バラキエル様のファンの女の子
「貴女自分の身を弁えたらどうかしら」
「はぁ…」
バラキエル様と貴族の義務として参加したダンスパーティー。
そこでバラキエル様が色々な人たちから守ってくれつつ、二人で挨拶回りしていたのだが…あらかた挨拶回りが終わって、バラキエル様がちょっと人に呼ばれてしまってバルコニーで一人で待っていたら〝侯爵令嬢〟のリリス様という方から声をかけられた。
私は伯爵で、相手は侯爵令嬢。
これはどっちが立場が上なんだろうか…やっぱり爵位的にあっち?
『貴族の上下関係は複雑ですが、一代限りの伯爵である貴女は歴史ある侯爵家の令嬢である彼女を敵に回すのは周りから白い目で見られるかもしれませんね』
ははぁ、なるほどぉ。
「自分の身を弁えるというと…?」
「バラキエル様との婚約ですわ。身を引きなさい」
それはやだ。
だってバラキエル様は私を愛してくれているし、私もバラキエル様を好きだから。
『嫌ですとはっきり言ってやりなさい』
天の声さんからGOサインも出たしGO!!!
「嫌です」
「は?」
「バラキエル様は私を愛してると言ってくれますし、私もバラキエル様が好きなので。婚約解消は嫌です」
「この、生意気なっ!」
バシッと扇子で頬を叩かれた。
それでも睨み返す。
「暴力を振るったって頷きませんよ」
「…なら実力行使しかありませんわね」
「え?」
リリス様がなにか合図すると、男爵家の長男だというグレゴリー様という人がバルコニーに入ってきた。
そしてグレゴリー様は、リリス様の言いなりらしい。
リリス様に言われて、私をバルコニーから投げ落とした。
「さあ、捨ててしまいなさい」
「はい、お嬢様」
「…っ、だ、誰かっ」
『大丈夫ですよ、ジョウコ』
「え?」
天の声さん、大丈夫ってなにが?
と思っている間に投げ落とされた。
地面までは一瞬だった。
が、地面に着地しても痛くない。
怪我してないどころかさっきの扇子で叩かれた頬も治ってる。
…あ、踊り子さんにもらった身代わり人形か!!!
『そうですよ。怖かったでしょうが、もう大丈夫です』
ありがとう天の声さん!
私急いで乱れてしまった着物と髪を直して、ダンスパーティーの場に戻った。
「ジョウコ!どこに行ってたんだ?」
バラキエル様は先に戻っていたようで私を探す。
リリス様とグレゴリー様は青い顔をして私を見つめる。
私は…正直に話すことにした。
「リリス様とグレゴリー様にバルコニーから投げ落とされました」
あまり大きな声では言えずにそっと耳打ち。
バラキエル様のお顔は天使から般若に変わった。
「おい、どういうことだ」
「な、なんのことですの」
「ジョウコを投げ落としただろう」
「ど、どこにそんな証拠が?ピンピンしてるじゃありませんの」
「あ、身代わり人形が助けてくれました。ほら」
首のもげた身代わり人形を見せるとさらに青ざめる二人。
私たちの会話を聞きつけ野次馬も出てきた。
大事にしたかったわけではないから耳打ちしたんだけど、まあこうなったならこうなったでしょうがない。
私を投げ落とした彼らが悪い。
「身代わり人形がなければジョウコがそうなっていたのか…?」
「多分」
「…お前ら、許さないぞ」
とりあえず私は大事をとってバラキエル様に家に送り返された。
そしてバラキエル様はダンスパーティーの主催にめちゃくちゃ謝られつつ、リリス様とグレゴリー様とお話し合いをしたらしい。
家に帰ってきた私はみんなから事情を聞かれ、正直に話したらフェルくんとミカくんに泣かれてしまった。
「うわーん、無事でよかったよー!」
「身代わり人形ドレスのポッケにいれておいて良かったぁ!!!」
二人とも泣きながら無事を喜んでくれる。
心配かけちゃったな。
「みんなが一応でいいから身代わり人形も持っていけって言ってくれたおかげだよ」
「うんっ」
「本当に良かったっ」
「ですが主人様、これからはあまり無防備でいてはいけませんよ」
「どうせ金はまた入ってきてるんだろう?身代わり人形を新しく買っておけ」
ザドくんのアドバイスのもと、次の日身代わり人形を扱っているというイオくんの元奉公先…リリアンヌちゃんのお店に行って、身代わり人形を大量に購入してきた。
これでまた資産は一億と細かいお金になってしまったが、安全をお金で買えるならいいよね。
まあ、使わないで済むのが一番だけど。
ポケットに入るサイズの人形なので、フェルくんやミカくん、イオくんとザドくんにも持たせる。
うん、これで安心!
なおその後、バラキエル様から聞いた話によると…しでかしたことがことだが、私が無傷なのを考慮した結果。
リリス様は教会に出家し女神官に、グレゴリー様は廃嫡され弟が嫡男になり本人は出家し神官になるということに決まったらしい。
穏便に終わった方かな。
『そうですね、殺人未遂にしては軽すぎますが…実際貴女は無傷でしたし、証拠は身代わり人形だけ。仕方がありませんね』
まあ、出家すると色々制限された生活になるらしいし罰としてはちょうどいいでしょう、うん!
ということで今回の騒動は穏便に終わった。




