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深夜の匂い
深夜1時の屋上、冷たい風が僕の体を纏う。
ギシギシと軋むフェンスを乗り越え
高さ5mの世界を覗き込んだ。
「…高けぇ。」
月に手が届きそうな空間に思わず息を飲む。
様々な苦痛、誰にも届かぬ声。
耐えきれずにこの世から消えようとしている僕は命を無駄にしているのだろうか。
いや、きっと無駄なんかじゃない。
彼の世界は遠の昔に色あせていた。
塗っても塗っても色のつかないキャンバスのような人生、心。
哀しみさえも喜びさえも、もはや彼には何も残っていない。
「…いける。今なら……」
震える体を無理矢理落ち着かせ、深く息を吐く。
鼻につくゴミの匂い、慣れない都会の香りを振り払う。
暗く深海のような暗闇を見透かし、スっと身を乗り出した彼は皮肉な声で言う。
「さよなら。俺のクソみたいな世界。」
目が眩むような月を見ながらゆっくりと落ちていく身体。
幸せそうな表情。僕の人生は終わる。
そう、これで終わるんだ。