021 ドルトステラ
今回短めです。
グラン=ラフィースは、平原のただ中に据えられた交易都市だった。
四方から街道が伸び、荷車が絶えず出入りする。
市場は賑やかで、冒険者の比率も高い。
──それでも荒っぽさは薄い。
門前の衛兵は数で威圧せず、代わりに目が利く。
自由があり、治安もそれなりに保たれている。
平均的で、暮らしやすい街。
そう評されるのも頷けた。
そんな”風の街”の中心、ケンパバーン広場から一本外れた通りに、ドルトステラの本部はあった。
赤ギルド──紅闘府を最上位とするギルド群の中でも、上位ギルドとされるドルトステラは、あの”烈火のオルダン”がギルドマスターを務める鍛冶メインのギルドだ。
派手さはないが、入口に掲げられた紋章が目を引く。
炎と鍛冶を掛け合わせた意匠──烈火のオルダン、その名を看板が語っているようだった。
そんなドルトステラ本部の一階は、まるごと広い鍛冶場となっていた。
炉が並び、金床が列になり、工具が壁に整然と掛けられている。
そこでは、ギルドメンバーたちが今日も鍛冶に勤しんでいた。
「……刃の返り、残ってる。研ぎ直しだね」
そんな短い指示が飛ぶ。
鉄が鉄を打つ金属音が響く中、ギルドメンバーたちはお互いがお互いの鍛冶結果を見合って、高め合っていた。
十六人いるメンバーのうち三分の二は鍛冶志望で、戦うより作る時間が長い。
鎧より前掛けが似合う者が多いのも、このギルドの特徴だ。
鍛冶場の端では、若い男が師に剣を見てもらっていた。
「ふむ。だいぶ良くなったな、ルーアン」
「……ありがとうございます、師匠」
ルーアンは礼を言いながらも、表情は晴れなかった。
「全く、まだ引きずっているのか? この前のギルド市を」
「……」
返事はない。
それが答えだった。
「ははっ、自信作が売れないことなど世の常だ。私も若い頃は──」
「いえ、売れなかったことではありません」
「……というと、あのギルド──グランベルジュが気になるのか」
「……はい」
今度は、明確に肯定の声が響く。
ルーアンはあの日以降、何かが変わったことを感じていた。
彼女たちに不遜な態度をとってしまったこと。
あの異様な数のレアドロップに、売上で大きく負けてしまい自信を失ったこと。
そして──
「ルーアンよ、再び冒険者に戻ってはどうだ?」
ルーアンは、駆け出しの頃こそ冒険者として前線に立っていたが、鍛冶にかける時間を最大化したい思いから鍛冶専門となり、冒険者活動は休止していた。
「何故でしょう?」
「やはり使い手の立場に立ったものづくりを──などといった分かりやすい理由も、あるにはあるが。冒険者となり魔物を倒すことで得られる経験は、不思議なことに鍛冶の腕にも乗ってくるものだ」
「……そんなことあるのでしょうか?」
戦闘の腕と鍛冶の腕は別。
そんな当たり前なことに異を唱えるような師匠の発言に、ルーアンは首を傾げる。
「世の中、不思議なものよ。まあ、無理にとは言わん。最近のお前は多分に思うところがありそうだったのでな、気晴らしにも良いぞ?」
そう言って、オルダンはルーアンの剣を振り回し笑う。
そんな遊びの剣筋ですら美しいオルダンに、ルーアンは再び尊敬の意を送りつつも、しばらく悩んだ。
そんなときだった。
鍛冶場の入口側に、足音がひとつ増えた。
「ここやここ、ドルトステラのギルド本部!」
そんな声の後に、足音がもうひとつ、ふたつ。
「凄い、建物まるごとギルドのものなんですか?」
「せや、五大ギルド群の上位ともなるとな。ウチらも負けてられんな!」
「……その前に明後日勝たなきゃですね……」
「せ、せやな……建物立つ前に無くなってもうたらしゃーないわ」
ルーアン、そしてオルダンもこの声に聞き覚えがあった。
この声は、先日のギルド市で聞いた声だ。
そう思ったのも束の間、ギルドの正門を潜って入ってきたのは、件のサキたち──グランベルジュだった。




