その15 夏休みの思い出
男になって半年とちょっと。
4月末から始まった2度目の中学生活も、充実の日々を過ごして、遂に夏休みを迎えた。
そんな夏休み最初の土曜日。
私はナミと四橋さんと共に、海へやって来た。
「来ちゃったね!」
「うん…凄い、穴場だね」
「でしょ?…おばあちゃんちの近くなんだけど、毎年、人が少ないの。こういう所なら…」
県外、四橋さんのおばあちゃん家から近い場所にある海水浴場。
学校で海へ行こう!と計画を立てた時に、四橋さんが"人のいない穴場"だと教えてくれたのだが…実際にその通りで、私達の他に数組の"大人しそうな"集団が居るだけ。
「ありがとうございます!車出してくれて!」「あ、ありがとうございます…」
「全然!やっぱさ、人混みじゃないのは良いよね!海も他所と比べ物にならない位綺麗だし!最高!」
そんな海水浴場へは、真琴に言ってレンタカーを借りてもらい、車でやって来たのだった。
真琴は真琴で、大学でのアレコレが忙しい時期だったから、車を出してもらうのは無理かな?と思ったのだけど…
ダメもとで頼んでみたら二言返事でOKをくれて、本人も海で泳ぐ気満点!といった様子。
「2人共可愛いから、人が多い所ならナンパされまくってたよ」
「いやぁ…それは…流石に無いんじゃないかなぁ」
「に、二宮君も一緒だし…」
「ハルはホラ、文系男だもの」
「真琴…?…まぁ、仰る通りですけどね!」
「ま、ハルを弄るのはこれ位にして。とりあえず着替えちゃおっか」
そう言った直後、真琴とナミは私の目も気にせずバッとTシャツに手をかけて一気に脱ぎだす。
「え、えぇ!?」「ちょっ…!!」
2人の行動に驚く四橋さんと私。
私は目を閉じてそっぽを向いたが、その直後、2人の笑う声が聞こえてきて、私は僅かに目を開ける。
「水着、着てきたんだよね~」
「あっ…そういうことか…」
上半身だけ脱いだ2人…既に中には水着を着ていたらしい。
真琴はこの間かった赤いビキニのブラトップ、ナミは中学生にしては責め気味?な、黄色いチューブトップを着ていた。
「驚いたでしょ?」
そういう真琴に、私は顔を真っ赤にしつつコクリと頷く。
真琴とナミは私と四橋さんのリアクションを見て満足げに頷くと、パッと下も脱いで水着姿に様変わり。
そして荷物を車の中に放り込むと、残された四橋さんと私に向かってこう言った。
「あ、車の中はカーテンで隠せるから。四橋さんは車の中で着替えてね。ハルは…トイレの中でも大丈夫でしょ?」
♂♀♂♀♂♀
「じゃ、泳ごっか!」「行けー!!」
全員が水着に着替え終えて砂浜に繰り出すと、私達を待っている間にウズウズしていたであろうナミがそう叫んで海へ駆けていき、それに真琴が続いて行った。
入り江の、穏やかな海…バシャバシャと水を飛ばしながら海に入っていくナミを眺めていた私は、同じような目で眺めていた四橋さんと顔を合わせて思わず噴き出していた。
「わ…僕達も行こっか」
「うん」
中学生らしい?淡い色合いをしたワンピース型の可愛い水着に身を包んだ四橋さんと共にナミの後を追いかけていく私達。
先行した2人と違って、そろりそろりと探るように海水へ足を入れてみると、外の暑さから比べて丁度良い感じに冷たい水の感触が足に伝わって来た。
「あ~、丁度良い~気持ちいいかも」
「二宮君、おじさんみたいだね」
「え?…あー…アハハハハ…」
丁度良い水温に顔を蕩けさせていると、四橋さんにボソッと突っ込まれて顔を赤くする。
それを笑って誤魔化していると、私達のほうに水飛沫が飛んできた。
「わっ!」「キャ!」
バシャ!と水を捲き上げたのはナミだ。
私は海水のしょっぱさに渋い顔を浮かべると、すぐに黒い笑みを浮かべてナミの方を見る。
「やったな!」
「えぇ!かかってこい!」
「このっ!」
バシャ!と仕返し。
まさかこの年になって、こんなベタな遊びをするとは思わなかった。
バシャバシャと、思うがままに水をかけ合う私達。
水をかけあったり、ザブン!と海の中に潜ってみたり…
「あー、凄い。もうびしょびしょだね」
「ねー、日焼けしちゃうかな」
「気にしたってもう遅いっ!それ!」
「わっ…しょっぱ!仕返しだ!そら!」「……!!!」
じゃれ合って、笑いあうだけ…ただ、それだけなのに、凄く楽しかった。
「いやぁ…ただ海に入ってるだけなのにね、なんでこんな楽しいんだろね?」
♂♀♂♀♂♀
時間が過ぎるのはあっという間で、気付けば頭の上の太陽が随分と西に移動していた。
「あれ、ハルは寝てないんだ?寝てていいのに」
「んー、眠くないんだよね」
海を後にした私達は、家に帰る前に温泉に寄っていくことになっていた。
今はそこまで、真琴の運転で向かう道中だ。
後部座席に座った2人は仲良く熟睡中…チラリと後ろを見やると、今日だけで随分と日焼けした2人の寝顔が見えた。
「この日焼け、明日には痛くなってるかな?」
「どうだろ?日焼け止めも多少は効いてるはずだし…まぁ、大丈夫でしょ」
「だと良いけどねぇ。結構焼けたよ?」
後ろの2人も焼けたが、私達もそれなりに日焼けしている。
サイドミラーに映った自分の姿を見ても、今朝の色白少年は何処へやら…
健康的に日焼けした少年の姿が映っていた。
「しかしさ、ハル君」
「ん?」
「女の子3人に男の子1人って、随分といい御身分じゃない」
「……今言うか、それ」
日焼けを気にしていると、私を"弄る"表情を浮かべた真琴が、そう言って私の腕を突いてきた。
私は顔を僅かに赤らめると、今朝からずっと気にしていたことを意識してしまう。
顔を赤くして…プイッとそっぽを向くと、真琴はふふんと鼻で笑った。
「お風呂は男女別だからね?」
「分かってるっての!」
真琴からの弄りに突っ込みつつ、耳まで赤くした私は、狸寝入りをしようと目を閉じた。
「役得ねぇ…」
狸寝入りしたのを"分かっている"様子の真琴は、それ以上私に何も言ってこない。
その直後、エアコンの温度が僅かに下げられ、涼しい風が車内をかき混ぜるようになり…
そしてボソッと、真琴が小声でこう呟いた。
「青春してるじゃないの。すっごく楽しそうな…ね?」
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