第79話 エキシビションマッチ
待機室で待っていたが、キキョウも対応を手伝っているのか来ることはなかった。そもそもエキシビションマッチの準備があるのかもな。
モニターの画面が切り替わったな。誰だこのおっさん。
「ファイト・ザ・オンラインカップをご覧の皆様、私はこのゲームの管理を任されている甲斐弘毅です。現在、みなさまよりご意見をいただいたパンドラ選手について調査をいたしましたところ、外部ツールや、バグを利用するなどと言った不正行為は認められませんでした。おそらく当人のプレイヤースキルによるものと推定されますので、パンドラ選手の優勝で大会を進行いたします。」
それを言い終えると再び会場の映像に切り替わり、プレイヤーたちからのブーイングが聞こえてきた。まぁ、俺が同じ立場だったらそれを言いたくなるのもわかるけどな。
そのまま会場中央に転移させられ、表彰式が始まった。表彰をするのはレジェンドプレイヤーであるキキョウだ。
「パンドラ選手、あなたの戦いは素晴らしいものでした。他の方はチートを疑っているようですが、俺はあなたがチートを使っていないのを知っています。今からは俺との戦いだ。まずは優勝おめでとう、パンドラ。」
「ありがとう、キキョウ。」
会場にいた他のプレイヤーたちはなんとなく察したようで、ブーイングはさらに激化する。
そういえば今の俺のアバターが女性アバターだからカップルにでも見えたのか。
「会場の皆さん、勘違いしないでほしいが、俺とパンドラはただの友人だ。俺が何か手を施したわけでもなければ、彼女でもなんでもない。この大会を紹介し、彼女が自身の実力で優勝したまでだ。」
帰郷のその言葉に会場中が静寂に包まれる。しかし、ブーイングが再開された。なにを言おうと信用を得るのは難しいだろうな。
俺とキキョウが呆れているのを感じ取ったのか、司会が強引に進行した。
「それでは、これよりレジェンドプレイヤーであるキキョウ選手と今大会の優勝者であるパンドラ選手によるエキシビションマッチを開始します。もしここでパンドラ選手が勝利すればキキョウ選手に続き2人目のレジェンドプレイヤーとなっていただきます。」
司会のその言葉を合図に俺たちは専用フィールドに転送された。エキシビションマッチ専用のフィールド。これまでの戦いから運営も学んだのかフィールドの外に出ることは不可能な構造になっている。つまり、どちらかのHPが全損するまで戦いが続く。
「さぁ、パンドラ。周囲の邪魔も入らない、ヤジも飛ばない。正真正銘2人きりでの約束の戦いだ。」
「そうだね。まぁ、サクッと勝たせてもらよ。」
「そんな楽に勝てるものかよ。それじゃお互いに準備と行こうか。」
2人揃ってメニュー画面を開き、スピード値を調整する。キキョウは120、俺は170だ。通常のフィールドよりも広いからキキョウも120で動けるんだろうな。
「あ、そういえば。」
「どうしたの?」
「パンドラの箱のメンバーもみんな揃って今見てくれてるってさ。」
「そっか。それはマスターとして頑張らないとね。」
「ボコボコにして、俺の方が強いってことを証明してやるよ。」
「できると思ってるの?」
「さぁな。」
キキョウのその言葉を最後に進行の音声が聞こえてきた。
『第9回ファイト・ザ・オンラインカップエキシビションマッチ 優勝者パンドラVSレジェンドプレイヤーキキョウ!3•••2•••1•••••• スタート!!!」
まずはお互いに正面からぶつかる!やっぱりキキョウもそう来るよな。
俺は体を捻りながら拳を突き出し、桔梗にだけ攻撃が当たるようにする。しかし、考えることは同じなようで、キキョウも回避し、お互いの攻撃は当たらない。2人とも壁ギリギリまで接近して止まった。おそらく観客からしたらなにが起こっているのかわからないだろう。
「さすがキキョウだね。スピードに50も差があるのに回避しちゃうなんて。」
「まぁな。歴が違うんだよ。この程度で驚いてちゃこのあとが持たないぞ。」
「そんな大して驚いてないよ。」
「そうかよ。それじゃ行くぞ。」
帰郷が急接近。俺の目の前で停止し、そのまま足払いからの殴りつけだ。もちろん足払いは回避し、拳もうまく受けた。ノーダメージで突破したと思いきや、左の拳が飛んできた。そっちに対応しようとした瞬間右の拳が俺の腹部を捕らえた。なかなかにダメージが重い。だが、この程度ならまだしばらく持つ。これは泥臭い戦いになりそうだな。
そのまま、俺とキキョウの戦いはステゴロにもつれ込みお互いに殴るケルの戦いが繰り広げられる。
ただし、ここでもスピード値の差が顕著に出て、少しずつキキョウのダメージが蓄積していく。




