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魔王と勇気

 「ここまで来た勇者は何人目だったか・・・」

「貴様はそもそも数えてないだろ。殺した人間の数なんて」

「それもそうだな。では始めようか。楽しい時間を」

この最後の会話から既に2年は経っている。まさか勇者に情けをかけられて、魔王が生きているなんて知れたら、人類国、魔国共に大騒ぎであろうな。我は魔王、名前はいつの間にか忘れてしまった。長生不老の我だが、記憶の劣化にはやはり抗えぬようだ。今はマモンと名乗っている。

「マモンさん、おはようございます!」

「リンは朝が早いな」

「そんな事言ってマモンさんの方が早く起きてコーヒー飲んでるじゃないですか」

「それもそうだな」

二人して笑う。現在我は国境付近でリンという人間と、助け合いながら半自給自足の生活をしている。リンは人間の女であるが、魔族の我を迎え入れ共に生活することを認めてくれている。

「マモンさん、朝ごはん食べました?」

「いや、まだだ」

「じゃあ私パン焼きますね」

「ああ、頼む」

少し前まで殺伐とした世界に身を置いていたためか、この生活が言いようがない程に心地いい。新聞には人類側の王位継承の記事が載っていた。我を見逃したあの勇者アデルはあの後軍事顧問となり、一国の王にまでなったようである。だが、軍部からの王ということで、軍事国家になるのではないか危惧されている・・・というのが記事の締めくくりであった。

「マモンさんはバターでいいですか?」

リンがパンを焼き終えたようだ。

「バターで構わない」

「じゃあ私はジャムにでもしようかなー」

リンは楽しそうに瓶に入ったジャムを選んでいる。

「マモンさんは自分のことを殺しにかかってきた勇者の記事を見てなんともないのですか?」

リンは天然なのかこういうことをまっすぐ聞いてくる。

「何も思わないことはない。だが、見逃してくれたのも事実である。それにアデルはそんなに悪い奴ではない」

「私はあの勇者嫌いです。私はこの辺境に住んでいるからわかるんです。魔族は全員悪い訳じゃないって。なのに人類軍は兵隊だろうが市民だろうが見境ないじゃないですか。私から言わせれば人間側の方がよっぽど怪物です」

パンを食べながらリンは憤慨している。

「そうかもしれぬな」

「そうですよ。魔国側は民間人はスルーですし、市街地戦は絶対やらなかったじゃないですか」

「確かに我が関係のない人間を巻き込むのを禁止していたのは事実だ」

「ほらー魔族のほうが優しいですよ」

「だが、それは占領した後のことも考えてのことだ」

リンの手が止まる。

「何もない土地を手に入れたところで、国の負担が増えるだけだからな。むやみな破壊はその後、自分の首を絞める」

「そうですか・・・」

リンが落ち込む。

「だが、あの勇者は最後の最後に判断を変えたんだ。あとは我の首を落として終わりなのに、なんの意味もない戦争を平和に終わらせられないか?と言ったんだ。だから、アデルは本物の勇者であった」

「なんか、今の勇者から考えられないですね」

「国を背負うとなれば、修羅にもならねばならぬのだろう。綺麗ごとだけで回る国のほうが少ない」

食卓が静かになる。

「私、二度寝してきます」

リンが寝室に向かう。

「リン、我は今日少し町の方に用事がある。夕刻には戻る。それでだ、何か食べたいものはあるか?」

「最近できたお菓子屋さんの、日持ちする焼き菓子でお願いします」

「わかった。楽しみにしてるがよい」


 魔法で人の姿に変身をし町に行く。この町もかなり発展してきた。原因は人魔共生による労働力の倍化だろう。人類国と魔国は平和条約を結んだ。町の中も魔族と人間が交錯している。良い時代だ。我は裏路地の酒場に入る。カウンターのマスターに話しかける。

「マモンだ。二階の部屋で待ち合わせをしている」

カウンターの人間は黙って我を案内した。二階の部屋を開ける。中には待ちくたびれた様子の人間が居た。

「久しぶりだな、少しやつれたか?」

「もう二年は経つからね。まさかもう一度魔王と会うことになるとはね」

「お前ならいつでも会いに来れるだろ、勇者アデル」

「残念、今は国王アデルだよ」

我も椅子に座る。

「では国王アデルよ、今日時間はどれくらいある」

「そんなに長くはないよ」

「そうか・・・なら早速だが本題に入ろう」

「どうぞ」

「人間を不老不死までとはいかずとも、長生不老にすることはできるか?」

アデルの視線が厳しくなる。

「・・・とりあえず理由だけでも聞いておくよ」

「今我が人間と生活していることは聞いてるか?」

「そうだね、この国で唯一信頼してる人間に監視を頼んでるからね。国境近くに住む女の子に拾われたってのは知ってる。」

「やはり監視はされていたか、まぁ今はそんな事はどうでもいい。彼女はもうそんなに長く生きられるとは思えない」

「だろうね。人間でありながら、魔国の近くに住み過ぎてる。寿命が削れていても不思議じゃない。それに長生不老の魔王からすれば彼女は瞬く間に死ぬだろうね」

そうなのだ。魔国周辺は魔力の元である魔素が漂っている。少しなら問題ないが、長期間その中に身を晒せば人間は弱っていく。

「引っ越せばいいじゃん」

「リンはあそこから離れないと断言した。」

「命より大事なその離れない理由は?」

「家族を待っていると言っていた。戦争の影響で疎開していたが、戦争が終わり帰宅。家族との最後の約束で、平和になり次第家に集合となっている・・・らしい」

「なるほどねぇ」

アデルが腕を組む。

「魔王が当時の力を残してるなら、人間数人探し出すの一瞬じゃない?」

「あぁそうだな」

「その反応だともう探した?」

「リンの家族は生きてる。場所もわかってる。だが・・・」

「皆それぞれ別々の家族を築いててリンさんは忘れられてるってとこか」

「その通りだ・・・」

「戦後のあるあるだね。家族の所在がバラバラになるから、即席の家族がそのまま定着して、昔の事は無かった事にする。難しいけど一種の自己防衛だね」

「だから彼女の命を繋ぎ止め、何とか解決する時間が欲しい。頼む!」

我は初めて人間に頭を下げたかもしれない。ここまできてプライドなど言っている程愚かではない。

「まぁわかった。ただ人類側にも一人の人間の寿命を永遠に近くする手立てはまだない」

「アデルよ、ここまで来て嘘をつくのか?」

「まあまぁ、最後まで話を聞け。魔王さんはきっと俺の事を見てその発言をしてると思うけど、どう?」

「そうだ。何回も勇者と戦ったがその全てが、大まかな見た目は違えど、魔力の質は全く同じだった。つまり同一人物と考えても不思議ではない」

そうだ。長い歴史の中勇者は何人も現れた。顔や見た目は違えど、本質的な魔力の質は皆同じだった。このアデルもそうだ。つまり長い歴史の中の勇者は同一人物の可能性がある。

「そうだね。コレまでの勇者は全員俺だとも言えるが、別人でもある」

「何が言いたい?」

「結論から言うと、歴史上の勇者は最初の一人を除いて他は全てコピーだ。クローンって言った方が正しいかな?」

「クローン!?」

「魔王が驚くのも無理はないよね。クローンには問題が山積みだし、人権的な話も入ってくればもう手に負えない。でも、人間の強みはそういう理性とかからはかけ離れた狂気にあるんだよ。さて、ここまで話せばもうわかるよね。その子を長生不老にはできない」

「そうか・・・無理を言ってすまなかったアデル。我は帰る」

次の手を考えようと我は立ち上がる。何か手段はある。この世界で1番発達してる学問が医学と生物学なら可能性はゼロではない!!

「魔王はさ、どうしたいの?その子に長く生きて欲しいの?」

「もちろんだ」

「魔王の目も曇ったものだ」

「なんだと?」

「俺は知ってる。短くとも幸せな生き方を。短命も悪いことばかりじゃないんだぜ」

「何が言いたい?」

「魔王はさ、その子が先に居なくなる事を恐れているだけで、その子を幸せにとか言い訳して誤魔化してるだけだよ」

「アデルよ、我に喧嘩を売ってるなら買うぞ」

「そういうわけじゃないが、アンタは少し人間を舐めすぎだ。その子が本当に家族は帰ってくると思ってるのか?そんなわけないだろ!少し考えればわかるだろ。なぜ辺境に娘一人でいる続けるのか」

「それは・・・」

「いいか、魔王・・・いやマモンお前はその子に人間として添い遂げろ。それだけでその子は笑って死ねる。」

「我は魔王だ。人間にはなれん!」

「いやなれる!。魔族化はできなくとも、人化の研究は完成してる。ここに行け。俺の仲間が管理してる場所だ。そこで人間にしてもらえ」

「な、何を言ってるんだ!?」

「魔王の長生不老の体を捨てて人間の娘と幸せに余生を暮らせと言っている。なんなら人間としての身分証も作ってもらえ。それで全部解決だ」

「アデル・・・お前は最初から準備してきたのか」

「一応だ一応。まともな理由だったから協力するだけだ。さっさと行け。ウチの護衛という名の見張り役が来る前に」

「・・・アデル、すまなかった」

「あーはいはい、さっさと行け」

マモンは部屋を勢いよく飛び出す。マモンの気配が遠ざかる。俺は無線に手を伸ばす。

「任務達成、魔王は人化手術を受けに行く。丁重に扱え。」

その後の魔王の消息は不明である。国王は魔王の消滅を発表して世界に平和が訪れた。マモンという人間が幸せに暮らした話はまた別の話である・・・


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