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勘違いしてた幼馴染が俺の告白を受け入れてくれるわけないと諦めてたら、向こうも同じこと思ってて両想いだったことが判明した

作者: 住処

 大学四年の春、俺は諦めることに決めた。


 柊美月。同じゼミに所属する、笑顔が眩しい女の子。いつも周囲を明るくして、誰にでも優しくて、成績優秀で——要するに、俺なんかが好きになっていいはずがない相手だ。


 それでも三年間、俺はずっと彼女を見ていた。


 講義のノートを貸してくれる時の、少し照れたような笑顔。ゼミの飲み会で、酔った友人を介抱する優しい横顔。学食で一緒にご飯を食べながら、たわいもない話をする、あの穏やかな時間。


 全部、全部、好きだった。


 でも、それだけだ。


「九条、聞いたか? 柊さん、彼氏いるらしいぞ」


 ゼミ仲間の田中が、悪気なくそう言った瞬間、俺の中で何かが音を立てて崩れた。


「……マジで?」


「ああ。女子から聞いた。最近、誰かと遊園地行ったとか何とか」


 ああ、そうか。


 そりゃそうだよな。美月みたいな子が、彼氏の一人や二人いないわけがない。


 俺は、ただの同じゼミの男でしかない。彼女にとって俺は、「優しくしてあげる対象」の一人に過ぎないんだ。


 その日から、俺は美月との距離を少しずつ取るようになった。


 話しかけられても、そっけなく返す。ノートを貸してと言われても、「今日は用事があるから」と断る。


 彼女の困ったような顔を見るのは辛かったけど、これ以上、自分の気持ちを膨らませるのは無理だった。


 ——そして、美月も少しずつ、俺に話しかけなくなった。


 それでいい。それが正解なんだ。


 そう自分に言い聞かせながら、俺は卒業に向けて就活に打ち込んだ。


---


 五月のある日、ゼミの集まりがあった。


 新歓を兼ねた飲み会で、美月も参加していた。彼女は相変わらず笑顔で後輩たちと話していたけれど、俺とは目を合わせようとしなかった。


 当然だ。俺が避けていたんだから。


 飲み会が終わり、解散する頃には雨が降り出していた。傘を持ってきていなかった俺は、コンビニで買うか、と思っていたところで——。


「あの、九条くん」


 振り返ると、美月が立っていた。


 彼女も傘を持っていないようで、少し困ったような顔をしている。


「……傘、ない?」


「うん。忘れちゃって」


「……俺もだ」


 沈黙。


 少し気まずい空気が流れる。でも、このまま放っておくわけにもいかない。


「……コンビニ、行くか」


「うん」


 俺たちは並んで歩き出した。


 雨は次第に強くなり、コンビニに着く頃には二人ともずぶ濡れだった。傘を買って、店の軒先で雨宿りをする。


 美月は濡れた髪を絞りながら、小さく笑った。


「……ひどいね、今日」


「ああ」


「最近、九条くん、私のこと避けてたよね」


 ドキリとした。


 彼女は俯いたまま、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。


「何か、嫌なことしちゃったのかなって。ずっと考えてたんだけど……分からなくて」


「……そんなんじゃない」


「じゃあ、何?」


 美月が顔を上げた。その瞳には、いつもの笑顔はなかった。


「私、九条くんと話すの好きだったのに。なんで急に距離取るようになったの?」


 胸が痛い。


 でも、ここで嘘をついても仕方ない。


「……お前、彼氏いるんだろ」


「え?」


「田中から聞いた。遊園地行ったって」


 美月は目を丸くして、それから——笑った。


「それ、妹だよ」


「……は?」


「妹。高校生の。一緒に遊園地行っただけ」


 俺の思考が停止した。


「彼氏なんていないよ。っていうか、九条くんこそ彼女いるじゃん」


「いや、いないけど」


「嘘。この前、女の子と二人で歩いてたの見たよ」


「それ、従姉妹だ」


「……え」


 沈黙。


 そして——二人同時に、噴き出した。


「なにそれ」


「お前が言うな」


 笑いが止まらなくなって、俺たちはしばらくそのまま笑い続けた。


 雨音が、少しずつ小さくなっていく。


「……じゃあ、九条くん」


 美月が、真っ直ぐに俺を見た。


「私のこと、どう思ってる?」


 心臓が跳ねた。


 でも、もう隠す理由はない。


「……好きだよ。ずっと」


「……私も」


 え?


「私も、ずっと好きだった。でも、九条くんには彼女がいるって思ってたから……諦めようとしてた」


 美月の頬が、ほんのり赤く染まっている。


 俺は、信じられない気持ちで彼女を見つめた。


「……マジで?」


「マジだよ。っていうか、今更何言ってるの。もう、バカ」


 美月がぽかぽかと俺の腕を叩く。その手を、俺は掴んだ。


「……付き合ってくれる?」


「……うん」


 彼女が、笑顔で頷いた。


 いつもの、眩しい笑顔。


 でも、今日のそれは、俺だけに向けられたものだった。


---


 それから一ヶ月。


 俺たちは、正式に恋人同士になった。


 美月は相変わらず誰にでも優しいけれど、俺にだけ見せる甘えた表情や、二人きりの時の少し照れたような仕草が、たまらなく愛おしい。


「ねえ、九条くん」


 デート帰りの夜道、美月が俺の腕に抱きついてきた。


「もっと早く言ってくれればよかったのに」


「……お前もだろ」


「だって、怖かったんだもん。フラれたらどうしようって」


「俺もだよ」


 美月がくすくすと笑う。


「……でも、よかった。こうなって」


「ああ」


 手を繋いで、ゆっくりと夜道を歩く。


 三年間の片想いは、勘違いとすれ違いの末に——ようやく、報われた。


 そして、俺たちの恋は、ここから始まるんだ。


---


 ある日、ゼミの打ち上げがあった。


 そこには、あの噂を流した田中もいた。


「九条、柊さんと付き合ってるって本当?」


「ああ」


「マジかよ! あの時、彼氏いるって言ったのに!」


「それ、デマだったから」


「えっ」


 田中が固まる。


 美月が、俺の隣でにこにこと笑っていた。


「田中くん、ありがとね。あの噂のおかげで、九条くんが動いてくれたから」


「いや、でも……」


「まあ、結果オーライってことで」


 俺が肩を竦めると、田中は頭を抱えた。


「……お前ら、幸せになれよ」


「ああ、もちろん」


 美月が、ぎゅっと俺の手を握った。


 その温もりが、何よりも嬉しかった。


---


 それから数ヶ月後、卒業式の日。


 俺たちは、桜の木の下で写真を撮った。


「ねえ、九条くん」


「ん?」


「これから先も、ずっと一緒にいてね」


「……当たり前だろ」


 美月が、幸せそうに笑った。


 勘違いから始まった恋は、こうして——本物の愛に変わっていった。


 そして、俺たちの未来は、これからも続いていく。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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