045 召喚権限委任
「ふむふむ。つまり、ボクにこのムキムキマッチョくんと一緒に冒険者をやってほしい、ってことですね~!」
「そ、そうそう!……やっと伝わった……」
私は思わず、ふぅ〜っと長い息を吐いた。
良かった……。
ようやく話が逸れないまま着地してくれた……!
「じゃあ、早速その”ギルド集会所”ってところに行きますか~?」
「あっ、その前に1つやりたいことがあって……。ちょっと待ってね」
私は『ステータス』から【召喚権限委任】の説明をもう一度確認する。
このスキルで、ジョンソンの召喚権限を私からザラに委譲しよう。
ジョンソンだし、もしかしたらそんなことしなくても冒険者としてやっていけるかもしれないけど、
一応ザラの言うことを聞く状態にしておいたほうが安心だしね。
……ふむふむ。
権限を委譲したい子に右手、委譲先に左手で触れて──最後に「召喚権限委任」と宣言すればいいみたい。
思ったより儀式っぽいね。
とりあえず試してみようかな。
「えーっと、ザラはここに、ジョンソンはここに立ってくれる?」
「……? 分かりました~」
「……」
ザラは首をかしげていたけど、二人とも素直に配置についてくれる。
よし、後は右手をジョンソンに、左手をザラに置いて……っと。
「……何が始まるんや?」
「えーっと、簡単に言うと、ジョンソンがザラの言うことを聞くようになります!」
「はぇー、そんなことができるんか!」
「私もよく分からないんですが、できるっぽいです!」
「なんでサキはんがよく分からんねん……」
「なるほどね。ザラちゃんと彼に冒険者をやってもらうなら、その方がいいわよね」
「そういうことです! とりあえずやってみますね。えーっと、この状態で──召喚権限委任!」
私が呟いた瞬間。
指先から、ひんやりした何かがすうっと流れ出した。
右手──ジョンソンに触れている方が、ずしりと重くなる。
左手──ザラに触れている方が、逆にふわっと軽くなる。
そして、床に淡い青白い魔法陣がふわりと浮かんだ。
「……うわっ」
私の視界に、見慣れた半透明の表示が現れる。
────────────────────
【召喚権限委任】発動
対象:ジョンソン
委任先:ザラスト・ザラメイヤ
状態:委任中
────────────────────
そして、その表示はすうっと消えていった。
……
……
……
お、終わった?
「な、何が起こりましたの……? 魔法陣が見えましたが……」
「これで、このムキムキマッチョくんがボクの言うことを聞くんですか~?」
「そ、そのはず……」
私がやっておいてなんだけど、聞かれても分からない……!
ジョンソンは黙って私を見つめるだけだし……。
私が戸惑っていると、ザラがジョンソンに向き直る。
「じゃあ、マッチョくん!……じゃなくてジョンソンくん!」
「……」
「右手を上げてみてくださ~い」
すると、ジョンソンが間髪入れずに右手をスッ……と上げた。
「おっ! じゃあ、左手~」
「……」
──スッ。
「両手~」
「……」
──スッ。
「最後に、その場でくるっと一回転!」
──どしんどしん!
ジョンソンはザラの指示通り、とぼとぼとその場で一回転した。
「おおーっ! 従ってくれてます!」
「……いけとるんか? これくらいなら元からやってくれそうやけど……」
「た、たぶん……」
パンさんの言う通り、ジョンソンは賢いから違いが分かりにくい……。
ま、まあとりあえず良しとしようかな。
◇
一旦、妖精の召喚は後にして、私とアルテミス、ザラ、そしてジョンソンの四人で早速ギルド集会所に向かう。
目的はもちろん、ザラの冒険者登録だ。
すっかり慣れ親しんだ入り口を潜って、いつもの受付カウンターに向かう。
すると、いつもの受付嬢さんが私を見て元気に声をかけてくれた。
「あっ、お久しぶりですサキさん! 体調大丈夫ですか!?」
あれ、どうしてそのことを……って一瞬思ったけど、
そういえばパンさんが新ギルドルーム関連でギルド集会所に何回も行ってたって聞いたかも。
その時に話したのかな。
「はい、もう大丈夫です」
「良かったです! 思えばサキさん、ずっとバタバタしてましたもんねー。もしかして、今日もまたダンジョンですか!?」
「いえ、今日は私ではなくて……」
私が視線をザラに向けると、ザラはすっと背筋を伸ばし、半歩前に出た。
「お初にお目にかかります。召喚士サキ様の従者、ザラスト・ザラメイヤと申します。以後お見知りおきください」
ま、マジメか!?
……い、いや、マジメでいいんだけども!!
さっきまでのザラの印象が強すぎて、まだ会って少ししか経ってないのに凄い違和感……!
「初めまして! なるほど、ザラストさんにグランベルジュに加入してもらう感じですか?」
「その通りです!」
流石、受付嬢さん。
話が早くて助かる。
「分かりました、じゃあちゃっちゃと登録済ませちゃいますね!」
そう言って受付嬢さんは手際よく書類を揃え、確認事項をさらさら読み上げると──気付けば登録はあっさり完了していた。
「はい、これでザラストさんも正式にグランベルジュのメンバーとなりました! これで五人目ですね!」
「ありがとうございます!……ザラ、どうする? 思ったより早く終わったから、せっかくだし一緒にダンジョンに行ってみる?」
「いえ、マスター。病み上がりのご無理は禁物です。後は私が説明を聞いて対応しますので、どうかギルドルームにてご静養ください」
「……誰?」
私がアルテミスに助けを求めるように目線を送ると、アルテミスは小さく肩をすくめて、やれやれと息を吐いた。
「……ザラメイヤは人前だと真面目なんです」
「そ、そうなのね……。分かった、じゃあ、後はよろしく!」
「お任せを、マスター」
ということで私たちは一足先にギルドルームに戻ることになった。




