057 ゴーレムって、知ってる?
イッシキさんが「もう少し詳しく調べたい」と言うので、私たちはひとまず例の魔力の結晶体を預けることにした。
受け取ったイッシキさんは、そのまま個室の奥へ引っ込むと、棚の資料や見たことのない器具を引っ張り出して、何やら調べ始める。
私たちは邪魔にならないように、ひとまずこの個室で待つことにした。
そんなとき……。
「どないしよかなぁ」
パンさんはソファに身体を預けたまま、頭の後ろで手を組み、天井を見上げてため息をついた。
「ガラスラさんのことですの?」
「まあそれもあるけど、どっちかっちゅうと魔力の結晶体の方や」
そうだよね……。
イッシキさんの話だと、あれは”神々の古代魔石”とかいう、一個で国を滅ぼせるくらいのアイテムと同じくらいの代物らしいし……。
そんなもの、怖すぎてどう扱えばいいのか分からない。
「国に預ける……とかですか?」
さすがにこんな危ないもの、個人で保管するのは怖いよね……。
だったら国に渡して、厳重に管理してもらうのが一番安全じゃないかな?
「うーん……それもなぁ。コレの存在を言わなあかんくなるやろ?」
「そうなれば、存在が広まって、五大ギルドの耳にも入りますわね」
何も言わず「これ危険なんで預かってください!」というわけにはいかないもんね。
でも、だからといってちゃんと説明すると、今度はリンドールさんの言う通り世間に広まってしまう。
そうなれば、悪用したい人に存在が知られてしまう、ってことか。
「そもそも国も信用できるか分からんしな」
確かに、国が善意で扱ってくれる保証なんてない。
権力を持った誰かが欲を出す可能性だってある。
……もしこれの力で侵略戦争でも始まったら、私、たぶん一生後悔するよ……。
「それにやな、こんな凄いアイテム、活用したほうがええやろ?」
「活用ですの?」
「せや。魔石の代わりに使えるわけやろ? タダで魔術具やら魔導設備やら使い放題!──ちゅうわけや」
「国宝級の魔石に匹敵するかもしれない代物を普段使いに用いるとは、新しいですわね……」
いや、そんなのアリなの!?
うっかり爆発して、国一つ吹っ飛んだりしないよね!?
「ガラスラやって、冬は暖炉に使えるし、夏は水に浸けとけばおるだけで涼しいで?」
「それはまた……風流ですわね」
……極限環境を生き延びるための性質が、暖炉とか冷房代わりって。
でも、そういう平和な使い道のほうがいい……かも?
「じゃあ、どうするのですか? ギルドルームに置いておきますの?」
「せや。……結局な、これから先も似たような──とんでもないもんを手にすることは増えると思うんや」
そう言って、パンさんはちらりと私の方を見た。
「私のせいですよね……すみません……」
「いやいや、全く責めとるわけやないんやで? むしろ感謝してもしきれへんくらいや。しょーもない野良ギルドやったグランベルジュが、今やグラン=ラフィース有数のギルドになったんも、サキはんたちのおかげやしな」
「へへ……ありがとうございます」
「──てなわけで、引っ越して早々やけど、盗まれへんように魔導設備を入れたり、警備を雇ったり──そういうのも考えなアカンと思ってな」
なるほど、防犯設備を充実させて、泥棒とかを防ぐってことだよね。
確かに、これからもガラスラが魔力の結晶体を生み出すかもしれないし、その方がいいか。
「マスター、私がいるから大丈夫です」
「アルテミス、ありがとう!……でも、アルテミスはずっと私のそばで守ってくれてるから、私が留守のときはギルドを守れないし、パンさんの言う通り警備は必要かも」
「せやな。アルテミスはんがおる時は安心なんやけどな。寝とる時とか、おらんときとかに備えて、っちゅうわけや」
「それでしたら、サキさんの召喚獣に警備をお願いするのはだめなのですか?」
「おお! 確かにサキはんに剛体種ゴブリンを召喚してもらって、警備を任せとけば、そうそう手は出せへんやろ」
「なるほどです。……うーん、でも、ゴブリンズってめちゃくちゃ強いですけど、足が速い方じゃないから、侵入者にうまく撒かれたりしませんかね?」
「それやったら、エルフを召喚すればええんやないか?」
「うーん……」
私が言葉を濁すと、パンさんが「ん?」と首を傾げた。
「どうしたんや?」
「なんて言えばいいんですかね……。エルフもゴブリンズもそうなんですけど……」
私の視線が自然とアルテミスへ向く。
「なんか、出てきてくれたみんなに『じゃあ門番よろしく!』ってずっと立っててもらうのは申し訳ないというか……」
きっとみんな、言うことを聞いてくれると思う。
だって、私が病気で寝込んでたときだって、ゴブリンズは何も言わなくても部屋の前にずっと立っていてくれたんだし。
だけど……なんだろう。
冒険者として活躍してもらうとか、私と一緒にいてもらうとか、ギルドバトルで戦ってもらうとか。
そういうのはお願いできるんだけど……。
ここに立っててとか、ずっと見張っててみたいなのはお願いしづらいというか……。
「なるほどなぁ……召喚士としては致命的なくらい優しすぎるわ。……褒めとるんやで?」
「優しいというか……たぶん、ただの偽善なんだと思います。結局、私がそういうのに耐えられないってだけなので……」
「でもそんなサキさんだからこそ、そんな特別な力を手に入れたのかもしれませんわ」
……いや、これは全部ノヨカさんの力なんですけどね……。
「まあなんにせよ、サキはんの気持ち的にもエルフは無しやな」
うーん、もっとこう……心のない機械みたいな感じだったらいいんだけど。
……あれ? そういえば。
私は『ステータス』から、取得済みの召喚スキルを確認する。
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【低魔召喚Ⅲ】 ゴーレムを召喚できる。
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ゴーレムって、たしか石像みたいな魔物……だよね?
もし私の想像通りなら、感情とかもあまり無さそうだし、門番みたいな役目も気兼ねなくお願いできるかも?
「あの……ゴーレムって知ってます?」
「ああ、もちろん知っとるで」
パンさんが即答すると、リンドールさんもこくりと頷いた。
「魔力で動く石の人形──ってイメージですわね」
「まあ石とか鉄とか、そんなところやな。昔は魔石代が高くつくから、金持ちの屋敷におるイメージやったけど、最近は術式の魔力効率も上がって、色んなとこで使われはじめとるらしいわ」
パンさんがそこまで言ったところで、リンドールさんが「あっ」と声を上げ、ぽんと手を叩いた。
「なるほどですわ! ゴーレムを買ってきて警備してもらうのですわね!? それにゴーレムなら、魔石代わりに魔力の結晶体を使えば──!」
「確かにそうやわ! 初期費用は高いやろうけど、魔力の結晶体がそんな魔力をもっとるなら、半永久的な警備員として使えそうやし! そりゃいい案やわ!」
「確かに! 魔力の結晶体と組み合わせると凄そう!!」
「……なんで言い出しっぺのサキはんがそんな反応なんや……」
「いや、私が言いたかったのは──ゴーレムを召喚できるみたいなので、それなら気兼ねなく警備を任せられるんじゃないかなって」
私がそう言うと、パンさんとリンドールさんの動きがぴたりと止まった。
「ゴーレムを召喚って……どういうことや?」
「サキさんは、アイテムも召喚できるんですの?」
「……アイテム?」
「いやだって、ゴーレムは人造の──いわば魔術具とか魔導設備みたいなもんやで? それを召喚するって、魔物でもないのに意味わからんやろ」
なるほど、この世界だとゴーレムは魔物というより、アイテムとか設備寄りの存在なんだね。
でも、召喚スキルにあるから召喚できるはず……。
──というかよく考えたら私、植物も召喚できるし、今さらなのかも?
「まあ、サキはんの召喚が意味わからんのは今に始まったことちゃうし、細かいことは気にせえへんわ。要するに、サキはんはゴーレムを召喚できるってことやんな? それやったら初期費用も浮くし、それが一番ええわ!」
「浮いた金で防犯の魔導設備ももっとええの入れられるしな!」と、パンさんは嬉しそうに笑った。




