王家からの叙爵の打診
神官さまを追い返した次の日、慈善事業を終えた頃に今度は王家の使者がやってきた。
どうも、また国王陛下が私に会いたいと言っているらしい。
「は…?国王陛下がまた私を呼んでる?」
「はい、その通りです」
「どうしてですか?」
「慈善事業の件で、褒美を与えるとのことです」
「…ご遠慮できませんか?」
またこのパターンだよ!
やっぱり慈善事業なんてしない方が良かったのかな。
でもな、困ってる人を助けられるのは嬉しいんだよな。
『そうですね。民を助ける貴女には神々も感謝しています』
それはありがたいけども!
「ご遠慮は無理ですね」
笑顔でバッサリ切られた。
王家の使者さんはやはり強引さんだ。
「…バラキエル様助けてー!」
思わず叫んだ。
王家の使者さんは突然の私の奇行にドン引きする。
が、そこに本当にバラキエル様が来た。
「助けてって、今度はどうした」
「バラキエル様!来てくださったんですね!」
「昨日の今日だから心配でな。それでどういう状況だ?」
王家の使者さんはバラキエルに挨拶して、事の経緯を話した。
「なら、俺も同行しよう。ジョウコ、それでいいか?」
「もちろんです!」
私がコクコク頷くと、王家の使者さんはほっとした顔をした。
「来ていただけるならなによりです」
「そちらも、俺が同行して不都合はないか?」
「ええ、もちろんです」
「そうか、ありがとう。それなら俺がジョウコを責任を持って王宮に連れて行く」
「はい、ではお待ちしています」
そして王家の使者さんは帰った。
「あの…バラキエル様…いつもすみません…」
「むしろ俺の方がお前に世話になってるからな。このくらい気にするな」
「ありがとうございます…!」
ということで王宮に連れて行かれることになった。
当然奴隷たちはお留守番。
不安だ…なんだかものすごく不安だ…。
そして謁見の日。
「また会えたな、ジョウコ モガミ。バラキエル、そなたも元気そうでなにより。二人とも顔をあげよ」
「は、はい」
国王陛下は穏やかな表情で私を見つめる。
「まだ年若いというのに、慈善事業まことに大義である」
「ありがとうございます…!光栄です!」
だからできれば無事に家に帰して!
「それでな、そなたの人気がこのラダマンティス内で猛烈に高まっておる」
でしょうね!
自覚はありますけども!!!
「そこでな、褒美として叙爵することを検討しておる」
「え、貴族になるってことですか?!」
「そうだ、お前が助けた者の中には貴族も多い。その者たちの推薦もあってな」
余計なことしないでよー!
「国王陛下」
バラキエル様が言った。
「僭越ながら、申し上げます。前にも言いましたが、この者は何かと注目を浴びがちですが、本人は引っ込み思案なので注目を受けるのが苦手です」
そうそうそうなんです!
「ですからどうか、叙爵は思いとどまっていただけませんか。我がエリュシオンにて、責任を持って守りますから」
「いや…それが、ジョウコを貴族にという声が多すぎるのだ。聖女にしろという声も多い。もう、その声を無視できる段階ではないのだ。ジョウコは国に貢献し過ぎた」
ぎゃー!?
今回は回避できそうもない!?
「…だから、伯爵位を授け聖女として認定する。これはもう避けられない。だからバラキエル。お前がジョウコを守ってやれ」
「…承知いたしました」
「ジョウコ、済まないな。もはやどうしようもないことなのだ。わかってくれ」
「は、はい…」
「それではな」
国王陛下も優しい方だけど、優しいだけではダメなんだろう。
この決定はもう覆らないんだろうな。
「失礼致します、今日はありがとうございました…」
こうして最悪な状況にはなったが、なんとか家路につくことができた。
「ただいま…」
「お、おかえりなさい、主人様!」
「おかえり、主人様!」
「おかえりなさいませ、主人様」
「………おかえり。なんだか暗いが、どうした」
みんなが迎えてくれる。
みんなに叙爵されることを伝えたら、みんな喜んだ。
「なんだ、貴族になれるならいいじゃないか」
「お、おめでとうございます、主人様!」
「おめでとう!主人様!」
「さすがは主人様です!おめでとうございます!」
…そうおめでたくはないんだけど。
私は穏やかに生きていたいんだけど。
まあ、みんなが喜ぶならそれでもいいか。
「みんな、お祝いありがとう。じゃあ、バラキエル様。今日はありがとうございました、迷惑をお掛けしてすみませんでした」
「いや、俺こそ助けられなくてすまなかった」
「じゃあその分、今後もまた助けてくださいね!」
茶化して言えば、バラキエル様も笑った。
「ふふ、そうだな。わかった、任せろ。じゃあな」
「はい、また今度」
結局伯爵様になって聖女様になるのかぁ。
土地のこととかは言ってなかったから、一代限りの爵位で領地も与えられないんだろうから、それが救いかなぁ…。




