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プロローグ

 金属が擦れ合う音が、闘技場に乾いた余韻を残した。

 フリント・ライズは両腕のガントレットを構え、息を整える。

 指先から腕、肩、背中へと力が流れていく感覚は、いつも通りだ。

 視線の先に立つのは、一本の剣を静かに構える少女。

 シエラクロス。

 濃い青の長髪を揺らしながら、彼女は一歩も動かない。

 構えに無駄はなく、表情から感情は読み取れなかった。

 ここは《アイシード》。

 複数の国家が共同で設立した育成機関であり、若者たちはここで競い合い、評価される。

 将来、国を背負う者を選ぶための場所。

 だが、そんな堅苦しい呼び名を使う者はいない。

 強いやつが集まり、勝ち負けを競う場所。

 それが世間の認識だ。

 今行われているのも、あくまで模擬戦。

 致命傷は禁止され、勝敗は“制圧”で決まる。

 それでも、ここに立つ以上、負けは軽くない。


「模擬戦、開始!」


 合図と同時に、フリントは地面を蹴った。

 一気に距離を詰める。

 近接型である自分が取るべき選択は、最初から一つだ。

 ――近づいて、殴る。

 ガントレットが低く唸り、補助機構が作動する。

 踏み込みと同時に放たれた拳が、一直線にシエラを捉えにいく。

 剣が閃いた。

 金属同士がぶつかり、火花が散る。

 受け止められた感触に、フリントは一瞬だけ眉をひそめた。

 重い。

 だが、止まらない。

 二撃、三撃。

 勢いに任せた連打で押し切ろうとする。

 観客席がざわついた。

 フリントの戦い方は分かりやすい。

 一度流れを掴めば、一気に持っていく。

 当たれば終わる。

 それだけの圧がある。

 しかし、シエラは慌てなかった。

 剣で受け、流し、距離を測る。

 フリントの踏み込みを、正確に見切っている。

 剣先に淡い光が集まった。

 魔法。

 派手な演出はない。

 だが、剣技と噛み合った精密な一撃が放たれる。

 フリントは腕で弾き、強引に前へ出た。

 熱がガントレットを焦がすが、構わない。


「まだだ!」


 拳を振る。さらに踏み込む。

 その瞬間だった。

 足元に描かれた魔法陣が光る。


「――っ!?」


 地面が弾け、身体がわずかに浮いた。

 ほんの一瞬。

 だが、この場では十分すぎる隙だった。

 剣が走る。刃ではなく、腹で。正確に、胸元を打ち抜かれる。

 衝撃とともに視界が反転し、フリントは地面に叩きつけられた。

 息が詰まり、空を仰ぐ。


「……制圧」


 静かな声が響く。


「勝者、シエラクロス」


 遅れて歓声が上がった。

 模擬戦としては、申し分のない決着だ。

 フリントは、すぐに起き上がれなかった。

 負けた。それは、はっきりしている。だが胸の奥に残るのは、悔しさよりも別の感覚だった。


「(……今の、そんな差だったか?)」


 納得できない。

 視線を向けると、シエラは剣を下ろし、こちらを見ていた。

 勝者の顔ではない。誇りも、油断もない。

 ただ、静かだった。

 フリント・ライズはまだ知らない。

 この敗北が、

 ただの結果として終わらないことを。


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