042 ギルドマスターの器
私があまりの苦みにソファでぐったりしていると、パンさんとペールルージュさんがどこかから帰ってきた。
「お、サキはん帰ってきてたか!──って、どないしたんや? 顔が紫やけど……」
「そ、それは……ぐえっ……」
「サキさん、わたくしが説明いたしますわ。どうぞお休みになってください」
あ、ありがとう、リンドールさん……バタッ……。
再び倒れる私に、ペールルージュさんが飲み物を持ってきてくれる。
私がなんとかあの苦味を消そうとごくごく飲んでいる間に、リンドールさんがかくかくしかじかと説明してくれた。
「なるほどな。魔力回復系の薬はその性質上どーしても苦味が強く出るって聞いたことあるけど、サキはんがここまでなるほどとは……」
「はい……パンさんも試しにお飲みになりますか?」
「いや、遠慮しとくわ……」
「サキちゃんのこの様子を見て、飲む人はいないと思うわよ?」
ペールルージュさんが背中をなでなでしてくれる。
う、うぅ……ありがとうペールルージュさん……。
「まあなんにせよ、ちゃんと錬金はできたっちゅうことよな? よかったよかった。あんだけつぎ込んで錬金できへんってなったら困るからなぁ」
「そうですわね、できたといえばできたというか、できなかったといえばできなかったというか、20個に1個はできたというか……」
リンドールさんが目を横に逸らしてそう答える。
「……ま、まあ最初やしな。これから慣れていってくれればええわ。それよりも、急に留守にして悪かったな。うちらいきなりギルド運営から呼ばれてちょっと行ってきたんや」
「ギルド運営にですか?」
「せや。サキはんとはギルド集会所で会えるかと思ったけど、入れ違いになったみたいやな。で、呼び出された理由やけど……うちら、この街有数のギルドになったやろ? やから、評議会に参加する権利を得たらしくてな」
「評議会?」
「グラン=ラフィース冒険者ギルド運営及び上位ギルドによる評議会──通称、評議会や。まあ要するに、有識者で大事なことを決めましょか~っちゅう会議や」
「たまたま今日がその日だったらしくてね。挨拶も兼ねて参加してきたのよ」
へえー、なんだか難しい話……。
こういう話を聞くと、ギルドマスターなんて私には務まらないなーって思う。
パンさんみたいに色んなことに詳しくて、機転が利いて、肝が太い人じゃないと。
私みたいに知力1、精神力1じゃあダメだね。
「グラン=ラフィースはデカい街やけど五大ギルドの最上位ギルドがおらんやろ? やから、評議会の半分くらいは野良ギルドやったわ。やから仲良くやっていけるか思ったけど……うちら完全に舐められとった、な? ルル」
「そうね。まあ舐められて当然じゃない? ギルドポイントの大半を数日で使い切っちゃったんだから」
それは……そう……。
「せやから舐められへんように、今後は名実ともにちゃんとしたギルドにしていこう思ったわ。──っちゅうわけで、サキはん、どうやった? ダンジョンの結果は」
ペールルージュさんが持ってきてくれた飲み物のおかげもあり回復してきたので、今度は私がかくかくしかじかと説明をする。
……とは言っても、血結晶はリンドールさんが使っちゃったので、話せるのはタマゴだけ、なんだけどね。
「なるほどな、魔物のタマゴ、特にバジリスクのタマゴがたくさん……ドロップアイテムやと聞いたことないかもしれん。基本は野生の魔物の巣から取るか、人飼いの魔物から手に入れるかやからな」
「となると、結構価値が高いんですか?」
「せやせや。うちも食べたことないけど、なんや美味いって評判やから需要も高いし、これなら1個100ギルドポイントは堅いやろな。……せや、どっかのレストランと契約してもええかもしれん」
「契約?」
「せや。定期的に納品するから、いくらで買ってくれ、ってな。当たり前やけど、供給が増えると価格は下がる。現に粘魔核はちょい値崩れしとる」
「えっ、そうなんですか!?」
「当たり前や、滅多に市場に出ないアイテムがいきなり何十個も市場に流れたんやから。しかも全部サキはんの仕業やし」
仕業って……。
まあそうなんだけども。
「やけど、契約やったら話は別や。例えば高級レストランに『毎月50個バジリスクのタマゴを納品するから、金貨50枚で頼むわ』っちゅう契約を結べれば、家賃問題はほぼクリアや」
「なるほど!」
それだったら、市場に出回るわけじゃないから値崩れもしないってことか。
流石パンさん、おカネの話に強い。
「それにバジリスクのタマゴを出すようなランクのレストランとのコネも作れるしな」
なるほど……今後のことを考えたら、御用達のレストランがあった方が都合は良さそう。
そこまで考えていたなんて、流石パンさん!
「っちゅうわけで、バジリスクのタマゴはそないするとして、ワイバーンのは食べるのもったいないなぁ」
「えっ、何でですか?」
「飛行系の乗騎って貴重やからな。極端な話、馬がおらんくても歩けばええやろ? やけど飛行系はそういうわけにもいかん。やから飛行系の乗騎があるかどうかはギルドの”強さ”にも大きく関係してくるわけや」
「パンの場合は、それだけじゃなくて蒼穹大翔天があるからでしょ?」
ペールルージュさんの言葉に、「ま、まあな?」とパンさんが目をそらした。
「蒼穹大翔天?」
「パンが大好きな空のレースよ。といっても、毎回行っては思いっきり溶かしてるわよね」
「よ、余計なこと言うなや!……せや、サキはんの運があれば当たるかもしれへんな……ぐへへ……」
「か、賭け事はちょっと……」
「蒼穹大翔天……でしたら、わたくしのお父様も好きでしたわね」
「おおっ! そりゃ話の分かるお父様やで!」
「といっても、賭ける方ではなく、出場させる方でしたけれども」
「──えっ、魔獣主っちゅうことかいな!?」
「そうですわね」
「そうか、リンドールはんはええとこのお嬢さんやったんか!」
所作がキレイだから育ちは良さそうだなって思ってたけど、やっぱりそうなんだ。
でもそれなら、どうして冒険者になってパラッパ・レードになんか居たんだろう?
リンドールさんの身の上話が気になりつつも、結局、今のグランベルジュにはワイバーンを飼う力は無いし、今回は美味しくいただくことになりました!




