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刺激

コンビニに着いた。ラジオが流れてる。レジにはバイト君が居た。よっぽど暇だったのか携帯をいじっていた。この時間帯だしょうがない。


「あ、先輩じゃないすか?どーしたんすか?」


俺の身に起こったこと…凄く話したい。けど「いやーちょっと彼女といろいろあってね。行く場所ないからさ。」とっさに出た言葉だ。


「あれ?彼女居ましたっけ?まぁいいや店長も帰ったし奥でゆっくりしてってくださいよ。」


彼女なんて居ないよ。もし居たらこんな事に巻き込まれなかったよ。コンビニに着いたのはいいけどこの後どうしようか…。


-----「えー今入ったニュースです。輝華町にて射殺されたと思われる男性の遺体が見つかりました。」-----


ラジオから聞こえたニュース。輝華町で射殺された男…あのごつい男のことだろうか。俺は人を殺したんだろうか。せ、正当防衛だったんだ。


-----「なお男性は大道会系鹿野組幹部との事です。最近は暴力団による抗争が問題になっており、この事件も関連している思われます。」-----


このままヤクザ同士の抗争って事になってくれ。けど俺はあの場に財布を落としたんだ。ヤクザが殺しに来るか、警察が捕まえに来るか。警察の方がマシだが。


「先輩、最近この辺も物騒っすよね。強盗とか無理っすよ自分ー。」


はぁ…そうかい。「奥で仮眠させてもらうよ。」何時までもここには居れない。けど体力ももう持たない。眠るしかない。


*


「おい、起きろー」


目が覚めた。携帯を確認する。午前11時。あ、店長だ。「お、おはようございます。」疲れは取れたが紙袋はまだある。夢じゃなかった。


「事情は聞いてるよ。悪いけど昼時は忙しくなるからレジ頼むね。」


「はい、分かりました。」俺は紙袋をロッカーにしまい、制服に着替えた。そして心の整理もつかないままレジに向かった。


忙しい。この辺の会社員は皆この店にやってくる。俺はこの先のことも考えることも出来ず必死こいてレジを打っている。


なんだか情けない。去年、田舎から出てきてアパートの家賃は親持ちだ。23才だぜ。地元の仕事を突然やめてこっちへ飛んできた。なんの宛もなしに。


そしてこんな有様だ。でも今回の出来事は退屈な23年間の人生で最も刺激的だと思い始めてる。だって今までは未来がハッキリと見えていたんだ。


昨日も今日も明日もずっとレジ打ち。永遠にレジ打ち。だけど今はまったくどうなるか分からない。拳銃に殺人…ここに居る客はそのどっちも経験しないはず。


殺人は悪いことだ。だが俺が殺したごつい男は明らかにワルモンだ。奴は紙袋を隠した年寄りのような人間をゴミの様に扱ってるはずだ。そう絶対にそうだ。


いくら殺人でも死ぬのはそういう奴だ。だからこれは殺人じゃない成敗だ。たとえ法が俺を罰しても、みんなは俺が正義というだろう…


「ちょっと手が遅れてるよ!なにしてるんだ!」


店長が怒鳴ってる。しまった俺のレジには長蛇の列だ。また必死こいてレジを打つしかない。もうこんな人生ともおさらばだ。俺は変わるんだ…


*


午後2時。この辺は会社街で住人が少ないため、この時間帯になれば客も少ない。


さっきまで忙しくて気にしてなかったが、新しいバイトがいた。「あ、君、新人?気づかなくてごめんね。」普通は新人側から来るはずだけど…


「はい、そーす!よろしくです!」


そーす…。仕事が出来る子なら良いんだけどな。コンビニの自動ドアが空いた。


「いらしゃーせー!」


「いらっしゃいませ。」だろうが新人君。彼の態度が気に入らなかったのか、サングラスを掛けた客はまっすぐ俺の方へ来た。


彼は持っていた紙と俺の顔をチラチラと見てきた。新人君は面倒くさそうだな、という顔で俺を見守ってる。


「おい、ブツを返してもらおうか。」


彼は持っていた紙を俺に見せた。それには俺の免許書がコピーされていた。ブツとは紙袋のことだろう。警察なら返せなんて言わないだろう。つまり彼はヤクザだ。なんでここがバレた?


「だ、大丈夫すか?先輩」


新人君が掛けよってきた。「悪いけど俺のロッカーから紙袋持ってきて」俺に渡す気はない。サングラスの男はにやけていた。


「なんでバレた?なんて顔をしてるな…俺達、鹿野組はこの辺を仕切ってるんだ。若者一人くらいなら楽に見つけるさ。」


あーそうかい。新人君が紙袋を持ってきた。「俺に渡してくれ」渡された紙袋に手を突っ込んだ。そしてそれをサングラスの男に向けた。彼ははっとした。あの男と同じように。


引き金を引く。銃声が響く。右腕に衝撃。男は腹を抱えながら倒れた。新人君は何が起こったのか分からないのか唖然としている


俺はカウンターをよじ登り、そのまま自動ドアから外に飛び出した。そして走る。今はとにかく走る。コンビニの制服を着た男が必死で走ってる。注目の的だ。ただあの店から遠ざけるためには仕方がない。


*


だいぶ走った。もう疲れた。途中で制服を投げ捨てた。紙袋にはさっきの射撃のせいで穴が開いてる。違うのに入れ替えなきゃ破れてしまいそうだ。


公園が見えた。富士野公園。都内でも最大級の公園だろう。今はもう走る気力が無い。中で休むことにしよう。


公園内には犬の散歩やジョギングをしてる人が多い。さすがに今は人気のないところに行きたい。俺はそのまま公園の奥にいった。


さっきまで居た場所とは雰囲気がまったく違う。ブルーシートで作られたテントが沢山ある。ホームレス村なんだろうか。この公園の影の部分を見た。


「キミみたいのがこっちに来ちゃ駄目だよ。」


1つのテントから頭を出した年寄りが俺に話しかけた。好きで来たんじゃない。けどこっちは人が少ない。今の俺には落ち着く場所だ。「あ、まぁちょっと」言葉が思いつかない。


「なんだい、ワケありか?話だけでも聞いてやろうか?」


まぁワケありだけど、あんたに相談できることではない。でもテントに入ればまだ安全だ。「じゃ、失礼します。」俺はテントの中に入っていった。


「まぁそこに掛けろ、掛けろ。」


もうこれは家だ。ちゃぶ台やらたん笥やら、どっから持ってきたんだろうか。ラジオまである。俺の想像とは全く違っていた。「こんな感じなんですね。」


「こんな感じってここはわしの家だ。毎日、掃除もしてるわ。で、何でこんな所に来たんだ?」


ヤクザを撃ちまして…なんて言える訳がない。「ちょっと仕事でトラブルがあって飛び出しちゃいました。」なんてね。


「そうか最近の若いもんは我慢を知らんと言うしな。わしの事はおっちゃんとでも呼んでくれ。」


我慢か…確かに田舎での生活に我慢してればこんなことにはならなかっただろうしな。おっちゃん分かってるじゃんか。彼の目線が紙袋にいった。


「キミ、その紙袋の中に拳銃が入ってるなんて事は無いよな。」


え?

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