011 ギルド市の出店準備!
翌日、私とパンさん、ペールルージュさん、そしてアルテミスの4人でやってきたのは、この街の中心に位置するケンパバーンという広場。
普段は街の人に一般開放されているけど、週末はギルド市の開催場所になっていた。
私たちがここに来た目的は、もちろんギルド市の準備。
今日のうちに仮設テントを設営しに来たというわけだ。
「ここがウチらの区画や」
パンさんが腰に手を当てて見つめる先には、木の長テーブルが1つ置かれただけの一区画が。
「……なんにもないですね」
「当たり前や、設備は自分で準備するんやからな。よーし、ちゃっちゃとやるで! 準備はできとるやろな、ルル!」
「はいはい。ちゃんと持ってきてるわよ」
そう言ってペールルージュさんが革袋をテーブルに置く。
あんまり大きくない袋だけど……何が入ってるんだろう。
「まさかまた役立つ日が来るなんてね」
「せやなぁ、もう捨てよ、もう捨てよ思ってても、もったいない精神で置いといてよかったわ、その魔術具」
「魔術具……?」
「せや、それは建造の術式が彫られとってな──まあ、見た方が早いか」
そう言うと、パンさんは革袋から何かを取り出した。
それは、中央に窪みが空いた円盤のような見た目のアイテム。
「これが魔術具や。ほら、周囲に迷路みたいなんが彫られとるやろ? これが魔法回路や。これが特定のパターンで掘られとると、術式って呼ばれるわけやな。で、ここに魔力を流すと、術式のパターンに応じた魔法が発動する仕掛けや」
パンさんに近くで見せてもらうと、確かに円盤の周囲には複雑な紋様が彫り込まれていた。
なるほど、つまり魔術具っていうのは、魔法を発動させるアイテムってことだよね。
「で、これの場合は建造魔法が発動するってわけ」
「ほら、この中央の穴に魔石を嵌めるとやな──ほら、術式が光ったやろ」
パンさんの言う通り、術式には黄色い光が灯った。
「あとは、これを地面の上に置いてやな。中央の魔石にちょーっとウチの魔力を流して起動してやると──」
ゴゴゴッと音がして、設置した魔術具を中心に、周囲に布のテントが形作られていく。
そしてあっという間に、仮設テントが設営されてしまった。
「おおっ! 一瞬でテントが! 便利ぃー!」
「せやろ。めーっちゃ高かったんやで? ちょっと年季入っとるけど、まだまだ現役や!」
パンさんが嬉しそうにそう言ったとき、横の区画の人が鼻で笑うのが聞こえてきた。
どうしたんだろう、と思って見てみると、その男の人もカバンから魔術具を取り出した。
でもあっちのはもっと小型で、こっちのよりもずっと細かい術式が彫られている。
その人も同様に自身の区画の中心に魔術具を置くと、真っ赤な魔石を取り出して嵌め、指でなぞる。
──すると、轟音とともにあっという間にレンガ造りの家が立ち上がった。
「す、すごっ!!!!」
私がビックリして、出来た家に近寄る。
触ってみると、本物のレンガで出来ているのが分かった。
一瞬で家が建っちゃうなんて、魔術具ってとんでもないな……。
「あ、すみません、勝手に触っちゃって」
「構わないですよ」
男の人は気にしてない素振りを見せる。
「おーおー、こりゃ最新式のやつやな。魔石やってウチのよりよっぽどええやつ使っとるな。ああ、挨拶が遅れました、ウチら、横で出店させてもらいますギルドの”グランベルジュ”や。お互い、売って売って売りまくろな!」
「……私はドルトステラ所属のルーアンです。まあ、よろしくお願いします」
「へー、ドルトステラ言うたら赤の上位組織やんか!」
えっ、赤ギルドってことは、五大ギルドの一員!?
「すごいですね! 今回は何を出すんですか?」
「──これですよ」
男が指差す先には、袋の中に剣が大量に入っていた。
「赤は鍛冶で有名なんや。あれ、アンタが造ったんか?」
「そうですね。……そっちは何を?」
「ダンジョンでゲットした、スライムのドロップアイテムです!」
「──ぶふっ!! それならギルド運営に売った方がよいのでは?」
「……貴様、マスターを馬鹿にしたな?……殺す」
「わー、待った待った! お、お邪魔しました!」
アルテミスが一歩前に出ようとするのを引き戻して、私たちは自分たちのテントに戻っていく。
戻る際中、ペールルージュさんが私に耳打ちをした。
「ねえ見て、彼の作った剣の刀身──付与の術式ね」
ペールルージュさんの声に、よく見てみると、そこにはさっき見たような魔法回路が彫られていた。
「彼、かなりデキる鍛冶師のようね。高慢な態度は、それだけ自信があるからってことみたい」
「剣にも術式を彫ったりするんですか?」
「そうね。相当な技術が必要だけど。付与ができる鍛冶師は、上位1%って言われてる」
へぇ~、つまりこの男の人は一握りの鍛冶師ってことか。
そんな人からしたら、確かにスライムのドロップアイテムは可笑しいのかも。
そう自分で納得していると。
「へっへっへ。サキはん、気にせんでええで。明日、アンタのアイテムで度肝ぬいたろ」
そう言うパンさんの顔には、悪い笑みが浮かんでいた。




