第56話 勧誘失敗と新メンバー
「なぁ、こんなにも都合よく槍使いが目の前通るのって怪しくないか?」
「確かにね。名前に見覚えは?」
「ないな。」
「私もないしどっちかの運がいいんでしょ。とりあえず声かけてみよ。」
「そうだな。そこの人、ちょっといいですか?」
「なんですか?私今からイロアまで行きたいので急いでいるんですけど。ん?あなたはUniquePlayerですか?」
「そうです。見ての通りユニークプレイヤーのパンドラといいます。」
「そうですか。私はリスタといいます。それでお二人の用件は?」
すごく冷静で合理的な人だな。ちょっと好きなタイプかも。
「あまり遠い言い回しはお好きではなさそうなので単刀直入に言いますね。私たちのギルドに入りませんか?」
「なるほど。ギルドの勧誘ですか。確かに他の町だと勧誘であふれてそうですもんね。この街はいまプレイヤーは少ないけれど、その分勧誘も少ない。」
「それでどうですか?話だけでも聞きませんか?返答次第ではギルドホームまで安全に送り届けることできますが。」
「そうですね。まず、ギルドマスターはパンドラさんということで間違いないですね。」
「呼び捨て、敬語無しで大丈夫だよ。そっちがそうしなくても私は敬語無しで話すね。こっちのキキョウも同じくね。」
「わかったわ。それで、質問への返答は?」
「もちろんそうだよ。今メンバーは5人、さっき1人勧誘して今度案内することになってるね。」
「メンバーの構成は?」
「戦士1人、魔法使い2人、盗賊1人、とさっき勧誘した僧侶が1人そして私だね。私はステータス的には盗賊に近いかな。」
「なるほど。それなら確かに近接戦のメンバーが足りていないでしょうね。」
「そうなんだよね。入ってくれない?」
「申し訳ないけど、加入は出来ないわ。私は大規模ギルドに入りたいの。それじゃまたどこかで。」
そういって歩いて行ってしまった。
「よくもあんなにさらっと嘘をつけるよな。」
「でしょ?さすがに加入が確定してない人物に正確な情報を教えるわけにもいかないしね。」
「それもそうだな。それで、ゲルマを隠したのは生産職がいないことでバッファーがいないと思わせるためか?」
「それもあるんだけど、一番は装備の質でブラフをかますためかな。通常生産職を抱えていないギルドっていうのはどうしても装備の質が落ちてしまう。その状態だと思い込ませておけば初回くらいは敵を欺けるだろうし、あとは魔法使いの人数でブラフを張ることで相手は存在していない魔法使いの存在に警戒をする必要が出てくるからね。」
「さすがだな。俺でもそこまでは頭回ってないわ。こういう対人コミュニケーションよりも戦う方が得意だしな。」
「そっち面でもブラフだとキキョウには勝てないし、人それぞれ得意不得意があるってことでいいじゃん。」
「そうだな。それで、断られちゃったけどどうする?」
「そうだね。また散策して探してみようか。」
俺がそう言って移動し始めて少ししてメッセージが届いた。
「キキョウ、ちょっと待って。この街の掲示板経由で加入希望の連絡が来た。」
「マジで?ユニークプレイヤーのギルドに好き好んで入りたがる奴とかいるんだな。」
「本人を前にして言うことかなそれ。まぁいいや、そこのカフェにいるみたいだし、私たちも行こう。」
「集合場所まで指定とは手際がいいのか何かを企んでいるのか。」
「どっちにしろ行ってみるしかないでしょ。」
「そうだな。行くか。」
俺とキキョウは指定されていたカフェに入り、連絡をしてきた人物と顔を合わせた。
「お待ちしてました。私たち、ユイユイと」
「レントルです。」
「私はパンドラ、そしてこっちがキキョウね。」
カフェで待っていたのは小学生らしきプレイヤーの2人組。このゲームはアバターを自由に創ることができるので本当にそうかは分からないが。
「私は職業魔法使いです。得意系統は火です。」
「お姉ちゃん、まずはちゃんとあいさつでしょ。」
お姉ちゃんってことは兄弟か?姉が自由人みたいだし、弟は苦労してそうだ。
「いいからいいから。私たちが聞きたいのもそういったことだし、それで、レントルの方はアーチャーかな?」
「はい。ただ、正確には「弓使い」ではなく「魔弓使い」と書く方のアーチャーです。」
「そっちのアーチャーってことは魔法も使うんだ?」
このゲームのアーチャーは2種類あり、弓使いは純粋に弓だけを使う。弓単体の威力やレンドでいけばこちらの方が高くなる。魔弓使いだと、それらが下がる代わりにランダムな1系統のみだが、魔法も使えるようになる。
「はい。僕が使えるのは風魔法です。」
「弓とは相性がいいな。実際俺の知り合いにも風のアーチャーがいるし。」
魔弓使いは属性に弓使いをつけた形で呼ばれる。今キキョウが言った風のアーチャーのように。
「そうなんですか?てっきりこの職業を選ぶ人は少ないだろうと思ってこれを選んだんですが。」
「いや、少ないのは事実だ。実際うまく使いこなせなければ勝手が悪いだけだからな。」
「やっぱりそうなんですね。」
なぜだか少しうれしそうだ。逆張りってやつか?
「レントルばっかり話しててずるい!」
「ごめんごめん。それでユイユイは火魔法が得意って言ったけど、使える魔法はどんな感じ?大体でいいけど。」
始めたてだとしても魔法使い職はそこそこの数の魔法を使うことができる。
「私はね火の攻撃魔法全種類と、風の攻撃魔法を中級まで、水は初級が使えるかな。あとは味方の能力を上げるような魔法も色々使えるよ。」
「火の攻撃魔法全種⁉それはすごいね。それにバフまでかけれるんだ。」
「バフ?」
「あぁ、ごめんね。バフっていうのはさっき言ってたような味方の能力を上げることを言うんだ。」
「そうなんだ!」
なんというかすごく元気で純真無垢といった感じだ。この感じおそらく実際の年齢もアバターくらいだろうな。
「それで私たちとしては2人とも歓迎なんだけど、2人はどうしたい?」
「もちろん入りたいです!」
「僕はお姉ちゃんについていきます。」
「それじゃ決まりだね。そしたら今日はもう遅いし、また今度連絡してギルドホームまで案内するから、フレンド登録しよっか。2人ともお願いね。」
そういって2人とフレンド登録を済ませ、俺たちはいったんギルドまで帰還したのだった。そうでもしないと、ユイユイに関してはそのままついてきそうな勢いだったし。




