023 (もっと)悪い知らせ
翌日。
──パラッパ・レードとのギルドバトル前日だ。
私とアルテミス、パンさんの三人は、ギルドルームでペールルージュさんの帰りを待っていた。
ペールルージュさん、昨日情報収集に出掛けたきり、戻ってきてないんだよね……。
「ペールルージュさん、大丈夫かな……」
「大丈夫や、ルルはああ見えて強いからな──ほら見てみ、噂をすれば、や」
ギルドルームの外から足音が近づき、次の瞬間、扉が開いた。
立っていたのは、ペールルージュさんだった。
私には分からなかったけど、パンさんは足音だけで分かったみたい。
ペールルージュさんは少し焦った様子で中に入ってきた。
「パン、サキちゃん、アルテミスちゃん。帰りが遅くなってごめんね」
「いえいえ! でも心配しましたよ……!」
「ウチは心配なんかしとらんかったけどなー。あ、良い意味でな?」
「ふふっ、分かってるわよ」
なんだか二人のやり取りに長年の相棒感が溢れてて、少し憧れちゃうな……。
「それにしても、ルルが遅なるって珍しいな。なんかあったんか?」
「……そうね、悪い知らせと、もっと悪い知らせ──どっちから聞きたい?」
さ、最悪の二択……。
こんなとき、私なら”もっと悪い知らせ”から聞いちゃうけど、パンさんはどうなんだろ?
先に最悪な方を聞いておけば、次に聞く知らせは”これよりは良い知らせ”になるって考えちゃうんだよね。
「イヤな二択やなぁ……。まあ、”悪い知らせ”から聞こか。先に”もっと悪い知らせ”を聞いてまうと、悪い知らせが頭に入って来んかもしれんしな」
なるほど……。
なんだかパンさんの考えの方が合理的だな、なんて思った。
「そう来ると思ったわ。じゃあ、”悪い知らせ”から行くわね」
私はごくりと喉を鳴らし、次のペールルージュさんの言葉を待つ。
なんだろう……相手が増えるとか、思ったより強い人がいるとか……?
「私たちの相手──十八人だと想定してるだろうけど、増えるわ」
う、うわー……予想当たっちゃったー……。
「今回の相手、総勢108人になるわ」
へえー、そうかぁ、108人……。
……えっ?
「ええええええええ!?!?」
「ひゃ、ひゃく……やて?」
ちょ、待って待って待って!?
えっ、聞き間違い?
だよね、多分そうだよね。
「あのー、ごめんなさい! 多分聞き間違いだと思うんですけど……。私、今回の相手が108人って聞こえちゃって……」
「うん、サキちゃんの耳は正常よ。異常なのは現実の方。今回の相手は108人。つまりね、パラッパ・レードも他のギルドと同盟を組んできたのよ。しかも二つのギルドと。だから総勢は108人」
「…………聞き間違いじゃなかったんだ」
いやいやいやいや、無理無理ムリムリ。
100って。
101匹のわんちゃんよりも多いじゃん。
108って、煩悩の数じゃないんだから……。
なんて私が現実逃避している間に、パンさんは真剣に考えていた。
「ギルドバトルの前日に二つのギルドと同盟……。こりゃ、最初からそのつもりやったな」
「最初から……って、どういう意味ですか?」
「ギルドバトルを宣告されたときは、同盟の話なんて聞いとらんかった。つまり、最初から同盟組む話があったのに、ウチらを油断させるために宣告後に同盟結んだっちゅうことや」
ず、ズルっ!
しかも油断なんて全然してないのに……!
「それにしても、たった三人のギルドを潰すために同盟まで組んでくるか……。相当、アルテミスはんのことを恐れとるみたいやな」
確かに、同盟を組むってことは、私たちに勝ったときの分け前も減るってことだし、過剰戦力にもほどがある。
アルテミスのことを警戒してなんだとすると、やっぱりこの前の一件が相当衝撃的だったのかな……。
「やっぱりあの時に殺しておけばよかったですね、マスター……」
「そ、そんなことはないよ?」
やめてね、今後は皆殺し、とか……。
「……こっちがドルトステラと合わせて9人やとすると、相手は108人やから、一人あたり──12人って。無理やな」
「まあ無理よね。アルテミスちゃんに頑張ってもらうとしても、みんなやっぱり10人くらいは相手しないといけなくなっちゃう」
「向こうが全員、第一天位とか素人とかならいけるかもわからんけど……」
そうだよね、やっぱり戦いは数。
前衛が守ってる間に、後ろから弓矢とか魔法で攻撃されちゃったら、どうしようもないし。
剛体種ゴブリンならもしかしたら10人を相手できるかもしれないけど、普通の冒険者だったらスタミナ的にも難しいしね……。
私なんて剣を一振りするだけでゼエゼエ言ってるくらいなんだから、絶対ムリ。
まあ、そもそも戦力に数えられてないけどさ。
「アルテミス、どう思う? いつもの感じで、余裕そう?」
「余裕──と言いたいですし、実際皆殺しは余裕ですが、マスターを守ってとなると……私の実力不足です……」
まさかのアルテミスが、いけるって言わないなんて……。
でも、そうだよね。
108人の相手から私を守りながら戦うなんて、ゲームでも無理ゲー。
しかもゲームじゃないから、コンティニューはできない。
「……アカン。策が全然出てこーへんわ。しゃーない、次の話も聞こか。ルル、これよりもっと悪い知らせってなんや?」
そ、そうだった!
これより悪い知らせがあるんだった……。
でも、これより悪い知らせって、もう”負けたら殺されるそうよ”とかしかなくない……?
「もっと悪い知らせ、ね。でもこっちの方がインパクトはないわよ。……相手のレベル、相当高いわ。第三や第四がゴロゴロいる。しかも──第六天位までいるみたい」
……あれ?
確かに全然インパクトがない……。
私はそう思ったんだけど、パンさんは違ったみたい。
「ま、マジか!? ほな絶対ムリや!!」
「……ご、ごめんなさい、私、こっちの方が悪い知らせって思えなかったんですけど」
「そりゃインパクトの問題や。ええか、冒険者のランクって一つ違うだけでもデカい差があるんや。その差は、上になればなるほど大きい。第五天位と第六天位はランクで見ると一つしかちゃうけど、越えられない差がある。相手が108人でも、全員が第一天位なら何とかなるかもしれんくらいにはな」
……そうだ、思い返してみると、第二天位の昇格試験は余裕だったけど、第三天位の昇格試験はかなりヒヤッとした。
それだけ試験のレベルに差があるなら、冒険者のレベルに差が出るのも分かるかも。
「ほんで第六天位言うたら、もうほぼ五大ギルドの最上位層レベルや。ウチらが逆立ちしても勝てへん。何なら、108人が逆立ちしても勝てへんやろな」
……108人が逆立ちしてる姿を想像して笑っちゃったけど、いけないいけない、今私たちはかなりヤバい状況なんだよね。
「ほな、今までの話をまとめるとやな……ウチらより格上の冒険者108人を相手に、最高第三天位の9人で戦わなあかんっちゅうことか……?」
「無理ですね」
「詰んでるわね」
私とペールルージュさんの声が重なる。
いや、どう頑張っても勝てなさすぎる。
それこそ、「何とか来月まで待ってもらって、私が超スピードでレベル上げをして【魔力】を上昇させて、しかも回復するまで待って、剛体種ゴブリンをいっぱい召喚する」みたいなミラクルでも起きないとムリ。
でも、相手の本気度合いを見ると来月までは待ってもらえなさそうだよね……。
……ん?
【魔力】……?
「──はぁ……、となると、どうやって負けるか、になるかぁ。負けると分かって戦う必要もないしな。降参してまうか、後は交渉材料がないかやけど……」
「難しいわね……私が調査した限り、材料は思いつかないわ……」
ほぼあきらめムードの二人を前に、私は知力1の頭をフル回転させる。
要するに、ゴブリンズをたくさん召喚できたらいいんだよね。
「……もしかしたら、いけるかも」
「……え?」
私の呟きに、二人は口をぽかんと開けた。
「(考え込んでるマスターも可愛い)」




