第78話 第9回ファイト・ザ・オンラインカップ優勝
すっきりしない2回戦を終えて、そのまま準決勝は苦戦することなく勝利した。相手も同じだったようで、決勝の相手はRia。彼女も初の決勝だ。しかし、決勝トーナメント自体には毎回出場している超実力者。そして今回俺と最も相性が悪い相手だ。
あまりスピードを上げすぎるともちろんその移動精度は低下する。攻撃を当てづらい。そのうえ、相手のスピードもそこそこだ。もちろん俺からすれば遅すぎるものだが。
「やはりあなたが上がってきましたか。キキョウさんと戦うのは私です。」
「私に勝てるのならいいけれど。キキョウと戦いたいのもそうだけど、私はどうしても負けられない事情があるの。意地でも勝たせてもらいますよ。」
「さっきからキキョウさんを呼び捨てで、どう言った関係なのかが気になるわね。」
「さぁ?なんのことでしょう?」
「まぁ、口を割るとは思っていないわ。このゲームでは力を示した方こそが正義。どちらが相手に力を示すことができるのか。いざ勝負。」
「受けて立ちましょう。」
RIaはゴングがなる前にスピード値を75まで上昇。データでは65となっていたけれど、相当特訓したのか?
考え事をしているうちにゴングがなり試合がスタートした。
「スキル{平等化}」
なんのスキルだ?
『スキル{平等化}の効果によりプレイヤー:パンドラ及びプレイヤー:Riaのスピード値が75に固定されます。』
なるほど。こちらの特異を潰すスキル。相手に高いスピード値を押し付けることで対応不可になり、自爆させることまでできる。
「なるほどね。いいスキルだ。私にはクリティカルに刺さる。」
「でしょ?これで条件は同じそれどころか私に攻撃を当てづらい以上、私の方が有利!」
「それはどうかな?それじゃ純粋な力のぶつかり合い。あんまり好きじゃないけれど、ステゴロといこう!」
俺はRiaに接近し、殴りかかる。もちろん相手もうまく受けたり、回避をしたりする。反撃を加えてくるが、あえて交わすことはしない。勝利が目前になれば隙も生まれる。それもあるが、俺はあるスキルを獲得している。
「どうしたの?意気込んでた割にあっけないじゃない。あと一撃で終わりよ。」
「そう思うでしょ?」
この瞬間を待っていた。一撃で削り切れるか微妙なHP量。相手は威力を上げるために大きく振りかぶっている。
「スキル{正しい戦い}」
スキル{正しい戦い}獲得条件は決闘において場外での決着が10回以上で、HP0による決着の回数を上回ること。そしてその発動条件まである。その条件は残りHPが3割を切り、戦闘開始から5分以上決着がついていないこと。
正しい戦いを行わないものが正しい戦いを行うことで得られる力。
そしてその効果は決闘エリア内にいるすべてのプレイヤーにかかっているすべての効果とこの決闘中に今後かかるすべての効果の無効化。
簡単にいうとバフデバフを無効化して、それらの使用禁止だ。スキルが重要視されていないこのゲームではあまり使い道のないものだが、今この状況においては最高のスキルだ。
スキル獲得時に複数の効果から好きなものを一つ選んでその効果を持つスキルだったのだが、このバフデバフ無効にしたのはバフをガン積みするレンがいたからだ。まさかRiaに刺さるとは思わなかったけれど、ラッキーだったな。まぁ、来れなくても勝てたんだけど。
『スキル{正しい戦い}の効果で決闘エリア内にいる全プレイヤーの効果をすべて無効化・今後かかるすべての効果を無効化します。』
「なにこれ?」
振りかぶっていたからこそ、目の前に現れるモニターが確実に視界に映る。そして一瞬の隙ができてしまう。そのまま拳を振り下ろそうとするが、微調整はできなくてもスピード値の上昇には十分すぎる時間だ。どれだけ上げたかわからないが、脱出して体制を立て直す。
危なかった。あと数センチでエリア外に出てしまうところだった。スピード値が220まで上昇してしまっていたので130に調整する。その間にRiaも体制を立て直したようだ。
「せっかく情報屋を通してあなたの情報を仕入れて対策までしてきたのに。」
「やっぱり私対策でしたか。どこから情報が漏れたのやら。まぁいいです。これで終わらせましょう。」
「えぇ。好きなようにしてちょうだい。」
動きを止めたので、カウンターを考慮しつつ、少し離れたところを通過する。小柄である以上体重の設定も軽くなっており、風圧で簡単に飛んでいってしまった。
「CHANPIONパンドラ」
その表示が残り、決闘エリアには俺が残され、解説席から司会とキキョウが降りてきた。
「優勝に関して異議の申し立てが立て込んでおりますので少々お待ちください。バグやチートを利用しているという疑惑があちこちで上がっていますので。」
司会からそう耳打ちされた。
「それでしたら、一度待機室に戻していただいて、表彰式兼エキシビションマッチということで、少し時間を空けてはどうですか?」
「そうするつもりです。私もこのゲームにずっと関わっていますが、チートでないことはわかります。チートならこんな堂々とやったら怪しまれてバレるに決まっていますし。」
「そうですよね。それでは待機室に転移をお願いします。」
「わかりました。」
そう言って俺は転移させられ、モニターには決闘エリアの様子が映っていた。
「観客の皆様、ただいま問題が発生しましたので、エキシビションマッチの開始は現時刻から1時間後とさせていただきます。それまでお待ちください。




