013 ギルド市、本番当日!②
一方、ルーアンさんのお店にもそこそこ人は来ていたが、どうやらまだ一本も売れていないみたいだった。
「……くっ、横がイロモノなせいで私の店まで悪影響を……ちょっと!」
ルーアンさんが私たちの店前まで来て、声を荒げる。
「粘魔核がこんなに集まるわけないでしょう! 偽物に決まってる!!」
ルーアンさんの言葉に、周囲も「確かに」と同意の言葉を続けた。
それを受けて、ルーアンさんの口撃はさらに勢いを増す。
「だいたい、貴方たちみたいな弱小ギルドに横にいられると迷惑なんですよ!! 偽物だって運営に言いつけて──」
「へっへっへ、待ってました!」
「──え?」
パンさんがニヤリと笑う。
「粘魔核がニセモンや言われるのは想定内なんやわ。ウチやってこの目で見てなかったら信じられへんからな。ほれ」
そう言ってパンさんは一枚の紙きれを取り出した。
「アンタも冒険者ならこれが何かわかるやろ」
「……ダンジョンクエストの報告書」
「せや。ウチらはちゃあんとギルド運営にドロップアイテムの報告をしとるからな。こういうときに本物の証明になるんはアンタも知っての通りや。普通はいちいち貰わへんけど、胡散臭いって言われるのは目に見えとったからなぁ」
「ぐぅっ……クソっ!」
ルーアンさんが長テーブルを思い切り叩く。
私がそれにビクッとしたのを見て、アルテミスが一歩前に出た。
「……貴様、マスターの前で無礼だ。謝罪しろ」
「何だと!? 雑魚ギルドのくせして……!!」
「おっ、ケンカか!?」
「いいぞ、やっちまえ!」
そんな一触即発の空気を、低く落ち着いた声が断ち切った。
「おいおい、ルーアン。何をやっとる」
いつの間に来ていたのか、ルーアンさんの背後には初老の男性が立っていた。
周囲のざわめきが、彼の一言で静まる。
「──師匠!!」
「私は剣を売るようには言ったが、他所に喧嘩を売るように言った覚えはないぞ」
「い、いえしかし! こいつ等が余計なことをするから私の剣が──」
「本当にそうか? 彼女たちのおかげで、いつもより集客が出来ているのではないか? 売れないのは、お主の腕の問題ではないのか?」
「…………」
ビシッと言われ、ルーアンさんは悔しそうに俯いた。
さっきまでの勢いは影も形もなく、ただ黙り込むしかない。
それを見て、初老の男性は小さく息をつくと、私たちの前に歩み出て頭を下げた。
「すまないね、ルーアンが迷惑をかけたようで。謝罪させてもらうよ」
「あーあー、頭上げてください! ウチもオルダン・ゴールドに頭下げられたら何も言えませんわ」
オルダン・ゴールドという名前を聞いた瞬間、周囲の喧騒が一層増した。
「……ん? オルダン・ゴールドって聞いたことあるぞ」
「いやいや、烈火のオルダンだろ? え、マジ本人?」
「え、烈火のオルダンって言えば、紅闘府のだよな?」
えっ、この男の人、凄い人なの!?
「そう言ってもらえるとありがたい。……それよりも」
オルダンさんは頭を上げると、アルテミスの方を見た。
「……お名前を伺ってもよろしいか?」
「私はアルテミス。マスターの従者です」
「ほぉう……」
そう言うと、オルダンさんはアルテミスと私を交互に見る。
「……失礼するよ」
そう言って、オルダンさんは人ごみに消えていった。
「いやぁ、烈火のオルダンをこの目で見れるなんてなぁ」
「あの方はどういった方なんですか?」
パンさんに教えてもらった話によると、
烈火のオルダンとは、30年ほど前に赤ギルドの最上位ギルド──紅闘府に所属していた冒険者らしい。
数々の伝説を残した結果、30年経った今でも烈火のオルダンという名前は冒険者の中で伝わっているそうだ。
「ルーアンはんの師匠なんか?」
「……そうですね。私は師匠のもとで修行がしたくてドルトステラに入ったんです。師匠がギルドマスターなので」
ルーアンさんは、肩を落としながらそう語った。
……そういえば、ルーアンさんの武器って装備するとどうなるんだろう?
この前の低級魔石の指輪も装備すると魔力が1上昇したけど、同じように攻撃力が上がったりするのかな。
私が戦えるとは思えないけど、ちょっと興味がある。
「あの、ルーアンさん」
「……はい、なんでしょう」
「良かったら、ルーアンさんの剣を見せてもらってもいいですか?」
「……え?」
「実は、私たち冒険者になったばかりで、まだ武器を持っていなくて。ね、アルテミス」
アルテミスの方を見ると、「まあ……」と渋々頷いた。
「でも、スライムを倒してたんですよね? どうやって……」
「そりゃもう、拳で!」
「拳で!?」
そう言って私は拳を前に突き出す。
と言っても、ゴブリンの拳、という注釈付きだけど。
「……まあ、そう言うことなら見ていってください。大したもんじゃないですけど」
「あ、あはは……じゃあ遠慮なく!」
すっかり自信喪失しているルーアンさんは置いといて、私とアルテミスはルーアンさんの剣を見て回ることに。
ルーアンさんの剣は付与の術式が美しく、見ているだけでも楽しい一品。
確かにこれを作れるんだったら、私のスライムゼリーを見て笑っちゃうのも納得かも。
一方のステータス上昇はというと。
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人間 無職 Lv. 4
【体 力】 12
【魔 力】 6(13)
【持久力】 11
【攻撃力】 1+10
【防御力】 1
【 運 】 999
【速 度】 1
【知 力】 1
【精神力】 1
【スキル】 亜人召喚Ⅰ 時短召喚術
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おおっ、攻撃力が10も上昇してる!!
これなら私でも、スライムを倒せたり……?
それに、アルテミスって武器持ってなかったよね。
そういう意味でも、ここで買っちゃうのはありかも?
そう思って、ルーアンさんに値段を聞いてみる。
「すみません、この剣はいくらですか?」
「……全部、一律で1000ギルドポイントです」
えっ、高くない!?
……でも、よくよく考えたらそんなものかも。
1ギルドポイントが1銅貨だから、一本10金貨ってことだよね。
さっき、付与ができる鍛冶師は上位1%って言ってたし。
「……まあ、サキさんには半額の500ギルドポイントでいいですよ」
「えっ、いいんですか!?」
「……謝罪の意味も込めて、です」
どうやら師匠に怒られたのが相当きているみたい。
でも500ギルドポイントなら、全然アリだよね?
一応、ギルドマスターのパンさんの了承を得て、買っちゃおうかな?
そう思い、パンさんに話に行くと、ちょっと驚いた顔をしつつ、「サキはん、上手いこと買ったなぁ」とニヤニヤしながら了承してくれたのだった。
◇
「今日はどうしました? 烈火のオルダンから呼び出されるとは、珍しい経験ですよ」
男は部屋に入るなり開口一番にそう言う。
紅闘府の本部の椅子に座っていたオルダンは、男を見るなり立ち上がる。
「突然すまんな。先日、面白いものを見たものでな」
「面白いもの……あなたがそう言うとは、興味がわきますね」
「ははっ、そうハードルを上げるな。……ヴァン、お主、腕の立つ召喚士を探していなかったか?」
「そうですね、我々の計画的に、召喚士は欠かせないですが」
「……良さそうなのが一人、見つかったのでな」




