表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

苦悩

2メートルの脚立。会長宅の衛星写真。歯医者は俺の希望した物を用意した。1つを除いて…。


「脚立はホームセンターで、衛星写真はネットの地図検索で。でもね、ブルドーザーは簡単には用意が出来ないよ!」


正面をアクセルを固定したブルドーザーで潰し、そっちに奴らが気をいってる間に裏から会長を仕留めるという俺の計画が台無しになった。


あさって決行だ。どっかで大道会の幹部のパーティが開かれるとかで会長の家の護衛が減るらしい。だがこの計画通りに行かなければ、正々堂々と撃ち合うことになる。


一体どうすればいいのだろう。俺はふと視界を感じた。おっちゃんだった。彼は心配そうな顔で見ていた。あ、確か彼は大型特殊の免許を持ってるとか…。


「おっちゃん、頼み事があるんだ。明日までにブルドーザーは借りれないですか?」歯医者は突然大声を出した俺に驚いた。そしておっちゃんも目を見開いて驚いた。


「あぁ借りれないこともないだろう…だが、お金が掛かるよ?」


金なんてどうでもいい!100万も掛からないだろう。掛かったとしても、それ以上を貰えるんだ。気にはしない。「いくらですか、10万くらい?」


「おう、10万もあればブルどころか、それを運ぶトラックも借りてやれるぞ!」思わぬ救世主だ。ありがとう、おっちゃん。歯医者もほっとした様子だ。


「それと簡単に操縦法を教えて欲しい。」おっちゃんは頷いた。


*


あれから丸一日がたっただろう。ブルドーザーの操縦について色々教わったが、俺が知るべきはどれがアクセルなのかといことだけだ。


ついに明日、計画を決行する。まず会長宅の門より少し離れたところからブルドーザーを発進させて…。あ、俺はしくじったみたいだ。発進させて裏手に回るまで


絶対に黒服に見られるだろう。そして黒服は会長の保護なり俺を撃ち殺すなりするはずだ。俺一人では無理な計画だった…。それを歯医者に言うと「僕には出来ないよ」とそっけない返事。


仕方がない。なんとかおっちゃんに知られずに協力させるしか無いみたいだ。俺はおっちゃんを呼び出した。そして紙袋に入った万札の束を彼に見せた。


「これはブルのレンタル代かい?それなら昨日くれたじゃないか。」「いや違う。明日俺はある仕事をする。おっちゃんにはそれを手助けして欲しいのです。」


「ど、どんなことをするんだい…?」俺は全ては言わなかった。ただおっちゃんにやって欲しいこと、ブルドーザーを指定の位置に置いてもらって、それのアクセルを固定して前進させる。


それだけのことをすれば、この20万はおっちゃんの物だと。それ以上は知る必要がない。おっちゃんは渋々了解した。残念だがお金は人の心を簡単に操れてしまうのだ。


「俺が夜までに帰ってこなければ、この鍵で"13番"のロッカーを開けてくれ。中身を全てあげるよ。」おっちゃんは、紙袋に入った20万と鍵を大事そうに抱えた。


*


閑静な住宅街をブルドーザーを積んだトラックが走る。こんなことこの辺では珍しいだろう。俺は裏手に回るため脚立を抱えてトラックから降りた。


おっちゃんがそれを確認するとミラー越しに頷いた。そしてトラックを進めた。俺は走った。到着する時間が遅くても早くても計画は失敗してしまうからだ。


携帯を持っていないおっちゃんには時計が12時を指した瞬間にブルドーザーを発進させるように言ってある。高級な住宅街を脚立抱えて走る奴なんて通報されかねない。


だが仕方がないのだ。もう時計は55分を指していた。走る俺はぜいぜい言い、抱える脚立はカタカタなっている。土方風の格好でもすればよかった。


*


59分。俺は会長宅の裏手に着いた。そして脚立を高い塀に掛けた。遠くに犬を連れた男が見えるが関係ない。時計が12時ちょうどを指した。脚立を駆け上がり、裏庭に飛び降りた。


そこには、遊ぶ小さな子供を微笑んで見守る男がいた。彼は大道会の会長だった。彼を俺に気づくと目を見開いて固まった。そして俺もその場で固まってしまった。


もしこのまま彼を撃てば仕事は終わる。だが、小さな子供、孫だろうか、彼の記憶には俺はおじいちゃんを撃ち殺した悪者として残ることになるだろう。俺は苦悩した。


その瞬間、正面玄関の方から激しく軋む音がした。ブルドーザーが門を破ったのだろう。その音で俺は仕事を思い出した。拳銃を奴に向ける。奴が悪者なのだ。


奴を撃たなければ弱いものが搾取される。あの子には悪いが、この世界に入った者には裁きが与えられるということを分かってくれるだろう。俺は引き金を引いた。奴は倒れた。


小さな子供は泣き喚いた。銃声を聞いてか、それとも子供の泣き声を聞いて奥から黒服が2人来た。「おじき!」黒服の片方は倒れた会長の元へ。もう片方は俺に向かって走ってきた。


その手には何も持っていなかった。彼は涙目で顔を真っ赤に染めて俺に迫る。俺は銃を向けた。それでも彼は足を止めない。俺は銃を撃つ。彼は倒れた。だが這って俺に迫った。


「おじき!息をしてください!おじき!!」這っていた黒服と会長を抱えた黒服を無視して建物の脇から門へ向かうことした。


確かに土地は広い。だが門へ向かう道中は、永遠のようにも感じた。撃ち合いは無かったが、俺の心にはぽっかりと穴が開いてしまった。本当に正しかったのか…。


門には黒服が一人だけ居た。彼を俺に気づくと何かをするでもなく、じっと俺を見つめた。彼は銃声を聞いていたのだろう。だから俺がやったことも知っているはずだ。


彼は頭の中で起こった事の整理ができなくて固まっているのか?それとも会長が居なくなった後のことを考え絶望しているのか?それは俺には分からないことだ。


*


仕事は意外とすんなりと行った。だが帰り道を歩く俺に達成感がない。パトカーのサイレンの音がさっきまで居たところに集まっているのが分かる。


あそこには10分ほどしか居なかっただろう。そういえば、おっちゃんは無事に帰れたのか?もう仕事は終わった関係ないことだろう。とぼとぼ歩く俺。


何人もの人とすれ違ったけど、誰一人として俺が人殺しを犯したとは思っていないだろう。人殺しを犯した?いや俺は正義のためにやったまでさ。みんな俺を褒めろよ!


後ろから車のエンジン音がする。俺をつけてるのか?なぜ俺を追い越さない。狭い道じゃないぞ。余裕たっぷりだ。どうせ運転手は年寄りだろう。どんな顔をしてるんだ?


俺は振り向いてみた。見たことのある車だった。あの警官が乗った黒塗りの車だった。車は停車した。そして扉が開き、中から2人が出てきた。銃を俺に向けながら…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ