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観覧車・・・「もう一周お願いします」

作者: 明家叶依

 遊園地の閉園アナウンスが鳴り響き、来場客が入場ゲートに、向かっていくのを僕は観覧車の中から見ていた。対面に座る女友達は、真剣な面持ちで僕の顔を見て、言葉を待ってくれていた。もう、何周したかも覚えていない。人生でおつりが来るほど観覧車で揺られていた。


「話がある」と彼女に伝えると、姿勢を正して、向き直ってくれたのだが、一周目で言えそうになく、そのままの流れで降りようと腰を上げるも、彼女は微動だにせず、扉を開けてくれた係の人に「もう一周お願いします」と静かに言う。という流れが二時間近く続いた。

 

 よく、彼女は文句も言わずに座っていられる、といささか驚いていた。長い時間待たされていてせっかくの休日が潰れたというのに、素っ気なく窓の外を見ている彼女の横顔から、不思議と苛立ちというのが感じられなかった。


「行きましょうか」


 さすがに、アナウンスがかかった以上、これ以上乗っていられない。彼女は重い腰を上げて先に外に出て、係員に頭を下げて先に歩いて行ってしまった。


 思いのほかスピードが速くて、走って彼女に追いつこうとしたが「ついてこないで」と一蹴される。


 仕方なく、僕は立ち止まって彼女の後ろ姿を見ていた。

 しかし彼女は、飛び出ている噴水付近に差し掛かった辺りで戻ってきて僕の頬をビンタした。


「どこまで意気地なしなのかしら! あれだけ時間があって告白の一つもできなければ、ついてこないでと言われたら、立ち止まって追いかけても来ない。あなたは犬の生まれ変わりか何かなの? 言われたことしかできないのなら、電子レンジと付き合った方がまだましよ」


 彼女は言い残してスタスタと歩いて行った。

 僕は挽回しようと走ったが、足音が聞こえたのか彼女は、


「今度はついてこないで!」


 と全速力で入場ゲートへと駆けていった。


 人生で一番悔いの残るクリスマスになってしまった……。


 最愛の人に告白一つできない自分にいささか腹が立ち、僕は適当なベンチに腰掛けて、頭を冷やすことにした。ああ言われても仕方がない。


 僕は雲で覆われた、今にでも雨が降りそうな空を見上げていると、帰ったはずの彼女が距離を置いて腰掛ける。


「え、帰ったんじゃ?」

「……トイレに行っていたの。ちょっと言い過ぎたなって思って、訂正しに来たの。さすがに、電子レンジよりはあなたがいいわ」


 という彼女からの逆告白で、僕たちは付き合うことになった。


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― 新着の感想 ―
可愛いらしい二人のやり取りに思わず頬が緩んでしまいました。 素敵な作品を書いて下さりありがとうございます。
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