イオの忠誠
主人様が泣いていた。
だが、バラキエル様に傷つけられたりした様子…ではない。
むしろバラキエル様とはより親密な雰囲気になっていたので、そこは安心していいはずだ。
なぜ泣いたのかは気になるが、主人様は話す気がなさそうなので踏み込んだ詮索はしない。
だが…主人様とバラキエル様との親密そうな雰囲気に、なぜだか胸が張り裂けそうな痛みを感じる。
これはどんな感情だろうか。
すごく苦しい。
だが、そんなことでこの忠誠心は揺らがない。
オッドアイの俺を差別しないどころか、いつだって笑顔を向けてくださる俺の主人様。
「貴女様のためならば、この命すら惜しくはない」
心からそう思えるほど、主人様に忠誠を誓っている。
この思いに偽りはない。
「ただ…」
バラキエル様に夢中になる主人様を見るのは、きっと辛いだろう。
それでも忠誠は揺るがない自信はあるが、たまにはこちらを向いてまた笑顔を向けてほしい。
…なんて、傲慢がすぎるか。
俺は奴隷ではなくなったとはいえ、ただの侍従だ。
勘違いしてはいけない。
対等ではないのだ。
地に伏し仰ぎ見た先に、主人様はいるのだから。
…それでも、切なくなるくらいは許されてほしい。
「主人様…」
今一度忠誠を誓います。
俺は貴女の侍従として、一生をかけて尽くします。
だから、これからもどうかそばに置いてくださいね。




