フェルの不安
主人様が泣いていた。
バラキエル様に何を言われたかはわからない。
でも主人様は泣いていた。
「主人様が嫌なことをされていたら、どうしよう…」
僕はとてつもなく不安になる。
バラキエル様を見送った主人様の様子を見るに、バラキエル様を嫌いになった風ではなかった。
嫌いにならないようなことで泣いたなら、まだマシだけど。
主人様を泣かせるなんて…なんでそんなことしたんだろう。
「それとも、嬉し泣きかな」
嬉し泣きならいい。
それなら安心できる。
でも確認する術はない。
主人様は、話す気もなさそうだし。
「主人様、大丈夫かな…」
月明かりを見つめながら呟く。
そうしたらミカがもぞもぞと起き出した。
「フェル、まだ起きてるの?」
「ミカ…うん、不安で眠れなくて」
「主人様のこと?」
「うん、そう」
不安で不安で仕方がない。
僕たちの大事な主人様を傷つけられたらどうしようって。
「まあ、フェルは心配性だからね」
「うん…」
「でも大丈夫だよ。きっとバラキエル様は主人様を傷つけたりしない」
「それは…」
「バラキエル様は多分、僕たちが思ってるよりずっと主人様を好きだと思うよ」
そんなに親密だっただろうか?
「今日ね、バラキエル様と主人様の別れ際、二人ともすごく熱っぽい目でお互いを見てたんだ。だから、むしろ愛は深まってると思う」
「そうなの?」
「そうだよ」
ミカがそう言うなら、そうかもしれない。
「そっか…」
「安心した?」
「した」
「じゃあほら、一緒に寝よう」
同じ布団に潜ったら、ミカにぎゅっと抱きしめられる。
「フェル、僕ね、今すごく幸せなんだ」
「僕も、ミカと一緒に主人様に尽くせて幸せ」
「だよね。だから大丈夫。主人様との幸せは、ずっと続くから」
「うん…」
ミカにそう言われると、そんな気がしてくる。
じゃあやっぱり、主人様のあの涙はきっと悪いものじゃなかったんだよね。
安心したら眠くなってきた。
「おやすみ、ミカ…」
「おやすみ、フェル」
僕は眠る。
幸せな夢を見た。
主人様とバラキエル様が、可愛い双子を抱いていて僕たちがそれを見守る夢。
もしかしたら正夢になるかも。
…なんて、その頃にはこの夢を見たのも忘れていそうだけど。




