第9話 本能
「いやーうまかったなぁ焼いた魚!」
今日も朝から当たり前のようにブローズは僕の住処にいる。
「今日も持って行って焼いてもらおうぜ!あのおばさんによ!」
「だーめだよ連続は。お世話になりすぎるとよくないの。」
「えー、そうか?そういうもんなのか?」
「そ。一週間とか一か月頑張ったご褒美で頼みに行くならいいかもだけどね?」
「そっか!わかったじゃあそうしようぜ!相変わらず人間に詳しいなあお前は。」
何とも言えない顔をする。
「今日の姫様は何をするんだろうな。さすがに二日連続で失敗続きだったからがっくりきてんじゃねえかな。」
「うーん、ハンナが簡単にあきらめるとは思えないけどね・・・」
朝食の木の実をつまみながら会話を続ける。
「ブローズはスパイがどういうものか知ってるの?」
「詳しくは知らん!この目で見たことないからな!」
元スパイならここ最近毎日見ているけどね・・・
「それがどうした?」
「いや別に?聞いてみただけだよ。」
「なんだよ。」
話しかけたことにグダグダとした理由はない。
今更ながら、単純に楽しかっただけなんだ。
ブローズと一緒にいられることがうれしかったんだ。
なんというか今までの人生は孤独だった。
みんな僕と遊びたがっていっぱい誘ってくれていたが、なんだかそれは違う。
人間だった頃の皆は白鳥令ではなく白鳥令というブランドを求めて近寄ってきていた。
ブランドを身に着けることで、一緒にいる自分たちのことを着飾っていた。
だから最悪、僕じゃなくてもいいんだ。僕みたいな何かを身の回りに置けさえすれば皆は満足だったんだ。
でもブローズは違う。
まあ人間の言葉がわかるからっていうのは一つの理由ではあるんだろうけど、それ以上に僕の中身を好きでいてくれている。そんな感じがしていた。
心の友。よく聞く言葉だけど、ブローズのことはそう呼べるかもしれない。
「な、なんだよじっと見つめて。気持ち悪いぞ。」
「ふふっ、じゃあそろそろ城のほうに行こうか。」
「ああそうだな。今日はどんなドジっ子を見せてくれるかねえ。」
・・・・・?
「なんか今誰か笑わなかった・・・?」
「へ?いや特に何も聞こえなかったが・・・。風の音とかじゃないか?」
「ああそう・・・。」
大きくそびえたつカホーゴ城を越え、
僕たちはいつもの訓練場に降り立った。
「あれ、なんだよ誰もいねえじゃねえか。」
大がかりなセットはおろか、兵士もメイディもハンナも見当たらない。
「どうしたんだろう、今日は中で何かやってるのかな。」
「かもな。姫様の部屋見に行こうぜ。」
多少のためらいはありつつも、ブローズの提案に乗る。
「たしかあの真ん中の塔だったね。」
「ああそうだ。」
僕たちは真ん中の塔を目指し昇って行った。
塔に備わった石枠の窓にぱたぱたと止まる。
部屋の様子を伺ってみると、なにやらメイディが椅子に腰を掛けており、その横のベッドの上ではハンナが静かに眠っていた。
「なんだよお寝坊さんかい。」
「いや、なんか様子が変だよ。」
寝坊だとしたらメイディが起こさないはずがない。
今のメイディはただ静かにハンナを見守るのみだ。
キィと扉から音が鳴り、ぬっっと何者かが顔を覗かせた。
ダイナ王だ。
「娘の具合はどうじゃメイディ。」
「ええ、相変わらずでございます。まだ熱を帯びているようで。」
「むぅ・・・」
やっぱり。ハンナは風邪をひいてしまったようだ。
「珍しい。ハンナが風邪をひくなんぞ、生まれてから滅多になかったことぞよ。」
「それだけ最近のハンナ様の頑張りは異常だったということです。」
「頑張りすぎたということか。」
「頑張りすぎましたし、それ以上に今までの生き方が優しすぎたのかもしれません。」
王は肩を落とす。
「メイディ・・・わしは悩んでおる。悩み続けておる。ハンナのスパイになりたい気持ちをどうするか、どこまでわしがハンナを守るのか、どれだけハンナを縛るべきなのか。正解のわからぬゲームは自らの選択肢を信じるしかない。そう思っていたが最近どうもそのすべてが裏目に出ている気がしてならんのじゃ。」
「お察しします。」
「こんな時わが妃なら、メリーナならどうするだろうか。そんなことを考える毎日じゃ。」
「メリーナ様ならきっと、ダイナ様の考えを尊重すると思いますよ。」
被せ気味でメイディは言葉を返す。
「そう思うか?」
「ええ。尊重し、そしてあなた様の考えがうまくいくよう一生懸命サポートするでしょう。」
「・・・そうか。」
「メリーナ様亡き今、その役目は私が担っていると自負しております。つまりハンナ様の教育に関してダイナ様がうまくいっていないとお考えなのであれば、それはダイナ様あなただけの責任では決してございません。私の力不足も大きな要因なのです。」
メイディのその眼差しは、老いを感じさせないほど熱くたぎったものであった。
「ダイナ様、あなたは命の恩人です。私だけではなく、私の家族まで生かしてもらっている。」
「そなたの一人息子のことか。城の者を向かわせ、ほぼ毎日仕送りをしておるが、直接顔を見たことはないのう。写真で見たのみじゃ。元気にしておるか?」
「ジュニアの様子はわかりません。」
「会いに行かないのかね。わしは別に禁じておらんぞ。」
「合わせる顔がないのです。私はスパイとして潜入した国に捕らわれ、そしてその国で働かされている。その情報だけ聞けば、そんな父親情けなくて仕方がないと思うのです。きっとジュニアは私のことを恨んでさえいる。」
「そういうものなのかね。」
「しかし現実は違います。もうあの家には子を養えるだけのお金も力もなかった。ダイナ様に救っていただけなければ、私もジュニアも死にゆく運命でした。」
「・・・そうか。」
「だからこそ、あなた様の子を立派に育ててあげたい。サポートしてゆきたい。それが私のダイレクトな気持ちです。」
「その気持ちを自らの子にぶつければよいではないか。」
「ですから、合わせる顔がないんです。もう、私なんぞ、こんな父親なんぞ、いない方がジュニアも幸せなのです。」
「・・・メイディ、お前の気持ちは十分伝わってきた。すまなかったな、弱音を見せてしまって。」
「いえ、とんでもございません。私はこれからもダイナ様とハンナ様のために生きてゆきます。メリーナ様の想いを叶えるためにも。」
ベッドの上では変わらずハンナが寝息を立てている。
特段具合が悪そうでもないが、良さそうでもない。
額に当てられた氷は、その三割が水へと変わりつつあった。
「ブローズ、氷を調達しよう。」
「え?どうすんだよ氷なんて。」
「ハンナの熱を冷ますために使うんだよ。」
「何も俺らが用意しなくたって兵士たちがちょちょいと持ってこれるだろうよ。それに、お前姫様には関与しないんじゃなかったのか?城の者には姿を見せないんじゃなかったのか。」
「なんかもう、そういう細かいことを気にしてる自分が嫌になってきたんだよ。もっとシンプルに、もっと素直に純粋に、僕はハンナのためになることがしたいんだ。」
「そ、そうか?お前がそこまで言うなら俺はかまわないぜ。」
初めて情熱を見せた僕の姿に、ブローズは少々押され気味だ。
「けどよ、氷なんてどこで調達するんだ。」
「こういうときに頼れるところは一つしかない。」
「あのおばさんのところか。」
「あら、あんたたちどうしたんだい。また何か焼いてほしいのかい?」
ホテルピアの店主ナオミ。いつも僕たちを温かく迎え入れてくれる。
本当に感謝しかない。
人類との交渉役は僕の務めだ。
氷が必要なことをなんとか伝えようとする。
「うーんなんだろうねえ。さすがにちょっとわからないよ坊や。」
「おいミギノメ通じてないぞ。」
「くそっ氷ってどう伝えるんだ・・・。」
僕は歩いてたら足を滑らせた、そんな感じのジェスチャーをしてみる。
「・・・滑り込んでいるね。」
ツイー
「・・・スライディングかい?」
ツイー
「・・・なんでやねーん的な?」
駄目だ。さすがに厳しい。
僕はうんうんと頭を悩ます。
「なあミギノメ。俺はバカだからわかんねえけどよ、昨日魚を焼いてほしいってのが伝わったのは実際に魚を持ってきて見せたからじゃないか?」
「つまり氷を見せさえすれば伝わると?」
「どっちにしろ手詰まりだ。やってみるしかねえ。」
確かにどっちにしろ手詰まりだ。やってみるしかない。
僕はナオミに翼で(チョイ待ち。)とやり、ブローズとともに飛び去る。
「なんのこっちゃわかんないけど、気を付けて行くんだよー?」
「さあどうする、一つでも手に入りゃあ御の字だが。」
「うーん・・・」
街上空を飛び回りながら頭をひねる。
「氷がありそうな場所氷がありそうな場所・・・・・そうだ!バーに行こう!」
「ばあ?なんだそりゃ?」
「酒場だよ!人間たちがお酒を飲むところ!」
「ほー、確かに。考えたものだな。」
「でしょ!」
「ていうか、なんならそこで全部氷を調達すればいいじゃねえか。」
「駄目だよ。僕たちが氷を持ち出したことで、お酒を冷やすための氷が無くなったら大変なことだろう?」
「ふーん。まあお前が言うならそうなんだろうな。じゃあいこうぜ。酒場なら東の居住区にあるはずだ。」
「あったあった。ここだぜ。」
「『バッカス』・・・。」
「おっ、そんな名前だったのか。初めて知った。」
「人間の文字が読める僕がいてよかったね。」
「で、ここからどうやって氷を持ち出すんだ。」
「作戦はあるよ。」
「なんだ、今日のお前随分と冴えてるじゃねえか。」
「まずはこのバッカスの入り口ドアをノックする。で、ホテルピアのおばさんもそうだったんだけど、人間たちはまさかカラスがドアをノックするとは思っていないから、人間に合わせた目線の高さでドアを開ける。その瞬間、死角となっている足元から部屋の中へGOさ。」
「おーすげえ。なんか、お前のほうがスパイになれそうじゃねえか?」
「なに、カラスだからこそなせる業なのさ。」
僕とブローズはバッカスの扉の前にスタンバイした。
「よし、とりあえず俺が扉をノックするぞ。」
「おっけい、中から店主が出てき次第二人で侵入だ。」
ブローズはぴょいと飛び上がり少々高めの位置でドアをノックする。
人間の所業だと錯覚させるためだ。
コンッ
ゴンッ
「!!」
「・・・なにやってるの、降りておいでよ。」
「みゃ、みゃずい(ま、まずい)。にゅけにゃくなっふぁ(抜けなくなった)。」
「ええ!?」
ブローズはドアに口ばし刺したままぷらぷらとぶら下がっている。
「ぐぬっっ・・・」
必死に足で踏ん張って抜こうと試みているようだ。
そんな時に内側から足音が響いてきた。
そんな時にというか、まあ当たり前か。
「は、はやくしないとっ・・・」
「そんなこと言われてもだな・・・・」
かちゃりと中から音がしたかと思えば、そのままブローズがぶら下がったままの扉がキィと開かれる。
「・・・どなたかな?」
中から顔を覗かせたのは、ゴリゴリマッチョの強面スキンヘッドだ。
その見た目の凶暴さに僕は少々圧倒される。
「(ブローズ!)」
「(行け!お前だけでも入れ!)」
ブローズは目線をクイクイとバーの中へと向かわせる。
「(やるしかない、ハンナのためにも!)」
意を決し、僕はその男の足元からするりとバーの中へと侵入を果たした。
バー『バッカス』の中は洒落た落ち着きのある大人の雰囲気。
大型のワインセラーだけでなくウイスキーのようなものもおいてあり、そのインテリアの数々は店主のこだわりが垣間見えていた。
「(どこだ・・・氷は・・・・)」
「どなたでしょうかー。いたずらですかー。」
店主のスキンヘッド男はノックした主を探し、ドアの外を見渡しているようで扉が半開きの状態であった。
あの扉が開いているうちに事を済ませられなければ、ここからの脱出はかなり厳しいものとなる。
「(あそこにあるだろうか。)」
僕が目星をつけたのはカウンターに備わったキッチン。
大体そこに氷が置いてあるイメージだった。
予想は的中した。
シンクの上には小さめのバケツが置いてあり、その中には大量の氷が入っていた。
「(・・・許してくれ、ハンナのためなんだ。)」
僕はひしひしと罪悪感を胸に焼き付けながらも、氷を二つほど拝借した。
氷をつかんだその足が、冷たさを訴えてくる。
「うん?なんだ、カラスが突き刺さってらあ。」
「カー・・・(ワルイカラスジャナイヨ・・・・)」
どうやらブローズは見つかったようだ。
か細い声が聞こえてくる。
店主の男はブローズをガッシリと掴み、そのままスポーンと簡単に引っこ抜いた。
ドアにはほっそい穴が出来上がっている。
「おい、もう悪いことはしちゃだめだぞ。」
「カー・・・(タベテモオイシクナイヨ・・・)」
男は睨みをきかせながらもブローズのことをそっと地面に放してあげた。
ブローズはすぐさまバーの中を覗き、僕と目が合う。
「カーカー!(おい!ミギノメ!急げ!)」
「うん?なんかうちの店の中にいるのか?」
ブローズの鳴き声に反応し、店主は僕の方を振り返る。
「(まずいっ)」
このままでは見つかってしまうと判断した僕は奇策に出た。
僕は両足に氷をつかんだまま店の床へと滑空し、その勢いと氷の滑りを利用してアイススケートのようにシャーっと出口を目指す。
そうしてそのままガニ股に開かれた店主の足の間を通過し、シャッと空へと飛び立った。
テイクオフだ。
「おーい!おいてくなよーー!!!」
「・・・ふう。なんだかんだ上手くいったな。」
「うん、店主を引き付けてくれてありがとうね。」
「あ、ああ。まあ、どうってことないぜ。ハハハ・・・」
「さて、この氷を見せたらおばさんはわかってくれるかな。」
「どうだろうな。おばさんのみぞ知る世界だ。」
お互いに氷を一つづつ抱え、僕らはホテルピアへと帰ってきた。
ブローズがどこか慎重な素振りで扉をノックする。
「あら、坊やたちまた帰ってきたのかい?」
僕とブローズは抱えていた氷をナオミの前にぺちゃりと置いた。
「ん?氷?」
「アー!アー!アー!(氷が!たくさん!必要なんだ!)」
二人して翼をバサバサ扇ぎながらその量を示唆する。
「うーん・・・」
バッサバッサ
「なんか、氷が必要なのかい?」
大きくうなずく。
「まあ!ほんとあたしったら天才的ね!こういう仕事に転職しようかしら!」
ナオミは半ばスキップ気味で宿の中へと入っていくと、両手に収まるほどの小さな麻の袋に氷を詰めて持ってきてくれた。
「完璧じゃねえか。」
「カーカー!(ありがとうおばさん!この借りは必ず返すよ!)」
「溶けないうちに上手に使うんだよ!」
ブローズが袋を足でがっしりと掴み、僕らは城へと飛び立った。
「さて、問題はここからだな。果たしてあの爺さんが受け取ってくれるのかね。」
「正直自信はない。でも、ハンナがつらそうにしているのに黙ってみていられるほど僕は大人じゃないんだ。」
「姿を見せたら、最悪殺されるかもな。」
「もはや僕はそれでもかまわないよ。やらない後悔より、やって大成功だよ!」
「当たり前だろそれは・・・・」
しばらくして、僕たちはハンナの部屋のある塔へと戻ってきた。
こちらはいろいろとあったがハンナのほうは相変わらずだ。
静かに眠るハンナをメイディがそばで見守っている。
氷の入った袋を窓枠に置き、僕らは気持ちを整える。
「準備はいいか、ミギノメ。」
「もちろんだよ。」
「よし、いけ!」
「カァ」
「ん?」
「カァーカァー」
メイディは声に反応し、こちらを振り返る。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
お互いに無言で見つめあう。
気まずい、と表現する方が易しいのではないと感じるほどの
緊張感が場に立ち込める。
「・・・・君はもしかして、以前森で出会ったカラスか?」
僕はじっと見つめる。
メイディは椅子から立ち、こちらへと一歩一歩踏みしめるように近づいてくる。
「確証はないがきっとそうなんだろう。この辺りでカラスなんぞ滅多に見ないからな。確か名前は・・・・・」
僕は顔を横に向け、ちらつかせる。
「ミギガワ、だったかな?」
「なんだよこいつも姫様と大して変わんねえじゃねえか。」
まあでも正直この際名前が何だろうと僕にとってはどうでもよかった。
僕は、僕とブローズの間に置かれた麻の袋を口ばしで指し示した。
「ん?なんだねこれは。」
メイディは袋を持ち上げ、中身を確認する。
袋の下の方から水滴がぽたぽたと滴った。
「これは・・・氷か。」
僕はハンナの方にと目で訴える。
「・・・そうか。」
メイディは袋を持ったままハンナの眠るベッドの方へと踵を返した。
そしてハンナの頭に置かれていた絹の袋を取り、中身をジャッとボウルへと捨て、僕たちが調達した袋の中身をその空の袋へと移した。
「おっなんだよ意外と物分かりがいいじゃねえか。」
メイディは中身が新調された袋をハンナの頭にそっと置きなおすと、またこちらへとゆっくり戻ってきた。
再度僕たちは相対する。
「・・・・初めてかもしれないな。カラスに対してプラスの感情が湧いたのは。」
静かにメイディを見つめる。
「帰ろうか、ブローズ。」
「え、なんだ随分とあっさりだな。」
「目的は達成できた。これ以上ここにいると迷惑をかけてしまうかも。」
「はいはいわかりましたよ。」
「一つ、勘違いしないでほしい。」
僕たちの帰りそうな雰囲気を感じ取ってか、メイディは言葉を挟んできた。
「私や王様がハンナ様に森へ行くことを禁じたのは、君達カラスと会わないようにするためではない。そもそも森自体が危険な場所だからだ。君たちの想像以上に我々はハンナ様を大事に思っている。だからこそ、少しでも危険な場所には姫様を向かわせたくないのだ。ハンナ様は君に会うのを非常に楽しみにしていた。そうすると、森に行く頻度も上がってしまう。だから手遅れになる前に早めに森へ行くことを禁じようと試みた。そういうことだ。」
「つまり私はミギノメとお城でなら会っても良いってこと・・・・?」
メイディの背後から、なんとも愛おしい声が耳に刺さってきた。
「おおハンナ様、起きていらしたのですか。無理はなさらずそのまま今日は横になっていてください。」
「そうさせてもらうけど、そんなことより私はミギノメとお城でなら会ってもいいのか聞いていますのよ。」
「そうですね、そういうことになるでしょう。」
ブローズは「(よかったじゃねえか!)」とこちらに顔で叫んでくる。
「ミギノメ、そこにいるの?」
「カー!(いるよ!)」
ベッドからか細く響くその声に、僕は反応する。
「これから毎日必ず会いに来てよね。約束なんだからね。」
沈みゆく夕日の光を優しく照らし返す一つの光。
奮えて声の出せぬ僕の右頬を、その水滴はツーッと辿って行ったのだった