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第11話 コネクト

「おい!そろそろ食ってみろって!世界が広がるぞ!」

「やだ!むりむりむり!」

「ちくしょうガキみてえなこと言うな!」


朝日が照らす緑の大地で、今日も死にかけの虫が僕とブローズの間を行ったり来たりしている。いや、させられている。


「ハンナが見たらどう思うかね!『あらあらミギノメ、虫も食べられないなんてほーんとがっかりですわよですわよですわ!』なーんて言われちゃうかもな!」

「変なからかいをするな!」


小一時間じゃれあう僕たち。

毎度のことながら、なんやかんや幸せである。



「ほら早くお城に行くよ!ハンナが心配だ!」

「ほーら困ったらすぐハンナだな!」

「いいからほら!」

僕は半ば強制的に飛び立ち、ブローズに後を追わせた。




城下町上空。

ハンナの塔へと向かう最中。

市場の辺りは相変わらずの盛況ぶりだ。

こうした経済面での盛り上がりが、この王国で争いが起きない、そしてこの王国が争いを起こさない大きな要因の一つであることは間違いなかった。


「あのリンゴ売りいるだろ?」

ジョーイのことだ。

「あいつ、毎年売るものが変わるんだぜ。」

「え?そうなの?」

「ああそうだ。今年はリンゴだが去年はキノコだった。」

「なんで毎年変えてるんだろう。」

「風の噂によると、どうやらどの食材が一番利益を出せるのか毎年試しているらしい。」

「へえ、なるほどね。」

「リンゴは市民には売れるだろうけど、王家の人間とかちょっと高級な階級の奴らにはあまり売れねえ。あいつらあんなものよりもっといい感じのリンゴ食ってるからな。」


この世界に来たばかりの頃ハンナから授けられたリンゴが脳裏にフラッシュバックする。あのリンゴは僕の命を救っただけでなく僕とブローズを巡り合わせてくれた。

感謝しかない。


「だからきっとリンゴを売るのは今年で辞めるだろうな。」

「なんだか寂しいね。」

「いや別に。あいつが何を売ろうが、なんなら破産しようがまじでどうでもいいぜ。そんなことよりあそこの音楽隊がいなくなっちまった方が俺は寂しい。」


市場の中央地からはほんの少し離れたところで、少人数の音楽隊がどんちゃかどんちゃかと、この街のショッピングに華やかさを演出していた。

「俺はああいう陽気な奴らが好きだ。あいつら雨の日でも休まずああやって楽しくしてるんだよ。縁の下の力持ちってやつだ。」

「ああやって誰かのために一生懸命になれる人たちってホント素敵だよね。」

「ああそうだ。ああいう人たちあってこそのカホーゴ王国だ。」

本当にこの世界に来てからは大切なものに気づかされてばかりだ。

この世界に来れてよかったと常々感じる。




「(ん?)」

ふと目をそらすと、音楽隊を取り囲む観衆たちから少し離れたところでピエロが一人踊っていた。音楽隊の奏でる音色に合わせていち、に、いち、にと楽しげだ。

だが一つ気になることがある。


「(あのピエロ、誰からも見られていないな。)」

楽しげなのはピエロだけで、そのピエロは誰の目にも止まっていなかったのだ。

「(やっぱりこういう世知辛い現実っていうのはどこにでもあるんだなぁ。)」

僕はしみじみと、この世の厳しさを一人呪ったのだった。






ぱたたたたと軽快に翼を鳴らし、僕とブローズはハンナの部屋に到着した。

部屋の中にいたメイディはその音に気付く。

「ほう、これは。なかなかお早いお着きで。」

「え!もしかして!」


バッと勢いよく起き上がった何か。

もちろんハンナだ。


「ミギノメ!来てくれたのね!」

ハンナは声の高鳴りとともに跳ね起き、こちらへと駆けてくる。

「ハンナ様、無理はなさらずに。」

「わかってるわよ爺や!でも嬉しいの!」

僕とハンナは数日振りに相対した。

いや数日振りな気はしない。

もっともっと離れてしまっていた気がする。


病み上がりにもかかわらずその端正な顔立ちは見るものに元気を与えてくれる。

まさに現代に生きる太陽といったところであろう。

ここは現代ではないけれども。


ハンナは白いローブのような寝巻きを着用していた。

節々からその生活の気高さは感じられる。


「あら、ミギノメ。お友達ができたの?」


昨日は声だけでの面会だったため気づかれなかったが、ブローズとハンナはここで初対面だ。


「クェ。(よろしくな。)」

「あなたお名前はなんていうの?」

ブローズはこちらをちらっと見る。それに合わせて僕が軽く通訳をする。

「クェ。(ブローズだ。)」

「クエっていうの?」

「カーカー(そいつは魚だ)。」


「あらあなた!口ばしに怪我の痕があるじゃない!どうしたのそれは!」

「(おっ、もしかして事情を聞けるのかな?)」

「カー、クェクェ。(まあ、普通にやんちゃしただけだよ。)」

「(まあそんな感じの回答になるよね・・・。)」

「あーあ、カラスさんの言葉がわかればなあ。」

やきもきするハンナの後ろで、メイディはじっとこちらを見つめていた。


「ではこうしましょう!ミギノメのお友達ってことであなたはフレンちゃんと呼ばせていただくわ!」


()()()()()()って・・・女の子みたいじゃないか?」

「あまりにも似合わないね・・・」


しょうがないことではあるが随分と面倒なことになってしまった。

色々とこんがらがってくる。


「会いに来てくれて嬉しいですわ二人とも!(わたくし)的には元気なのだけど、病み上がりだから今日は安静にって爺やがね。」

ハンナは文句たらたらの表情でジトッっとメイディを睨む。

「ただでさえスパイの訓練はハードなものですから。万全な状態を心がけましょう。」

「もう、ほんと爺やは慎重派の人間ですわね!」

「お許しを。」


二人がやり取りをしていると、部屋のドアがコンコンとなる。

そうしてゆったりと姿を現したのはいつもの如くダイナ王だ。

身体に見合わぬ繊細なノックを披露してからのご登場。


「おおハンナよ、めっちゃ元気そうではないか。」

「お父様!ちょうどいいところに!紹介するわ!私のお友達よ!」

僕とブローズが示される。


「もしかして、前に話していた?」

「そうよ!ミギノメとフレンちゃん!」

「や~ん、ちょーかわいいんですけど~」

ただフランクなのかと思いきやギャル化したり、まったくもってこの王様はつかみどころがない。もはやちょっと怖くなってきた。


「・・・なんだか、人間に親しくされたのは初めてだからよ。変な気持ちだぜ。」

「わかるよ。」


「ダイナ様、ちょっとよろしいでしょうか。」

メイディが一つ声をあげる。

「おっどうしたメイディ。」

「きみ。」

「?」

メイディは僕のことを呼ぶ。


「ついてきてくれないか。」

何をしようとしているのかはわからぬが今のメイディに対して特に疑念はない。

ドアの外へと出ていくメイディの後を、僕はパタパタついていく。

「なーんじゃメイディお前も戯れたかったのか。」

「ミギノメを独り占めだなんて、意外とそういうとこあるのね爺や!」

「さ。フレンちゃんはわしらとしばらく遊ぼうぞ!」

「タ、タスケテ・・・・」




ドアが閉じ、ハンナの部屋の前で僕はメイディと対峙する。

石造りの塔内部。

多少踊り場的なものはあれど、そのほとんどが螺旋階段で占められている。

当分人は来そうにない。

ここにきて初めて、僕はお城らしい重厚な雰囲気を感じ取った気がした。


メイディは僕の前に片膝をつく。

やわらかい表情ながらもびしっと筋は通っているようなその雰囲気。

今まさしく、メイディそのものだ。


「正直に答えてほしい。」

「(なんだろう?)」


「君、人間の言葉がわかるだろう。」


思わず僕は口をあんぐりとする。

まさかそんな。ばれているとは思わなかった。

「前々から薄々違和感を感じていた。だが先ほどそれは確信に変わった。他の者は気づかぬが私の目は誤魔化せん。明らかにハンナ様の言葉をお友達に伝達していただろう。」


うっかりしていた。

カラスとしての生活、人間とカラスとの仲介人としての生活。

それに慣れてきてしまっていたが故に気を抜いていた。

あろうことか元スパイを前にして。


どうしよう。

こうなるときがいずれ来るかもなんて考えていたが、実際に訪れるとなんと返せばよいのわからない。

口をパクパクさせることしかできないのだ。


「・・・その表情が何よりの答えだよ。君は他のカラスとは違う。そうだね。」

僕はただただうつむく。


「大丈夫だ。安心しなさい。それがわかったからといって君をどこかに売り飛ばしたり殺したりなんかしない。ただ言っておきたいことがあるだけなんだ。」

メイディはまっすぐ僕を見る。


「まず、出会った当初からの私の無礼を許してほしい。いろいろとひどいことを言ってしまったかもしれない。だがそれは間違いだった。先入観だけで君を査定してしまっていた。どうせ動物だからと心無い言葉を投げてしまった。本当に申し訳なかった。」

メイディは膝をついたまま深々と頭を下げる。


「そして、君の気が進めばなのだがハンナ様の力になってほしい。もしかしたら聞いていたかもしれないが私とダイナ様はこの命を捧げてでもハンナ様を守っていく所存だ。だが、人間のできることには限界がある。そこに君のような人間をも超えうる存在が加わってくれれば、これほど頼もしいことはない。どうだろうか。」


「カー。(もちろん。)」


その答えを出すのに迷いはなかった。


「承諾したと受け取るよ。ありがとう。私に何かあったときはハンナ様を頼みましたぞ。」


僕とメイディは静かにうなずきあい、お互いの意思を確かめ合った。

僕は人間とカラスの絆を結ぶことに成功したのだ。


「さて、部屋に戻ろうか。時間を取らせてしまってすまなかったね。」


部屋に戻ると、ブローズがもみくちゃにされていた。



「カー!カー!(あー!ミギノメー!こいつら加減をしらねえ!)」

「うーんかわいい子ですわぁ!・・・あ、メイディ戻ったのね!」

「どうじゃメイディお前もなでなでするか!」


「はぁ、もうほんとうに・・・嫌がっていますよ。」


メイディは呆れたように二人を制止した。


「カー!(もう二度と来ねえからな!)」

「二人ともまたいつでも来るのよ!どうせ私暇なのですから!」

「しっかり休むのも仕事のうちですよハンナ様。」

「「じゃあまたねー!」」



ハンナの体調を気遣い、今日のところは解散となった。


「ちくしょうなんなんだあいつらは!」

ブローズはいまだ毛並みがぼさぼさのままである。

「まあまあ、でもはたから見るとブローズ嬉しそうに見えたよ?」

「は?そんなわけねえし!そんなわけねえし!!」


ツンデレ属性。なんだかヒロインよりヒロインである。


「そんなことよりお前、あの爺さんとなに話してたんだ?」

「話してた?」

「向こうに二人きりで行ったってことは何か大事な話でもしてたんじゃねえのか?まさか本当に独り占めしてかわいがられてただけ?」

「そのまさかだよ。」

僕はにやりと笑い、ブローズをからかってみた。

「ええー!まじかよ!あの爺さんもやるときはやるんだなぁ。」


いままでジョークを言ってこなかったからブローズはすんなりと受け入れる。

その様がちょっと面白かった。



「これからどうするよ、まだ昼過ぎくらいだぜ。」

「うーん」


にぎやかな王国を腹に沸かせ、面白きことを頭に沸かせる。

だが特になにも思いつかない。

まあでもここ最近激動の日々だったし、こんな一日があってもいいんじゃないかな。

そんな思いが頭に浮かび始めていた。


「・・・・ん?あれ、世話になってるおばさんじゃねえか?」

市場から少し離れた東側の居住区域。

そのあたりをうろうろとする女性の姿があった。

ホテルピアの店主ナオミだ。


「なにしてるんだろう。」

「ちょっと顔出してみるか。」


僕たちはナオミの前へと降り立った。


「あら、あなたたち。きっといつものカラスちゃんね。」

「カー。(へい毎度。)」

「また何か必要なのかい?お手伝いしたい気持ちはあるんだけど、あいにく今それどころじゃないんだ。大切にしてる指輪をなくしてしまってねえ。どこか、この辺で無くしたような気がしたんだけど・・・・。」


僕とブローズは顔を見合わせる。

ナオミにはいつもお世話になっている。

それは重々承知していた。

今こそその恩を返す時だろう。

僕たちのベクトルは同じ方を見据えていた。


うろうろと足元を見て回るナオミを置いて、僕たちはすぐさま飛び立った。


「人間に比べてカラスのほうが視点が上にも下にもなれるんだ。探し物なら力になれるだろうよ。」

「うん、全力を尽くそう。」


「おばさんはこの辺りで何をしていたんだろう。」

「うーん・・・あ、この辺りに確か雑貨屋があったはずだ。宿屋の店主なら客室の飾りとかを調達するためにそこによることもあるだろうよ。」

「なるほど。ちょっと行ってみようか。」


僕たちは雑貨屋を目指した。

ブローズの言う通り、その雑貨屋は先ほどナオミがいた位置からかなり近い場所にあった。


「ここらへんに落ちている可能性は十分あるね。指輪が上の方に飛んでいくっていうのは考えにくいから、ひとまず下の方を重点的に探してみよう。」

「あいあいキャプテン~」


他のところよりは広めな路地に構えられた一軒の雑貨屋。

雑貨屋自体はそこまで大きくない店構えであるが、店の前にあらゆる雑貨が展示されている。雑貨と呼ぶのか怪しいラインのものまで。

この雑貨達の隙間に落ちてしまっているかもしれない。


自転車、中型時計、蓄音機・・・


小さめの机、椅子、花の植えられた鉢・・・・


「ん?」


鉢の中が一瞬きらりと光った気がした。

僕はその鉢を覗いてみる。


あったあったありました。

ふかふかの土の上にはあまりにも不釣り合いな煌びやかな指輪が。



僕は花を傷つけないようそっと口ばしで指輪を取り、ブローズを呼ぶ。


「へえなんか、あのおばさんにしては控えめな指輪ですこと。」

「普通の人たちの指輪なら大体このくらいだよ。」

「そうか。王族ばかりに会ってたからなんかマヒしちまったな。よし、さっそく渡しに行こう。」


僕は指輪をブローズに渡し、二人でナオミのもとへと戻ることにした。


「いやー案外簡単に見つかったなあ。」

「ふふっ、見つけたのは僕だけどね。」


あとはナオミのもとへ持っていくだけ。

やはり、人のために動くのは良い。


一仕事終えたあとだ。

翼を撫でる風がなんとも心地よい。



「んがっ!」

「え!どうしたの!」

「ちくしょう!虫が鼻に入った!」

「ええ!?」


そんなチャリ漕いでたら飛んでる虫が顔に当たったみたいなこと、

カラスでも起こるんかい。


「ハ、ハ、」

「ま、まさか・・・」



「ハクショーーーーーーン!!」


カラスのくしゃみを初めて見た。


いや、そんなことに感心している場合ではない。

ブローズはくしゃみをした衝撃で足で掴んでた指輪を放してしまった。


ここは地球。

当然のように指輪はひょろひょろと落下していく。


高い上空から落ちてゆく一つの指輪。

そうして落ちていった指輪はすっっぽりと、


地面にいた野良猫の耳に入った。


ああ、これはあくまで予想に過ぎないのだが。

たぶんこれから僕たちにとって望ましくないことが起きるだろう。


猫は耳をカイカイしただけであとは特に気にする素振りはなく、ひょこひょこと歩き出す。


「ああ指輪が!猫に持っていかれちゃう!」

「なに!ちくしょう泥棒猫め!待ちやがれ!」


僕たちはさらなる不幸が起こる前に指輪を取り返そうと、急いで猫を追う。

さすがはカラス歴の長いブローズ。

僕よりも先にその猫に追いついた。


警戒心の強い猫という生物。

空からものすごいスピードのものが近づいてきたら、さすがに気づく。

一度ニャっと驚き小ジャンプをかました後、そのまま早足で逃げようとした。

耳にハマった指輪の存在に気付いていないため、シンプルに襲われると思ったのだろう。


「逃がさねえぞ!」

ブローズは足からその猫に近づき首根っこをつかもうと試みる。

しかしあと少しのところで猫がひょいとかわし、難を逃れた。

「ああもう、すばしっこいやつだ!」


猫は住宅のベランダを伝い、ひょいひょいと屋根の方へと走っていった。


「ミギノメ、力を合わせるぞ。」

「もちろん。どうしたらいい?」

「飛ぶスピードは俺が速いから、俺があのクソ猫をなるべく背後から追う。誘導するためだ。当然奴は俺から逃げるだろうから、そこで先に待ち構えてたお前が指輪を奪取だ。」

「おっけい。」

「よし、じゃあミギノメはこの屋根の先で待機していてくれ。そこに奴を追い込むから。」


僕は猫に気付かれないようにそーっとその猫のいる屋根を先回りする。

あとはブローズ次第だ。


「カー」


カラスの鳴き声が居住区域に響く。

ブローズの開始の合図だ。

猫は警戒し、周りをきょろきょろとする。


「コラーーー!」


大きな羽音とともに空に舞い上がり猫の背後から登場するブローズ。

猫はたちまちブローズがいるのとは反対の方向、つまりこっち側へと逃げてきた。


「ねこちゃんビビってる!ヘイヘイヘイ!」

「(いいぞ、その調子だ!)」


ブローズはそのまま僕の待ち伏せする方へと猫が動くように後を追う。

順調に二人の姿が近づいてきた。


「ミギノメ!今だ!」

「よーし!」


あと少しで屋根の終わりに来る。

そんなところで僕は猫の前に飛び出す。


「ニャァ!?」

思わぬ伏兵の登場に、さすがの猫も思わずひるんだ。

動きが止まる。


その一瞬の隙に僕は猫の右耳を軽く翼ではたいた。


指輪がその勢いですっぽ抜け、宙を舞う。

「うおおお!」

空中キャッチの名手参上。

このカラスにやらせれば、右に出るカラスはいない。


ブローズは見事に口ばしで指輪を捕らえることに成功した。


「ナイスだ!よし!もう変なことになる前に行こう!!」


僕たちは気を抜かないように、その連携の勢いを保ったままナオミのもとへと急いだ。

威嚇を繰り返す猫に見送られながら。



「あら、これあたしの指輪じゃないの!!」


今度こそ無事指輪を届けることに成功した。

なんやかんや日が暮れている。


「あー、これでやっと仕事に戻れるよ。ありがとう、本当にありがとうねえ!」


ナオミは僕たちを力いっぱいに抱きしめた。


「く、くるしいぃ・・・・・」

「背骨が・・・折れちゃう・・・・」


嬉しいからなのか、はたまた元々の性能なのか。

肝っ玉かあちゃんの力は計り知れないものだった。


「そうだ!さっき市場で魚を買ったんだよ!また焼いてあげるからうちで食べていきな!」


ブローズは跳んで喜んだが僕は少々気が進まない。

また借りを作ってしまう気がしたからだ。


「あんたたちの嬉しそうに食べる姿を見ていると、あたしもとっても幸せになれるんだよ!まあ商売人ていうのはそういうもんだからねえ!」


軽快に笑うナオミの姿が、僕の心の引っかかりを優しく取ってくれたような気がした。


僕たちは、ナオミの気持ちを頂くことにした。





「なんか、前食べた時よりもおいしく感じたな!」

久しぶりにカラスの身体をたくさん動かした本日。

疲れがどっと体を襲った。

寝床に半分身体を侵食させながら、僕はブローズと会話を弾ませる。


「前獲ったものよりも良いものだったのかな?」

「いや、新鮮さで言ったら僕らが川で獲ったもののほうが上だよ。多分だけど、今回は僕たちがおばさんのために一生懸命になって、そのうえで食べさせてもらった魚だったからおいしく感じたんだと思うよ!」

「そっか!そういうもんか!」


「ふぁぁ、僕眠くなってきちゃった。」

「そうだな。姫様も元気にはなったみたいだし、いよいよ明日から訓練再開だぁ!」


ブローズは元気に翼を振り、そして帰っていった。

ほんと彼のタフさには驚かされてばかりだ。


僕は正直慣れない身体だから生きてるだけでかなり疲れる。

でも、それも苦ではない。


人間だった頃よりも、今のほうが生きているって感じがする。

自分の人生を、自分の意志のある人生を生きられている気がする。


僕は満足感に浸りながら、また別の夢の世界へと足を向かわせるのであった。







「グー・・・・グー・・・・」






パシュン



プスッ



「ウッ・・・・・・グー・・・・ムニャムニャ・・・・・・」

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