第54話 始まりの町アンファング
フレンが反撃領域を使ってからは一方的な蹂躙だった。こちらからひたすらに殴る。それだけで精神をすり減らすには十分すぎたようだ。
領域の効果時間が終了して、自由に動けるようになった時にはもう満身創痍のようだった。
「よくもやってくれたわね。」
「私がやったんじゃなくてすべてはあなたがまいた種でしょ?キキョウを無理に勧誘したのも、反撃領域を使ったのも。」
「本当にあんたみたいなやつ嫌いだわ。スキル{生命過熱}」
聞いたことないスキルだ。キキョウも知らなさそうだし、レアなスキルみたいだな。名前からして自身のHPを代償にステータスを向上させるって感じか?
「これであなたを倒してあげる。」
「はぁ。もうそろそろめんどくさくなってきたんだよね。キキョウ、倒していい?」
「あぁ。いいぞ。十分楽しませてもらったし。」
「それじゃ{暗殺者}{神速}」
ステルス状態で背後に接近し、さっと斬る。もちろん満身創痍なので耐えられるわけもなく倒されたようだ。
それから町に戻された俺たちはまた絡まれる前にそそくさとその場を去った。ただ、この街はギルドの勧誘が多く、正直未加入のメンバーはそうそう見つからないだろうし、いたとしてもその辺のギルドの勧誘の人たちが見逃さないだろう。
そういう話になって俺たちはイロアの町をさっさと離れて始まりの町であるアンファングに行くことにした。キキョウの転移で転移すると、アンファングは人が少なく閑散としていた。もうすぐ夏休みだ。夏休みに入れば新規プレイヤーが増えることだろう。
数人の新規プレイヤーが不思議そうにこちらを見ている。新規以外でこの街に来るプレイヤーなんていないし、初心者プレイヤーからしたら街中にモンスターが現れた時点で異常事態でしかない。しかもその横に当たり前のようにプレイヤーが経っているのだから不思議でしかないだろう。
そんな中一人のプレイヤーが声をかけてきた。
「あの、モンスターって町に入れるんですか?」
これはキキョウへの質問だろうな。
「急に来て驚かせてしまってすまんな。まずは自己紹介だ。といっても名前が表示されてるからわかると思うが、俺はキキョウ、そしてこいつはユニークプレイヤーの一人、パンドラだ。モンスターでも名前が表示されている場合はプレイヤーだからな。覚えておくといいぞ。」
「ユニークプレイヤーですか?基本的には敵だとチュートリアルで教わったんだが?」
「基本的にはな。こいつは俺たちプレイヤー側についてるんだよ。味方だから安心しな。ただ、一度死ぬと復活できないのは他のユニークと一緒だからこいつも苦労してるんだけどな。」
「キキョウ、ずいぶんと勝手な物言いだね。」
「わっ、しゃべった!」
「驚かせてごめんね。私はパンドラ。見たところあなたは職業は僧侶だと思うんだけど、あってるかな?」
「はい。僧侶のハンスといいます。」
「敬語は無しでいいよ。私たちギルドのメンバーを探してるんだけどどうかな?ほかの町は勧誘が多くてさ。競争が激しくてね。それに初心者の方がより一緒に楽しめると思うんだけど。」
「敬語に関しては癖なので気にしないでください。それにしても、ギルドですか?」
「うん。少人数なんだけど、第4回イベントの内容がギルド対抗戦って決まってるし、少しでもバランスよくメンバーを集めたいんだよね。良かったらホームを見るだけでもしてみない?」
「今どのくらいいるんですか?あまり人が多いところは苦手なので。」
「だいじょうぶ。まだ5人しかいないから。それに最大まで行っても25人だし、そんなに増やす気もないからさ。」
「それだったらちょっとお邪魔させてもらいます。」
「うん。それじゃ、私たちは他にも探したいから今日はフレンド登録して解散しようか。」
「わかりました。」
「案内の日時はまたチャットで相談するね。」
俺たちはさっとフレンド登録をして別れた。ほかの町ほどではないが、始まりの町である以上アンファングはかなり広い。そのため、見える位置にプレイヤーがいなくても、探せばどこかに理想のプレイヤーがいるかもしれない。
「とりあえずこれでヒーラーは確保できたな。」
「そうだねあと4,5人見つかるといいけどね。」
「とりあえず散策してみようぜ。それにお前この街をちゃんと歩くの初めてだろ?」
「確かにそうかも。森の中でスタートしたし。」
「だろ?だからメンバー探しだけじゃなくてさ、散策もしてみようぜ。」




