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024 108の軍勢

グラン=ラフィースの北門を抜けた先、風を遮るもののない草原に、石柱が巨大な円を描くように立っていた。


柱と柱の間には淡い膜──結界が張られ、外へと吹き抜ける風だけがその輪郭を揺らす。

ここは、断風演習地(ブレイク・フィールド)──今日行われるギルドバトルの指定地だ。


周囲には仮設の観覧席が組まれ、屋台まで並び、朝から人が集まっていた。

彼らの目的はもちろん、ギルドバトル。

大ギルド同士の戦いほどではないが、”百人規模”という噂が回って、物見遊山の足は止まらない。


その喧騒を割るように、一つの隊列が草を踏んで現れる。

隊列の脇には馬が数頭、さらに荷を積んだ小さな荷車まで付いていた。


そして最後尾──馬に似た魔獣が一頭。

大きくしなやかな体躯、そして頭部に小さなコブが二つ。

赤目の魔獣、グラニル。

魔獣すら従えていることは、この隊列がかなりの力を持つことを示していた。

そして、そんな隊列の先頭に掲げられた旗には、鳥の嘴──パラッパ・レードの意匠だ。


中心を歩く男──ギルドマスターのレードは、観客の視線を受け、結界の前で立ち止まった。


「なんか今日人多くね?」


そんな呟きに、隣でサブマスター格の男──ラッセルが笑う。


「宣伝になっていいんじゃないすかね。良い噂が広がって参加希望者も増えそう」

「100人で3人ボコって良い噂広まるか?」

「それはそう」


背後では、三人の男が身を縮めていた。

一人は腕に包帯を巻き、一人は全身に包帯を巻いている。

彼らは、かつてギルド集会所で金髪の女に腕を折られ、壁に叩きつけられた者たちだ。

彼らは観客を睨みつけながら周囲を見回し、歯噛みした。


「くっそ。アイツら今日は絶対……」


レードは振り返りもせずに言った。


「余計なことすんなよ。今日は別にお前らの復讐ってわけじゃないんだから」

「えっ、違うんすか?」

「ああ。ちゃんとした目的があんだよ。俺だってたまには頭使うんだって」


結界の入口で、ギルド運営が札を掲げる。

双方のギルドが、同盟の申請と人数の確認を済ませる必要がある。


「えーっと、パラッパ・レード……十八名ですね。同盟は二件ですか。はい、通っていいですよー」


合図と同時に、別の旗が二つ、草原の向こうから現れた。


一つは、黄地に歯車を描いた旗。

建造魔法を得意とする黄歯車団(イエロー・ギア)の隊列だ。

もうひとつは紫地に弓羽を散らした旗。

遠距離戦の専門集団、紫羽の庭(パープル・フェザー)


合流した二つの隊列は、合計で九十名近い。

まさに圧で押し潰す人数だった。


「レードさん、約束どおり連れてきたわよ」


細身の女──紫羽の庭(パープル・フェザー)のギルドマスターであるヴィオラが、涼しい顔で手を差し出す。

パラッパ・レードが開くパーティに紫羽の庭(パープル・フェザー)の若手が参加しており、その伝手で今回参加することになっていた。


「うぃーす、ヴィオラさん今日はよろしく!」


レードは握手を返しながら、もう一方に目を向けた。

黄歯車団(イエロー・ギア)のギルドマスター、クランクは、土埃のついた手袋を外して言う。

クランクもまた、レードが作ってきた”人脈”のひとつ。

”人脈”を第一に掲げるパラッパ・レードだからこそ成せる業だった。


「ここらの地形、ちょっと弄ります。あまり時間はありませんが、私たちに有利な地形にしておきましょう」

「あ、好きにしていいんで!」


レードがそう言うと、クランクは「分かりました」と早速メンバーと共に支度にかかる。

その実直さに感心するとともに、ここに相手が入ってくることなどありえないのに無駄な努力だとレードは内心思っていた。


「ところで、取り分の話なんだけど」


ヴィオラがあくまで事務的に口を開いた。

この同盟は”友好”ではなく”契約”。

勝利したときに得られるものがなければ、この規模のメンバーを動員する理由はない。


「グランベルジュのギルドポイントは大した額じゃないわ。三人の野良ギルドなら、せいぜい数千。にもかかわらず、私たちの取り分は3000。……どうなってるの?」

「あー、そこはまあ、あんま触れてほしくないんですよね……。まあとにかく、ちゃんと報酬は支払うんで細かいことは気にせず!」


ヴィオラの探るような問いに、レードはそう答える。

”依頼主”の存在を口にした瞬間、面倒になると分かっているから。


「はぁ……分かったわ。それにしても、三人相手に随分と大掛かりじゃない? 別に貴方たちでも十分に見えるけど」

「違うんすよ!」


ヴィオラの言葉にそう叫んだのは、腕に包帯を巻いた男だった。

彼は震えながらも、口を挟まずにはいられなかった。


「俺、見たんすよ……金髪の女、一瞬でコイツを壁まで吹きとばして……」

「飛ばした? 魔法?」

「触ってもないのに……掌だけで……」

「なるほど」


ヴィオラはその情報を、すぐに頭の中で戦術に変えていく。

それが射手である彼女のクセだった。


「じゃあ、そっちに数をかけた方が良いわね。その隙に、相手のギルドマスターを狙いましょう」

「そうねー。それか、第六天位をぶつけるか──なんにせよ、そいつにだけ気を付ければこっちのクラウンが取られることはないはず」


そう言って、レードは胸元のギルドクラウンを軽く握る。


「レードさんの守備は黄歯車団(イエロー・ギア)に任せるわ。向こう、いくら近接戦が強くても建造魔法を突破する方法がないでしょう」


いくら剣の腕が立っても、石の壁は砕けない。

いくら弓が達者でも、屋内の敵は射貫けない。

このレベル帯では当たり前の事実だ。


ヴィオラの言葉に、レードは短く頷いた。

そのときだった。


「あっ、ヴィオラさーん!」


一人の少女が走り寄ってくる。

その瞬間、周囲の空気がすっと冷えた。


「……あっ、アマリリイさん……」


ヴィオラは引きつった笑顔で、少女を迎えた。


「この服、ありがとうございますー! 紫色ですっごく可愛いです!」


アマリリイがくるりと回ってみせる。


「き、気に入ってもらえたみたいで良かったわ。……今日はよろしくね?」

「はい! 頑張って全員殺してきます!」

「い、いや……殺さないでね?」

「あれ? 今日って殺しちゃダメなんでしたっけ?」

「い、いや、ダメというか……。あっ、でも相手に召喚士がいるみたいだから、魔物相手なら大丈夫よ」

「おー! 魔物!!! わかりましたッ!」


そう言うと彼女は元気そうに武器を素振りしながら、立ち去っていった。


「……もしかして、彼女が”第六天位”の」

「……そう。ちょっと前に急に入ってきたんだけど……」


アマリリイは、つい先日ふらりと入団希望に現れた第六天位の冒険者だった。

ボロボロの布切れを纏った笑顔の少女で、ヴィオラは見かねて服をプレゼントしていた。


「彼女、恐ろしく強いわ。第六天位って、とんでもないってことを思い知らされたわ」

「そんなに? あんなに可愛いのに。じゃあ、今日もアマリリイさんをその金髪にぶつければ──」

「……念のため、レードさんの護衛につけようと思ってたのだけど、そうする?」

「いやぁ、あんな可愛い子に護衛ついてもらうとか最高なんすけど、今回は勝ち優先なんで。前衛に立ってもらいましょう」

「分かったわ。……殺さないように後でもう一回言っとこ……」


その瞬間、結界の向こう、南側の入口が開く。

小さな旗が一本。

そこに描かれた紋章は、葡萄の房のような意匠──グランベルジュ。


「来たわね」

「……なんか、多くね?」


その後ろから、さらに旗がもう一本。

炎と鍛冶を掛け合わせた意匠。


「あれって──ドルトステラっすか!?」

「ちょっとレードさん、どうなってるの!? 相手は三人って聞いてたのだけど!」


ラッセルとヴィオラの視線が、同時にレードへ刺さる。

ドルトステラといえば、あの烈火のオルダンがギルドマスターを務める赤ギルドの上位。

彼が参加しているとなると、苦戦は必至──それどころか、レードの頭に敗北の二文字が浮かぶ。


「ま、まさか二日間でドルトステラと同盟を……? 野良ギルドのくせしてどうして五大ギルドと人脈が……」


「で、でも烈火のオルダンの姿がないっすよ?」

「ほ、本当だわ。もしかしたら、完全な同盟じゃないのかも」


二人の言葉に、レードは慌てて目を凝らした。

──確かに“烈火”の姿が見えない。


「そうか、ギルドマスターまで参加すると敗北時の責任も負わないといけない。負けることを考えて、烈火のオルダンは参戦しなかったんだ」

「……それなら、まだいけるかしら」

「相手は──9人だろ? こっちは108人。負けることはないと思うが」


ギルドバトルが始まる前から、パラッパ・レード側は大いに混乱していた。


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