030 ボロゴブくん
ついに30話!
今後もよろしくお願いします!
ギルドバトル開始からしばらく……。
私たちはずっと、ドルトステラの作る大盾の壁の後ろに隠れていた。
理由は単純で、遠距離での一撃から身を守るため。
前線からかなり離れているから、相当の腕が無いと当てられることはないってパンさんは言ってたけど、怖いものは怖いからね……!
なので、私たちは直接、戦いの様子を見ることができない。
チラッと顔を覗かせたところを射貫かれたら笑えないしね……。
ということで、隠れる必要が無いアルテミスに実況してもらっていた。
「──次は北東の敵小隊が崩壊しています。これで全ての前線が崩壊しました。敵の残り総数はおよそ30です」
「ええ調子やな。建造物のほうはどないや?」
「マスターの命令通り、入り口にゴブリンが立っているため、入ることができないようです」
それを聞いて、私とペールルージュさんでハイタッチする。
この作戦の懸念点の一つは、相手の建造物。
籠城されると、【時短召喚術】の制限時間である一時間を粘られちゃうかも……?
そんなペールルージュさんの話を聞いて、私はジョンソンとブルースにだけ耳打ちをしておいたんだよね。
「向こうに着いたら、ジョンソンがブルースを投げ飛ばして、建造物の前を守って」──って。
「ほんなら、もう十分もすればこっちの勝ちっちゅうことか?」
「……それが、相手のギルドマスターたちが馬に乗っているため、決着がつかないかもしれません」
──なるほど、剛体種ゴブリンは移動が遅いから、馬に乗って逃げられちゃったらどうしようもない。
でもここまでくれば、私たちグランベルジュが負ける可能性はほぼなくなったと言っていいんじゃないかな。
つまり、ギルド解散の危機は去った! ということ!
……嬉しくて、まだ終わってないのに笑顔になっちゃう。
すると、パンさん、ペールルージュさんも嬉しそうな表情を浮かべた。
「いやー、サキはん! ほんまようやったな! これもう勝ちみたいなもんやろ!」
「まあ、アルテミスちゃんの話を聞く限り、負けることは無さそうね。相手が逃げ続けて、引き分けに持って行かれる可能性はあるけれど」
「引き分けもあるんですか?」
「お互い、相手のギルドクラウンを手に入れられなかったら引き分けね」
「くっそ、アイツらはよ諦めてくれればええんやけど。引き分けやったら腹立つな! アイツらの悔しがる顔を見たいんやけど……」
そうは言っても、こっちにはレードさんたちを倒す手段がないからどうしようもないよね……。
もし次があれば、こっちも騎乗用の魔物を召喚できるようになっておいたほうがいいかも。
そんなことを考えていたとき、アルテミスから報告が上がる。
「マスター、召喚獣の一体が戻ってきました。かなりの傷を負っているようです」
「ええっ!? ゴブリンズがキズを!?」
慌てて飛び出そうになるのを、ルーアンさんに止められる。
そうだった、もし今弓矢で狙われていると、出た瞬間に射貫かれかねないんだった。
ゴブリンは囮かもしれない。
気持ちを堪え、剛体種ゴブリンが私たちの元に辿り着くのを待った。
そうしてようやく見えた姿は──ボロボロの一言。
腕と足を重点的に狙われたみたいで、足を引きずっている。
背中には三カ所の大きな切り傷が。
全身から血を流していて痛々しい……。
「こりゃ随分とこっぴどくやられたみたいやな……。剛体種ゴブリンがこんな……。おそらく、相手におるっちゅう第六天位の仕業やろな」
私は大きな衝撃を受けていた。
剛体種ゴブリンって、これまでどんな攻撃を受けてもへっちゃらそうだったのに……。
このゴブリンくんは今にも倒れそうなほどのダメージを受けていた。
こんなムキムキを倒すって、第六天位はどれだけムキムキなの……!?
──そうだ、こんな時のために、回復用のポーションを買ってたんだった。
私はボロボロのゴブリン──ボロゴブくんを大盾の壁の裏に呼ぶと、『アイテム』から【粗悪なポーション】を取り出す。
HPは10しか回復しないし、凄く沁みるらしいけど、消毒とかにはなるかもしれないよね。
ボロゴブの腕に、【粗悪なポーション】をかけてあげる。
すると、傷口からじゅわっと泡が湧き出てきた。
「うげーっ、見とるだけでこっちまで沁みるわ!!!」
そう言ってパンさんは目を背ける。
ボロゴブは無表情なままだけど、なんだか体が小刻みに震えている。
やっぱ相当沁みるんだね……。
もっといいポーションを買えるようになりたいな、と思いつつ、体中にある傷口にかけてあげる。
全部にかけてあげるとなるとかなりのポーション量が必要で、結局持っていた三個とも使い切ってしまった。
すると、少しはマシになったみたいで、なんだか目に光を取り戻した。
傷口も、なんとすでに少し塞がっている……。
「……なんちゅう生命力や。ポーションかけただけでもう治り始めとる」
「普通は違うんですか?」
「まあ、もっと良いポーションはあれやけど、大概のポーションは細胞を活性化させて傷の治りを早くするんや。でもこの剛体種ゴブリン、かけただけで傷がふさがりだしとるやろ?」
──そうか、もしかしたら私の召喚獣は『アイテム』の説明通りの効果が得られてるのかな。
つまり、【粗悪なポーション】のHPを10回復させる効果。
三つ使ったから、HPは30回復した、ということだったら、速攻で傷が治った意味も分かる。
ボロゴブくんの傷の治りを観察していると、アルテミスからまた報告が入った。
「マスター、相手のギルドマスター──レードがこちらに向かってきています。一人のようです」
「ええっ!?」
まさかの一騎駆け!?
「殺しますか?」
「い、いや、ちょっと待って!」
もし一騎駆けだったとしても、こっちにはドルトステラの七人とアルテミスがいるから大丈夫なはず。
それにレードさんの性格的に、一騎駆けってわけじゃなさそう。
もしかして、降参……?
開始前に、降参とか言ってたし。
「こりゃ降参やろな。このままやと残っとる冒険者も深手を負うやろから、その前に終わらせようっちゅうとこか」
「こっちも騎乗している相手に攻撃を与えられないし、そこを交渉条件にするつもりかしらね」
「なるほど、頭いいですね!」
「頭が良いというか、小賢しいというか……。だいたい、ウチは開始前に”降参は無し”ってハッキリ言うたやろ!」
「それはそう……」
私たちがどうしようか悩んでいると、またまたアルテミスから報告が。
「待ってください、マスター。よく見ると、遥か後方で残り二名のギルドマスターが待機して、弓を準備しています」
「ええええええ!?」
「なるほど、交渉の場に出てきた私たちを射貫いて、一発逆転を狙うつもりかしら」
「せこっ!! ズルすぎやろ!? うわー、恥ずかしいなぁ、ああはなりたくないでほんま」
考えられるだけの罵詈雑言をみんなで言った後、パンさんはニヤリと笑った。
「まあ、相手の方からノコノコ来てくれたわけやし、ここでギルドクラウンもらって試合終了やな」
最後の作戦は、アルテミスに頑張ってもらうことにした。




