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3話 魔王VS勇者+警官





「まだまだぁ! 唸れ厄災(やくさい)(たぎ)れよ『カラミティトリガー』!」



 魔王が右手を天に差し出すと、地表から黒い間欠泉が噴出す。

 扇状に展開し、標的の勇者目掛けて襲い掛かった。

 取り囲むように迫り来る黒波に動じた様子はなく、上体を捻り神剣グランバールの柄を腰に当てて剣を水平に構える。

 次の瞬間、溜めに溜めた上体のバネを利用して横薙ぎに神剣を放つ。

 魔王の放った黒い間欠泉を、まるで笹木を刈るように真っ二つにした。



「今日は粘るじゃないか魔王! けれど神剣グランバールがある限り、時間の問題だ!」



「ぬかせ、余の力見縊って貰っては困るぞ! 『ネイルショット』!」



 魔王が杭を生み出し、昨日の要領で地面に打ち込んでいく。

 まだ勇者の中では記憶に新しい為、自爆の二文字が脳裏によみがえった。

 迂闊に近寄り、また巻き添えを貰ってはいけないと、守勢に回り様子を伺う。



「ふん、昨日無傷だったクセに臆病風に吹かれたか? 勇者よ」



「安い挑発だね。例え無傷だろうが、魔王が同じ事を繰り返す訳もないだろう?」



「信用されたものだ。まぁいい、これだけ時間を稼げれば十分と言うもの。驚天せしめよ『コズミックイレブン』!」



 正眼に神剣を構えている勇者に向かって、魔王は十八番を繰り出す。

 勇者としては、過去に何度も打ち込まれ見知った魔法に、疑問符が頭の上で点灯した。

 しかし、目の前で成長していく黒球を見て、疑問は氷解する。そして、防御に回った事が悪手と理解した。



「どうした? まだ来ないのか? その慎重さ、敗北のフラッグと知れ! 『レヴォリュート』!」



 6cm程の大きさだった黒球は、既に20cm程の大きさまで成長していた。

 掛け声と共に、膨れたコズミックイレブンを撃ち出す。

 (けん)に回っていた勇者は、迎撃の体勢に余裕を持って移るも、今一つ腑に落ちない疑問がシコリのように残っていた。



(確かにあの大きさなら脅威だけど……以前と変わらず、真っ直ぐに撃ってくるだけじゃ)



 神剣の力の解放をもってしても容易い事ではないが、それは苦労する、と言うだけであって、打ち消せる事を魔王が理解していないハズがない。

 そして、毎度毎度懲りずに挑んでくる度に、前回と同じ手法を取らないバリエーションの多い戦い方を、勇者は幾度となく味わってきている。

 警戒を怠らずに、自身の内に湧く奇跡のマナを神剣に送り込む。



「余の妙技の前に、警戒は不能! 『ディスパージ』!」



 合図と共に、11個の黒球が八方に分散した。

 向かってくると思っていた黒球が、的を外したように散っていった為に、勇者は呆気に取られた。

 今度こそ、理解が追いつかず動かそうとした足を止める結果となる。



 しかし、勇者の止めた足を動かしたのは、目の前で散ったハズの黒球だった。

 突如として背後から襲い掛かかる黒球に、体を捻りなんとか回避に成功する。

 難を逃れ目を見張ると、散らばった黒球が杭を利用し跳ね回っていた。その内の一つが勇者の背後から強襲したのだった。

 息つく暇もなく、別の角度からまた黒球が現れる。

 ここに来て、ようやく魔王の狙いを察した勇者が焦った。



「ふはっーーーーはっはっは! ようやく気が付いたか勇者よ! 杭に跳ね返る11個の黒球は、もはや余の制御下を離れた。不規則に、そして縦横無尽に駆け回る高威力の黒球は、杭に当たる度に速度を上げていくぞ!」



(厄介な! 自分で操っていない分、軌道が全く読めない! それに徐々に速さを増して避け難い。迎撃すれば、普段よりも強力な黒球を至近距離で浴びてしまう。うまく相殺しても、打ち壊した時に出る風が土煙を巻き起こして、他の黒球からの強襲を更に有利にしてしまう)



「逃げられはせんぞ、勇者。荒くれる黒球は、どんな障害だろうと構う事なく、この場に居る者に襲い掛かる! 逃げ場はなし! 速度はドンドン増す! ――――余の勝利だ!」



「……それって」



「なんだ命乞いか?! いいぞいいぞ! 実に心地よいわ!」



「魔王も危ないんじゃ……」



「……」



「……」



「え?」



 加速は加速して、視認出来る速さを超えた黒球が、偶然、何の因果か、全て揃って魔王に向かってきた。

 魔王を爆心地として巻き込んで、爆風が天に昇る。



「勇者よ、よくぞ余の策略を打ち砕いた! 今日の所はこの辺で勘弁してやるぞーーーー!!」



 目を点にして、空に消える魔王を見送った勇者は、歯切れが悪く頭をかいた。



「あ、うーん……無事だといいな」











「こんな……こんな事があっていいハズが……完璧な作戦が……」



 策士策に溺れた魔王は、痛む体を引きずって城下町を歩く。

 余程今日の結果がお気に召さなかったのか、時折そびえ立つ天守閣に向かって威嚇をしている。



「ねぇ~ママー。あのおじちゃんお城に向かってほえてるー」

「しっ、関わっちゃいけません。噛まれちゃうわよ」

「んー、ワンちゃん?」

「春の期間が近いから、あーいった危ない人が出てくるの。声を掛けられてもついてっちゃダメだからね」

「はーい」



 通行人のやり取りに気が付かない魔王はとぼとぼ歩く。

 まだ日も高い為に、下拵えで出る食料(ごみ)を漁る事が出来ない。

 そうなるとやる事がなくなってしまう、暇を持て余した魔王は、まず根城を探す事から始めた。



「今晩の宿を決めたら反省会だな……パレス創るくらいなら夜までには回復してるだろうし」



 ついつい出てしまう独り言に気付く事なく、先日お世話になったばかりの公園を目指して足を上げる。

 しかし、傷付き疲労を纏う魔王に、安息はなかった。到着した魔王は公園で絶句する。



「『浮浪者の不法占拠を禁ずる』だとぉぉぉぉ!? 馬鹿なっ、こんな事あっていいものか!」



 無慈悲な立て看板が突きつけられた。

 両膝から崩れ落ちるように、地面に手を付き嘆く。そこで魔王は、ある可能性に行き着いた。



「まさか、これは勇者の仕業!? 卑劣な、『金環食の王』ともあろう者が、こんな小細工で余を圧するとは……なんたる事だ」



 むしろ小細工を常套手段にしているのは魔王だったが、自分の事を棚に上げて勇者に恨みの炎を燃え上がらせる。

 しかし、文句を言うべき相手はここにはいない。吠えたはいいが虚しくなり、元来た道を引き返す。

 下を向いて歩き始めた為に、背後に居た人間に気が付かず、案の定ぶつかってしまった。



「むぅ、すまない。前を見て――――ほわっ?!」



「歩く時は顔を上げて歩く事だ」



 いつもの警官が、肉食獣を思わせる顔つきで魔王に微笑みかける。

 心の準備が出来ていなかった魔王は、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 両肩に手を置かれ、逃げられないようにがっちりとホールドされた魔王は、今なお笑顔を見せる警官に(おのの)く。

 『笑顔とは本来攻撃的なものである』そんなフレーズが魔王の頭の中をリフレインする。



「な、なんの用だ。今日はまだ何もしておらんぞ」



「何、未来ある若人(わこうど)を指導するのも、本官の官職の内でな。いつまでも職なしではいかんだろう。その才、如何なく発揮させたくはないか?」



「愚問だな。余は魔王ぞ! 既に席は予約済み、それも極上の椅子がある!」



「確かに貴様には才と力があるのは認める……が、だ。貴様が思っている以上に『魔王と勇者』の席は遠い。アレらは生まれた瞬間に決まるものであって、後から追いかけて追いつくモノではない」



「ふんっ、そんな事を決めるのはお前ではないわ。白髪交じりのダンディーなロマンスグレーを更に後退させたくなくば、もう余に構うな」



 罵声にならない微妙な文句に、毒気を抜かれた警官が溜息と共に手を離す。

 胸ポケットから煙草を取り出して、魔王の目の前で軽く上下させる。

 いらん。と、手を振り煙草を断ると、警官は一本抜き出して火を点けて肺に紫煙を溜め込む。

 空に向かって煙を盛大に吐き出し、似合わない笑顔を引っ込めた。

 たったそれだけで、場の空気が入れ替わる。



「そうか……また何時も通りになってしまったか」



「相入れぬならば、仕方なし。余は、余の道を譲る事は出来ぬ」



 ジジジッ……と、根元近くまで一気に吸い込み、警官が煙草を指で弾く。

 お互いの距離は大人の足で五歩。既にすり足を使い、各々の間合いを作り出していた。

 空を舞う火の点いた煙草が、ぶつかり合う両者の視線の前を落下していく。

 警官は溜めた紫煙を吐き出し、帯刀する柄に力を込める。

 魔王はマナを汲み上げ、思考を活発に動かし油断なく構える。



 煙草の煙が尾を引く。



 そして、落ちた。



「『刹那射ち』!」



「なっ!?」



 油断などしていなかった。しかし、魔王が動くより素早く、居合抜きの要領で抜かれた片刃は、鎌鼬以上の速度をもって魔王を穿つ。

 まるで音を置き去りにした攻撃に、堪らず魔王が吹っ飛ぶ。

 日頃の食生活事情を伺わせる痩身は、枯葉のように舞いながら公園の地に打ち付けられながら転がる。

 急いで上体を起こすも、胴体の中心をハンマーで打ち抜かれたようなショックに堪えきれず両手をつく。



「やばっ……」



「思ったよりも傷が浅いな。何をした?」



 警官は手応えの軽さから怪訝な顔をする。

 鎌鼬が線の斬閃に対して、刹那射ちが点の打突だった事が理由の一つ。二つ目は、疲労の溜まった両足が踏みとどまれなかった事。

 そして、衝撃を受けた際、汲み上げ途中のマナが漏れ出て、防御の役割を果たした事。服の強度もあれど、警官は知るすべがない。

 事前に何かしらの障壁を張っていたかと、当たりをつけるも、勝負は最早決着を見せているかのようだった。



「ま、ま……えっふえっふ、え”ぇ”ぇ”……あぁぁはぁ」



「『まだまだ』か? 安心しろ。初めて行く職場の空気など、通い慣れればどうと言う事はない。まずは積極的に挨拶を心掛けるだけでも」



「じゃかあぁぁしぃぃぃぃ! 妙な親切心を働かせるな!? 『カラミティ』!」



 痛む胸を堪えて、『初めての職場』の心得を語る警官に噛み付く。

 地面に置いた両手にマナを込めて打ち込んだ。

 警官は咄嗟に構えを取り、つま先に力を集めて万全の体勢を整える。



 メキョッ。と、気の抜ける音と共に、警官の一歩先から地面を割る様にして、水鉄砲程の勢いの黒い水が出た。

 疲労困憊で、今なお荒い呼吸を繰り返す魔王の残念な抵抗に、マナの底が突いたかと、無造作に一歩を踏み出す。

 頭の中では、既にどの職種に放り込んでやろうかと算段を立てている。



「『トリガァァァァァァ』!」



 自分の踏んだ地面から、勢い良く黒い間欠泉が吹き荒れた。

 文字通り、足元を掬われた警官は、キレイな円を描いて地面に頭を打ち付ける。

 小石の類が無かった事が不幸中の幸いだが、土に後頭部の魚拓がくっきりと取れた。



「愚かなりポリ公! 余の力を舐めるでないわ! しかし、傑作な動作よな? 豪快にすっ転んだ今の気持ちを正直に述べてみよ!」



「き、さま……!」



「ほれほれ、遠慮する事はない。間抜けな転び方をした素直に感想を述べてみよ。ん? ん? はーーーーはっはっはぁっ!」



 警官の糸目の端から覗く瞳が、不穏な色合いを纏う。

 行動不能に陥っている間に、さっさと逃げればよかったのだが、五月晴れのような清々しい心持ちの魔王は、完全に有頂天になっていた。

 勇者との戦いで、不完全燃焼だった心持ちが悪く手伝った結果かもしれない。



 人は時に、急成長を見せる。何かの拍子にタガが外れるとも言う。

 ゆらりゆらゆらと警官が立ち上がる。

 冷静な時の魔王ならば、警戒を強め即座に逃げを打つくらいの事は出来たのだろうが、いかんせん、酩酊にも似た心境に立ち上がる瞬間の警官を見逃した。



「『無双・乱風(らんぷう)』」



 自然な動作で、水を掬うように下から上に両手を交差させた警官から、特大の暴風が巻き起こる。

 旋風(つむじかぜ)を千集めたかの如き風は、引き攣る顔の魔王を消し飛ばした。

 風がやむと、そこにはエグれ地形の変わった公園だけが残る。

 冷や汗と後悔に、忘れかけていた感情が蘇る。実に新鮮な感情は、苦い表情(かお)に塗り潰されていた。



「まさか、この年になって『達人級(マスタークラス)』に達しようとは……しかも、こんな事で」



 精神を落ち着かせる為に、懐から一本の煙草を取り出して火を点ける。

 目線を下に落とした時、魔王が創った間欠泉の穴から、黒い水鉄砲が吹き上がり警官の靴を汚す。

 紫煙を吐きながら、魔王のしぶとさに呆れた。






 ここまで読んで頂き、有難う御座います。


 魔法のランクが行き成り出てきました。以下説明っ!


初級:ほぼ全員が使えるランクです。各種属性がありますが、得手・不得手の境なく覚える事が出来ます。特にキーワードを必要としません。火ならばマッチ程度、水ならば10cc程度。大体、家庭で親から教わります。


下級:得意・不得意が出てくるランクです。学校の授業で出てくるので、苦手でも頑張って覚えましょう。努力すれば全属性コンプリート出来ます。


中級:一般教養クラス。ですが、努力では覚える事が出来ない属性が出てきます。得意な属性に絞って練習しましょう。苦手だからと言って、覚えなくていい訳ではありません。実技はともかく、筆記では他の属性の問題も出題されます。


上級:いわゆるエリートクラスです。ここまでくると就職で優位に立てる事まず間違いなしです。中級から上級に上がる壁は分厚いのですが、努力を惜しまない事が重要です。


達人級:エリートを越えたエリートクラスです。マジパネェっす。


伝説級:パ、パ、パネェッス! 歴史に名を残せる事間違いなし! これで明日には教科書に名を連ねるハズです。いやー、すごいですね。


千年級:ここが魔王と勇者の平均クラスになります。一般の方は巻き込まれないように注意が必要です。逃げろ。


×××級:神様一歩手前のクラスです。もしかしたら神様からお誘いがあるかもしれません。身嗜みはしっかり整えて正座しましょう。ただし、本物に幻想を抱いてはいけません。もし出会っても、自分の中の想像する神様を、神様に押し付けないように気を付けましょう。


 魔法のタイプの説明ッ!


定形型:教科書に書いてあるキーワードを使いマナを操ります。一般的なタイプです。


閃き型:ふとした切欠で、頭の中にキーワードが浮かび上がるタイプです。こちらは定形のタイプにはないオリジナルのキーワードになります。自分だけの魔法を見つけましょう。


 どうやってランクアップが分かるの?


指導によって:教えを請う人に承認を貰う。上級の人だったら、下級の承認まで許可出来ます。上級以上は、ちゃんとした国家試験を必要としますが。もちろん上級の人から承認を貰ったからと、それが公的に通用はしません。仮免扱いで、公式に下級の国家試験を受ける事が必要です。


国家試験によって:年2回の国が主導する試験を合格する事で、免状が渡されます。またランク以外にも、専門ランクなど細分化されています。


自覚によって:閃き型に通ずるモノがありますが、何かしらの切欠で突然ランクが上がる事があります。こちらは、伸び悩む人や、自分のスタイルを完成させた人に多いです。原因はバラバラで、意図して上げる事は出来ません。なので、『(神が)降りた』などと表現する人もいます。


 ご指摘、罵倒ありましたらよろしくお願いします。



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