文化を探りにきた間者
俺はミノス皇国のスパイ。
今日は敵国ではないが味方とも言えない、ラダマンテュス王国の偵察に来た。
文化レベルを測るためだ。
とりあえず王都は後日調べるとして、今回はエリュシオンに目を向けてみる。
王都の次に栄えた都市だと聞くし、文化レベルを測るにはちょうど良いだろう。
「…ここがエリュシオン」
旅人に扮して中に入る。
なるほど、確かに栄えているようだが…?
あれはなんだ。
「すまない、ご婦人。あの建物は…?」
「ああ、あそこはジョウコ様のお屋敷よ」
「ジョウコ…?」
「ああ、旅人さんは知らないわよね。大陸の外からきたお姫様よ」
「大陸の外からきた姫…!?」
なんということだ。
大陸の外ともラダマンテュスは交流があるのか…!?
「…ありがとう」
「いえいえ、良い旅を」
ご婦人に礼を言って、一度その場を離れる。
そして迷った挙句、ジョウコとやらの屋敷を訪ねた。
「はい、ど、どちら様ですか…?」
出てきたのは、ダークエルフの子供。
よく見れば奴隷印が入っている。
ダークエルフを奴隷にできるほどの金持ち…まさか本当に他国の姫君っ…?
「フェル、何やってるの。お客様をお通しして!」
「ミカ」
ダークエルフの子供の奴隷がもう一人っ!?
どれだけお金持ちなんだ!?
「まて、ミカ。どこの誰ともわからないやつを屋敷にあげるんじゃない」
次に出てきたのは…昔我が皇国の筆頭錬金術師だった男!?
いくらで買ったんだ!?
「ん?お前…どこかで会ったか?」
「い、いや、旅のモノだからな…」
「そうか」
そうこうしていると、中から姫と呼ぶに相応しい民族衣装を来た女が現れた。
「こんにちは、旅人さん。どうしました?」
女の隣には、いかにも鍛えていそうな体術の得意そうな男が控えている。
その男にも奴隷印が入っていた。
「…そ、その、珍しいお屋敷だったので旅人として一つ、見学させていただきたく」
「いいですよ、どうぞ」
ニコッと微笑んで屋敷にあげてくれる姫。
まさか、そんなに隣の奴隷は強いのか?
そんな無防備になれるほどに。
やはり、他国の…それも大陸の外の姫君なのか!
「その、ところで、お嬢さん。このエリュシオンの公爵様とは…交流はあるのか?」
「はい、仲良くしてもらっていますよ」
案内される部屋は皆、異国情緒が溢れていて洗練されていた。
そして姫君は、公爵と仲がいいという。
やはり、大陸の外の姫君なのだろう。
ラダマンテュス王国は、大陸の外の国とも交流がある。
祖国に急ぎ伝えなくては。
「みてみて旅人さん!主人様の右手の薬指の指輪、あれバラキエル様からの贈り物だよ!」
「あ、ミカくんったら」
「言っちゃダメだった?」
「いや、いいけど」
…この姫君とエリュシオンの公爵はまさか、婚約しているのか!?
こ、これは、これは急ぎ国に伝えなくては!
「す、すまないお嬢さん、急用ができた!これにて失礼する!」
「あ、もういいんですか?お気をつけて」
「おじさんばいばーい!」
「お、お気をつけて」
「「…」」
最後にちらっと屋敷を振り返れば、姫君の隣にずっといた男と、元我が国の筆頭錬金術師だった男が俺を睨んでいた。
恐ろしい、スパイだとバレていたのか!
いや、だが命に変えても必ずこの情報は国に届けなくては!!!
…この後、ミノス皇国ではラダマンテュス王国は大陸の外と交流があるとの勘違いが広がりまくることになった。




