勇者から距離を取り、11個の黒球を生み出し集中を続ける。



「廻れ……廻れ……輪廻の果てより、生命の礎よ」



 11個の黒球が、魔王の周囲をゆっくりと旋回し始めた。

 魔王の眼下では、一体の影が切り捨てられ残りの影達が勇者を取り囲んでいる。

 長い時間もたないと分かっているが、時間稼ぎに創り出した影の不甲斐なさに集中が危うく途切れそうになる。

 焦りを抑えて、魔王は自らの自省を高めながら、ゆっくと意識しながらイメージを組み立てて行く。

 マナの万能なる所以は、使用者の意思に強く左右されるが、それは、ありとあらゆる変化を可能とする所にあった。

 それだけに、扱いが難しい事もまた問題になる。



「螺旋の妙よ。絡み合う二重螺旋の最奥に、汝と余の結合を待たせよ」



 球体だったコズミックイレブンが、楕円形に変化をしつつ旋回するスピードを上げていく。

 下では、魔王の影達が勇者の範囲攻撃になす術無く消え去った。



「余が望むは、完全にして至高なる一なり――――『タイプ・スパイラル・ワン』」



 魔王が頭上に握った右手を掲げると、旋回する11個の黒球が溶け合う様に一つの黒球になった。

 相当の集中を要していたのか、創り上げた瞬間に膝が下がる。

 慌てて自分のいる場所を思い出して堪えた。ここは天守閣、地上より雲の方が近い場所である。



 固めた右手を銃の形にして、標的の勇者に狙いを定める。

 勇者は地面に刺した剣を抜き、魔王を探していた。

 疲労から来る右手の揺れを、左手を添える事で抑え。



「――――『バァースト』ッ」



 拳大(こぶしだい)の黒い(やじり)が射出される。

 重低音が鳴り響き、勇者が魔王に気付いた。

 舌打ちが思わず出てしまう。練習では、これ程の音は出なかったハズだったが、本番で力を込め過ぎた為か勇者に気付かれる愚を犯す。

 ままよ。と、黒い鏃を追い駆ける様に天守閣から飛び降りた。

 避けるか、防ぐか、勇者の取る対応に追撃を加える為に、疲労の体に鞭を打つ。



 空を裂き、錐揉みを続けながら魔王の黒い鏃は飛翔し、勇者目掛けて一直線に向かう。

 音を拾った勇者は、瞬時に対応を開始した。

 刀身に集めたマナは溢れ出す程で、未だ遠い魔王の目もってしてもハッキリと分かってしまう。

 まずい、と。 



「『神弓グランヴォー』我が奇跡を糧に、顕現せよ――――」



「は?」



 勇者の掛け声に従うように、神剣がその形状を弓へと変化させた。

 なにいってんだこいつ? と、落下中の魔王は、勇者の行動に現実を直視出来ないでいた。

 なお、勇者の手に持つ和弓に近い、持ち手の身の丈を超える長い形状の弓からは、勇者特有の青白いマナが収束していく。



「『浄可(しりぞけたまえこれなるもの)』!」



 なんと言う事でしょう。勇者が撃ち出した大きな閃光は、瞬く間に黒い鏃を飲み込むと、後追いしていた魔王諸共巻き込んでしまったではありませんか。



 そして、天に向かって放たれた光は、巻き込んだ障害物を一欠けらも残さなかった。

 今度こそ本当に、魔王を消し飛ばしてしまったと思った勇者は冷や汗が止まらない。

 危なかったとは言え、手加減なしの気合の篭った一撃を放ってしまったのだから。



「くっくっく、よもやあのような切り札を隠し持っていたとはな。だが覚えておれ勇者よ! 余は見たぞ、知ったぞ! この次にはか――――バヒュン」



 背後から、最初にぶった切った影の魔王の上半身が、負け惜しみを口上にあげるも言い切る前に消滅してしまった。

 一種ホラーな体験を味わった勇者は、びっくりしながらも無事っぽい魔王に、ほっと安堵の息を漏らすのだった。






 ここまで読んで頂き、有難う御座います。


 勇者の神剣は、神弓にも変化します。いわば『御徳用十徳ナイフ』みたいなもんです。プルトップが主流になり、缶切りが不必要になりつつある昨今、たまーにプルトップのついてない缶詰を、間違えて買ってしまった時、非常に有用な効力を発揮するのがこの神剣です。ピバ。


 詠唱に関してはノリです。

 自身を高揚に置き、精神を高きに上げる事で、一種トランス状態に移行させる。

 いわばノリです。


 ご指摘、罵倒ありましたらよろしくお願いします。



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