第7話 第1回イベント準備とブラッドストーン
急いで集合場所のドンラの町に戻る。ディクティオンの百穴の中でいろいろしていたせいでディクティオンの百穴を出た時点で3時55分。町の中に入ってからのことを考えるとギリギリか、ちょっと遅れるくらいかな。
とりあえず1分で町の近くまで戻り、そこからはそこそこのスピードで走った。全力で走ると曲がり切れずに建物にぶつかって全壊させてしまうかもしれない。気を付けないと。時間ギリギリ3時59分についた。
キキョウは既に到着していて、俺たちはキースの店へと向かった。
「お、来たね。できてるよ。」
「ありがとうございます。」
「いや、僕も楽しみだよ。今日のイベント参加するんでしょ?」
なんだか口調が砕けて話しやすくなったな。まぁ、気にしないでいいか。
「はい。アバターの動きにも慣れてきたので。」
「うん、昼間会った時よりもだいぶマシになってるかな。ちなみに僕も参加するから遭遇したらお手柔らかにね。」
「キースさんも参加されるんですね。こちらこそお手柔らかに。」
「それじゃ、これが完成した武器だ。〈黒曜石の双剣〉。素材が黒曜石なだけあって通常の剣よりも切れ味は抜群だ。その代わり切る以外の動作にマイナス補正がかかっているから注意しなよ。ほかの素材も混ぜて耐久値はかなり高くなってるが、多分イベント終わったらメンテナンスが必要だな。イベントの戦闘はかなり激化するだろうから。」
「プレイヤー同士のバトルロイヤル。それも最後の一組まで続きますしね。」
「俺はもちろんバトルロイヤル部門とキル部門両方でトップを目指すぞ。」
キースさんさすがプロゲーマーだな。
「僕らも両方とれるよう頑張りたいですね。ちょっと作戦もあるんで。まだキキョウとは共有してないですけど。」
「なんだよ作戦って。俺には教えてくれるんだよな。」
キキョウが食いついてくる。心配しなくても共有するに決まってるだろ。
「もちろん共有するよ。うまくいけばキル数がとてつもない数になるからな。」
「まぁ、せいぜい頑張れよ。俺に負けないようにな。」
「勝ちますよ。それじゃほかにもよるところあるのでこれで。」
「おぅ。またイベントでな。」
店を出た俺はキキョウと話しながら次の目的地へと向かっていた。
「それにしてもキースさんえらく口調が違ったね。」
「あぁ、初対面だと委縮するタイプなんだよ。2回目以降は大丈夫らしいんだけど。」
「そうなんだ。それじゃ、作戦の共有をするね。」
「おお。頼んだ。」
できるだけ人通りの少ない場所を歩きながら小声で話す。
「今回のフィールド公開されてたじゃん?あれを見て思ったんだけど、フィールドの端から1㎞以内の場所からスタートじゃない限り俺の{毒霧}で全部覆えるんだよ。だから初手で{毒霧}を使って毒に耐性のないプレイヤーを全員殺してふるいにかける。それでキル部門の1位は確定だ。」
「確かにそれなら俺が毒無効の装備を用意するだけで済むな。ってそんな高額なものどうやってかえっていうんだよ。」
「それに関しても考えてある。宝石をドロップするモンスターっているじゃん?」
「いるな。代表的なのだとジュエルタートルとかか。」
「そう。おれディクティオンと修練の横穴で結構な数その系のモンスター倒してるから宝石が結構あるんだよ。だから質屋でそれを換金してお前用の毒無効装備を買う。」
「お前がそれでいいなら文句はないぜ。一方的な蹂躙も楽しそうだしな。」
「あと、{毒霧}のあとなんだけど、とりあえず俺は人型に戻ってお前とエリアを散策すればいいかと思ってるんだけどそれでいい?」
「お前の強さがあれば敵なしだろうから反論はないぜ。」
「それじゃ決定ね。質屋ってそこだっけ。」
「あぁ。あってるぞ。それじゃ俺は外で待ってるわ。他人の大金なんて見たくもないからな。」
「ほぼお前の金みたいなもんだけどな。まぁいいか。」
そんな会話をして俺は店の中に入った。店はまさに質屋って感じでいろいろなものが並べてあった。
「いらっしゃいませ。購入ですか?買取ですか?」
「これの買取をお願いしたいんですけど。」
NPCの店のわりに店主の人間味がすごいな。さすがユーオンだな。
「宝石の買取ですね。サファイアにエメラルド、ルビーにブラッドストーンなんて珍しいものもありますね。少しお待ちください。」
……5分後
「お待たせしました。数が多かったので明細をおつくりしていました。こちらが明細になります。総額5000万ゴールドになりますが、買取成立でよろしいですか?」
エメラルド 7個 単価40万 280万
サファイア 16個 単価25万 400万
ルビー 24個 単価18万 432万
トパーズ 12個 単価64万 768万
ダイヤモンド 5個 単価200万 1000万
ブラッドストーン 2個 単価1060万 2120万
小計 66個 5000万
中々な額になったな。これだけあれば毒無効の装備を買うのに十分足りるかな。それにしてもブラッドストーン、ドロップ個数少ないなと思ってたら単価めっちゃ高い。何に使うんだろう?まぁそんなことはどうでもいいか。
「買取成立でお願いします。」
「それではこちら買取金額の5000万ゴールドです。」
「ありがとうございます。」
俺は金を受け取って外に出た。
「時間かかったな。いくらくらいになった?」
店の扉の横に立っていたキキョウが聞いてきた。どうせなら中に入ればよかったのに。
「5000万」
「まじで……?」
「マジ。」
「何売ったの?」
「明細見る?俺もびっくりしたんだけど。」
「おぅ。ありがとう。なになに。ダイヤモンド5個まではまぁわかる。ブラッドストーンってなんだ?俺かなり情報仕入れてる方だと思うけど聞いたこともないぞ。」
「俺もわからん。単価が1000万超えていることだけが事実だ。」
「まぁ、今は置いとくか。イベント開始まであと2時間くらいだし、さっさと装備買ってリアルの方で準備整えようぜ。一応食事はとっといた方がいいぞ。あとエナドリもな。途中で肉体が眠ったら強制ログアウトだからな。」
「そうだな。この横だよな。」
「確かにここも防具屋だけど、ここめっちゃ高いぞ。」
「毒無効の指輪がここにあるってネットの情報で見たんだけど。」
「あったっけな?覚えてないわ。まぁ入ってみるか。」
「そうだね。」
入ってみると確かに高い商品ばかりだ。最低でも1000万以上の品物しかない。その分ほとんどの装備が高性能だ。
「これだな。毒無効の効果を持ってる指輪。〈解毒の指輪〉。1個3500万ゴールド。」
キキョウが震えた声でそう言ってきた。確かに超高額アイテムだ。多分この店で装備買ってる人いないんじゃないか?」
「ここは商品を選んでた移転した時点で自動決済されるみたいだな。道理で店主がいないわけだ。」
「じゃあ俺が持って出なきゃだから貸して。」
キキョウが渡してきた指輪と値段を見て震え上がっているキキョウを連れて店の外に出た。所持金が一気に1500万まで減ってしまったけど、1500万あれば十分でしょ。
「ほらキキョウ、これつけて。」
「ありがとう。頑張って3500万ゴールド分働くよ。」
「いや、これからも一緒にプレイしてくれればそれでいいよ。俺ユニークなんだしさ。」
「そうか。それじゃ、イベントの気合を入れるためにも飯食って準備しようぜ。俺は宿屋に戻るけどどうする?」
「俺も同じところで部屋取ろうかな。ユニークの特権でここでもリスポーン更新できるけど、さすがにログインしてきたときに目立つからね。」
「それじゃ行くか。」
1時間40分後(18:55)
「お、来たな。もうすぐで参加の有無を確認する画面が出てそれにYesで入力すれば7時ちょうどにフィールドに転移するらしい。」
「オッケー。パーティーってどうなんの?」
「俺たちの場合はパーティーの人数が2人だから両方とも参加すれば自動的にイベント時間中パーティーになる。3人以上の場合は複雑だから知らなくていいぞ。」
「そっか。おっ、表示されたね。18:57だな。59分までに入力しないといけないんだよね。」
「まぁ押すだけだからな。」
2人そろってYesを入力する。キキョウはそのまま次の画面に遷移したが、俺は確認画面が表示された。
《一般プレイヤーとパーティー登録がされていますがよろしいですか?》
よろしいに決まってんだろ。Yesっと。これで参加確定っぽいな。開始時間までそのままお待ちくださいって出ている。これで時間になったら転移するのか。こういうゲームのイベントって初めてだから楽しみだな。スタート位置が端の方じゃなければいいけど。