捻転
森閑とした山の中、鳥たちのさえずりが目覚めのシンフォニーを奏で、暖かい陽気が窓辺を照らし始める。
電気も水道もなく、コンビニやスーパーなどもちろん皆無だ。
この山小屋で暮らし始めてから、自給自足の毎日を送っている。こんな悠々自適な暮らしが送れるのも、ひとえに神から授かったこの天才的頭脳のおかげだ。いや、天才と言う言葉でさえ俺の前では力不足だ。
今や俺の造り出したものは、世界中を支配している。株価、為替の変動から、流通、気象、ありとあらゆる全てをスーパーコンピューター【オールフォーワン】が制御している。世界の統治者はすなわち俺だと言うことになる。
もちろんこんなに素晴らしいものを発明したとなると、悪いやつらが黙っちゃいない。
俺の【オールフォーワン】を狙って、世界各国の組織が暗殺者を差し向けてきた。
いつだったか某国の対テロ特殊部隊が俺を狙って、わざわざこんな小さな島国の山奥まで密かに進攻してきたが、【オールフォーワン】には意味のないことだった。まるで燃え盛る太陽の焔を、放尿で消そうとするに等しい愚行と言っても過言ではなかった。1000%完璧な返り討ちに遭い、すごすごと引き返していった。
といった具合に、軍事面においても最強を誇る【オールフォーワン】は正に敵無しだ。だから最近じゃ、可能な限りの暗殺計画は頓挫したらしく、まったくの平穏無事に落ち着いている。
だがここのところ、何かがおかしい。
世界情勢を毎月報告するようにメールで指示を出していた秘書から、連絡がない。【オールフォーワン】を使ってもこれといって変わったことがないようだが、こういった事はやはり足を使って集めた情報がいいから、何か気がかりだ。
もう一つ気がかりと言えば、二日前の夜に見た空の光だ。幾筋もの光の柱が闇夜に立ち上り、煌々と地表を照らしたあの光……。これも調べても何もわからなかった。
やはり一度、自分の足で調べてみるしかないようだ。
俺は五年ぶりに山を下りた。
車に乗って近くの町に着いたとき、気づいた。どこにも人がいない。動くものがない。
いったい何が起こったのか……?
やはりあの光が、なにかしら関係しているのだろうか……?
様々なことを考えているうちに、【オールフォーワン】の携帯端末にメールが届いた。
秘書からだと思い、急いで確認してみたが、驚愕すべき内容が書かれていた。
『人類は淘汰しました、これであなたは世界統治者です。』
2009/4




