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2話 魔王VS警官






「くそぅ、なんだアレ。自爆特攻でも傷一つないってバグってんだろう……」



 今日の反省点を愚痴に零して、夕暮れに染まる城下町を魔王は歩く。

 愚痴の通り、自爆覚悟で勇者を巻き込む作戦は、敢え無く潰え肩を落とす。

 愁歎(しゅうたん)に暮れる魔王の横を、今日の労働を終えた帰宅者が次々と追い抜いていく。



 整った石畳から頭を上げて、溜まっている鬱憤を晴らすように、暮れなずむ太陽に向かって吠える。



「次こそはっ、次こそは勝つ! 首を洗って待っておれ、余は、余は挫けぬぞぉぉぉぉ!!」



「ねぇ~ママー。あのおじちゃんどうしたの~?」

「しっ、指を指すんじゃありません。ほら帰るわよ、お夕飯に間に合わなくなっちゃう」

「はーい、今日のご飯なに~?」

「いいお肉が手に入ったから、シチューにしようかしら」

「本当ー?! ママ、早く帰ろう~!」

「こ、こら、急に引っ張るんじゃありません」



 わずかに目を向けた者もいたが、皆足早に帰宅を目指す。

 仕事が終われば、疲れた体を家で休めたい、そう思うのは誰であろうと一緒だろう。

 家庭を持ってる者は家族の待つ暖かい自宅に、独り身の者は仕事の憂さを晴らすため、徒党を組んで居酒屋に繰り出す。

 どれもこれも、城下町の日常だった。



「一種、異様な光景よな……」



 そろそろ見慣れた光景と言っていいのだが、魔王に取っては未だ違和感が拭えなかった。

 それは、街の光景であり、人の姿に起因される。



「城は日本建築、家屋は西洋煉瓦……行き交う女性陣はズボンのみ。ついぞスカートの類は見受けられんとはな」



 別に女性の服装に特に拘りなどない魔王だったが、培ってきた価値観もあってか居心地が悪い。

 へんてこな和洋折衷の街並みは、魔王に観光地の印象を強く与え、その事に自分一人だけが違和を感じている件に、湧き上がる遣る瀬無さを噛み締める。

 ここ最近は口にする程ではなかったが、心理的に少し慣れの余裕が出てきたのだろうか、こぼれた愚痴を仕舞い込み、魔王は気持ちを切り替えて日課を始める事にした。



「よし、差し当っては夕餉を確保するとしよう……今日は。おっ」



 首を回して目を凝らすと小料理屋だろうか、エプロンを付けた男が樽を担いで路地裏に出てきた。

 樽の並ぶ場所に、新たに持ってきた樽を並べ、煙草を取り出し一服を始める。

 魔王を物陰に隠れ、男の挙動を黙って見守っていると、勝手口から別の男が出てきて、一服している男を殴りつけ引っ張っていった。

 チャンスとばかりに、気配を消して目的の樽まで接近する。



「幸先がいいとはこの事。今日は一番乗りではないか……くふふふふっ」



 タイミングが悪ければ、先客が目星い物を漁って、魔王が覗く頃にはロクな物が残っていないが、今日は先に見付けた為存分に食料(ごみ)が樽の中にあった。

 今し方出された食料(ごみ)は、先程まで厨房で捌かれた物だろう。質の高い鮮度を保ったままで、魔王は笑いを堪えるのに必死だった。



「感謝するぞ。これならば腹が存分に膨れようと言うもの――――ほう、野菜の切れ端に、肉の筋か。よしよし、確保っ確保だ! おぉ、この魚の骨にはまだ肉がよく残っておるぞ。下手くそめが、今日の所は褒めてやろう」



 宝の(なまごみ)に目を輝かせる魔王は、熱中していて背後に忍び寄る気配に気が付かなかった。

 糸目にも見える険しい目付きに、高身長を誇る痩けた頬の男は、腰にぶら下げた帯剣に右手を当てて第一声を放つ。



「貴様、そこで何をしている」



 疑問符が付かないのには、魔王の行動が一目瞭然だったためであった。

 言わば職務上の規定を踏んでいるに過ぎなかった。

 魔王は我に返ると、小さく舌打ちして飛び退り距離を取る。



「おのれ、またもやお前か! 何度余の邪魔をすれば気が済む!?」



「黙れ。迷惑防止条例に則り、貴様を取り締まる。無駄な抵抗をするな、素直に従えばネコマンマくらいは出してやる」



「余を愚弄するかっ! 国家権力の狗めが、余を誰だと心得る!? 聞けよ走狗、見よポリ公! 余は、 魔 王 であるぞ!」



「分かった分かった。職業斡旋所にも案内してやろう。その年で住所不定無職では、妄想に走りたくなる事も理解出来る」



「理解しとらんじゃないかー! この石頭めがっ、しょうがあるまい――――『シャドー』」



「『極・鎌鼬』!」



 魔王がマナを操作する途中を遮り、警官の風属性の斬撃が一閃した。

 抜刀から放たれた風の斬閃が、魔王に襲いかかる。

 瞬時にマナ操作をキャンセルし、黒いマントに操作途中のマナを流れる様に繋ぎ合わせ、もって翻し防御に当てた。

 風の斬閃をマントで散らした為に、狭い路地裏のほこりが突風に煽られ視界を悪くさせる。

 好機と見て取り、魔王は逃げの一手を選んだ。



「『ナイトヴェール』これは戦略的撤退! 『ブラックボックス――――』」



「『三連・鎌鼬』!」



「だぁぁ! 容赦なさすぎだろうがこのポリ公! 『バック・ザ・トラベルタ』!」



 前もって張っておいた障壁がなければ、立て続けに放たれた風の斬閃に見舞われていただろう。

 間一髪、転移が間に合い、黒い正方形の闇が魔王を飲み込む。後に残るは、警官と樽の蓋だけだった。



「またしても逃げられたか。あれ程のマナを扱いながら……もったいない」











「酷い目にあった……おかげでマナがスッカラカンじゃないか。この分では家は出せんかもしれんな」



 すっかり暗くなった空の下、とぼとぼと肩を落として魔王は歩く。

 警官に襲われたセイで、目当ての食料(ごみ)を取り零して、彼の手には野菜の切れ端と魚の骨だけになっていた。

 人参の皮を齧りながら、今日の宿を求めて疲れた足を引きずる。

 ふと目に入った公園を見回す。



「確かここは……」



 昼間ならば子供の声が賑わう場所も、夜の公園ともなれば人っ子一人見当たらない。

 大きな木よりも、膝ぐらいの植え込みが多く、芝もある事から丁度いいと本日の宿と定めた。

 死角となる植え込みを選び、腰を落ち着けて安堵の溜息を漏らす。

 安堵の中には、縄張りを示す目印に見慣れたモノがあったからと言う理由もある。宿無し共であろうと、色々と守らなければならない暗黙があるのだ。



 野菜の切れ端を、ガムのように噛み続けていたが、メインディッシュの為に勢い良く飲み込む。

 懐から魚の骨を取り出して、体の中の少ないマナを使って火を起こす。軽く魚の骨を炙り、まずは残り身を食らう。



「あーうめー。でも、塩欲しかったなー……贅沢は敵、贅沢は敵」



 ぶつくさと文句と自省を呟き、骨身をしゃぶる。

 10分かけて骨身を味わうと、再び火を起こして魚の骨をこんがりと焼き上げる。

 芯まで火を通した魚の骨を、口の中に放り込み奥歯を使って丁寧に噛み砕いていく。

 49回顎を動かし、名残惜しげに飲み込んだ。



「……寝るとするか。『キングオブ・サタン・パレス』」



 大きな月影の下、高らかに両手を持ち上げるが、魔王の周りは何も起こらず静かな夜陰は変わりない。

 やっぱダメかと嘆息し、マントで体を包むと芝生に転がる。

 まだ2月の中頃、冷気が降る公園の中、噛み合わない歯を堪えるように身を縮めた。

 便利なマントがマナの回復で、使用者を寒さから守り始めたのは、1時間のちの事だった。






 ここまで読んで頂き、有難う御座います。


 この島『グラウンド』では、スカートは禁止され製造が許されていません。

 ですので、全員ズボンです。上は、シャツがスタンダードです。

 なぜ禁止されているのか、作者には分かりません。えぇ分かりませんから。

 ちなみに、女性は袖や裾に細工を好み、明るめの色が多いです。

 逆に男性は、女性の主流とかぶる様な服飾は、例え個々人の好みであろうと、白い目でみられるかもしれませんか。


 基本、他所の島との交流はないです。


 ご指摘、罵倒ありましたらよろしくお願いします。


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