表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Pure White Story

作者: 180分ア〇ル舐め

雪は静かに降り続けていた。すべてを覆い尽くすように、白く、ただ白く。


この世界では、何もかもが「白と黒」しか持たない。空も、木も、人の瞳さえも。誰もがそれを当たり前として生きていた。だが、ユナにはひとつだけ、人とは違う“感覚”があった。


──触れたものから、色を感じ取ることがある。


例えば、村の外れの花に手を添えたとき、胸の奥で淡い“赤”のような何かがざわめいたことがある。だが、彼女はそれを口に出したことがなかった。おかしな子だと思われるのが怖かった。


ある日、ユナは山の斜面で倒れている青年を見つけた。


「……大丈夫?」


声をかけると、彼はゆっくりと目を開けた。その瞳に映るのもまた、白と黒の世界。ただ、彼の手に握られていた本だけが、ユナの指先に淡い“青”のような震えを伝えた。


本の表紙には、かすかに「Pure White Story」と記されていた。


「君に……預けたいものがある」


そう言って、青年──レオは本をユナに渡した。


彼は「色」を探して旅をしているのだという。そして、この本が色を取り戻す鍵になるかもしれない、と。ユナは胸の奥で何かが目を覚ますのを感じた。それは、今まで感じたどんな“色”よりも強いものだった。


二人は村を出て、旅に出た。


白と黒の世界の中で、本に導かれるように進む。ページには、かつて存在した“色彩の記憶”が断片的に書かれていた。赤い空、緑の森、青い海。ユナはそれらの言葉を指でなぞるたび、色が体に流れ込んでくるような感覚にとらわれた。


だが、ある街で出会った老書記が語った言葉が、旅の空気を一変させた。


「色はね、人の“罪”が招いたものだよ」


彼が言うには、数百年前、人々は色を使い争いを繰り返した。赤は血を、緑は毒を、青は涙を象徴し、やがてそれらは感情とともに暴走したのだという。人々は恐れ、色を世界から封じた。それが“純白の誓い”――Pure White Storyの原点だった。


ユナはその夜、ひとり思い悩んだ。


「色を取り戻すって、本当にいいことなの?」


レオは答えた。


「色そのものが罪なのではない。人がそれをどう使うかだ。色を知ることで、人はもう一度、何を選ぶか試されるんだ」


物語の転換点は、かつて“色を封じた”中心地──聖域と呼ばれる遺跡だった。


封印の祭壇で、ユナは本の最後のページを開いた。そこにはただ一言、


「あなたが最後の色を決めなさい。」


という言葉だけが記されていた。


突然、ユナの視界が鮮烈な光に包まれる。そこには、彼女の記憶にさえなかった本当の“色”が溢れていた。赤、青、緑、金、紫──その全てが、彼女の内側からあふれ出すように広がっていく。


「……きれい」


ユナは呟いた。


けれど同時に、彼女の周囲からは悲鳴が聞こえてきた。遺跡の番人たちが、色の奔流に怯え、逃げ惑っていたのだ。


「色は恐れられている……でも、それでも私は――」


ユナは、レオとともに手を取り、封印の中央に立った。


「私は信じる。この世界に、色があっていいって」


そして彼女が選んだ“最後の色”は――「雪の白」。


それは、すべてを拒まない色。色を持ち、同時に持たない、無垢なる受け入れの象徴だった。


その瞬間、世界は震えた。そして、ほんのわずかに“色”が戻ってきた。木々にわずかな緑が、空にほんのりとした青が。人々は戸惑いながらも、それに目を向けはじめた。


それから数年後。ユナは村に戻り、語り部となった。


「昔、この世界は色で満ちていた。そしてある少女が、“白”から物語を始めたんです」


子どもたちは目を輝かせながら聞いた。誰かがぽつりと尋ねる。


「色って、こわい?」


ユナは優しく笑った。


「いいえ。色はね、“人の心”そのものなの。だから、こわがらずに、大切にしてあげて」


こうして、世界は少しずつ、再び色を取り戻していった。


その始まりこそが、Pure White Story──

“真っ白な物語”の、最初の一行だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ