ミカの気持ち
僕は人間が憎い。
僕はミカエル。
九十歳の、ダークエルフの男の子。
弟にはルシフェルがいる。
可愛い可愛い双子の弟。
僕は、フェルを傷つけた人間が許せない。
僕たちは人間によるエルフ狩りで奴隷に堕ちた。
幸い、親切な人間がまとめて買ってくれたから離れ離れにはならずに済んだ。
その親切な人間は…主人様は僕たちを慈しんでくれる。
僕はそんな主人様を大好きになった。
フェルも主人様が大好きだ。
フェルは主人様が人間なのに好きでいていいのかと思っていた様だが、いいと思う。
好きになれるのは、素敵なことだ。
僕も主人様を大好きだし。
けど時々。
ああ、この人も人間なんだよなと思ってしまう。
逆らうことはない、危害は加えない、嫌いにもなれない。
ただ、時々。
心が芯から冷えるような、そんな気持ちになる瞬間がある。
でも、そんな時。
『ルカくん!』
主人様は僕に、パッと笑顔を向けてくれる。
冷えた心が、再び温まる。
あんな人を嫌う方が、無理なのだ。
どこまでもお人よしで、世間知らずで、危なっかしい。
守ってあげなくちゃ、僕とフェルで。
「…主人様」
月の夜。
ぽつりとこぼす。
昨日のフェルのように。
「……主人様」
嫌いになれないなら、いっそ死ぬほど好きでいよう。
貴女の信頼に足る、奴隷でいよう。
「………大好きです」
これはどんな感情かはわからないけれど。
大切にしたい、宝物。
おそらくフェルも同じ気持ち。
だから。
フェルと…僕の片割れと、僕で、二人で大事にこの想いを抱えるのだ。
「…ミカ?起きてるの?」
「フェル、起こしちゃった?ごめんね」
「ううん…お兄ちゃん、大丈夫」
「うん?」
「僕たちきっと、いつまでも主人様を大好きでいられるよ」
…僕がフェルをお見通しのように、フェルも僕をお見通し。
ならば。
「うん、ずっと主人様を好きでいよう」
「うん!」
昨日の夜、いっぱい泣いた後。
屈託なく笑えるようになったフェル。
僕も、こんな顔で笑えてるのかな。
…ごめんね、父さん、母さん。
僕は、人間を憎んでいますが、主人様は憎めません。




