イオの憧れ
主人様は、理想の主人だ。
孤児だった俺、イオフィエルは、奉公先のご主人に助けられた。
とてもいい人で、オッドアイのせいで差別されがちな俺にまで仕事を与えてくれて、衣食住を与えてくれた。
そのご主人の娘であるお嬢様がある日病に倒れた。
俺はお嬢様を救うために、ハイポーションが必要だった。
隣の街にとんでもないお金持ちがいると聞いていたので、なんとかその人を探し出して自分を売った。
その人は俺を買ってくれて、おかげでお嬢様は命を取り留めた。
ご主人は俺に大層感謝してくれた。
お嬢様も。
そして俺は奉公先を出て、主人様の奴隷となった。
そんな俺の主人様は、とてもお人よしだ。
優しくて、世間知らずで、愛らしい。
主人様のような、心の綺麗な人間になりたい。
主人様は俺の憧れだ。
だから、主人様に対するこの胸の高鳴りは。
憧れから来るものであって、決して不遜なものではない。
その、はずなんだ。
「主人様…」
であれば何故、こんなにも胸が締め付けられるほど苦しいのか。
答えは未だ、見つかっていない。
「主人様……」
それでも。
主人様に尽くせる今の日々は、とても幸せで。
「………俺は、どうしてしまったんだろう」
こんな気持ち、初めてで。
どうしたらいいのか、わからない。
ただ。
「せめて、主人様の役に立てるように…」
そう、主人様の役に立つこと。
それこそが俺の意味。
「…一生、尽くします」
それだけが、俺が主人様にして差し上げられる全て。




