第53話 勧誘
ゲーム内で合流した俺とキキョウは早速町に行くことにした。
まずは初心者と上級者の人数のバランスがいいゲーム内では第2の町であるイロアに向かうことにした。ギルドホームから最も近い町ではあるが、ゲーム内でもトップレベルに大きく、利便性の高い町だ。イロアを拠点にしているギルドもいくつかあるみたいだ。
「今イロアにいるやつってほとんどがどこかのギルドに所属していると思うけどな。」
「まぁ、その時はその時じゃない?誰かしら見つかるでしょ。」
「見つからなかったらアンファングだな。上位勢にギルド未加入の奴がいたとしてもこだわりだろうしな。」
「そうだね。アンファングならすぐだろうし。」
俺たちの予定としてはイロアの町で散策をしてもし加入希望のプレイヤーが声をかけてきたら話をして加入させるかを決める。誰もいなさそう、もしくは条件に合うメンバーが見つからなければアンファングに行く。こんな感じだ。
「あの、少しお話いいですか?」
人が多く、俺のことが見えていないのか女性プレイヤーが全くひるまずに声をかけてきた。
「なんだ?」
「私たちのギルドに入りませんか?大規模ギルドですよ。」
「あいにく、すでにギルドに所属しているのでな。」
「所属ギルドって一度までなら現所属ギルドのマスターの許可なしで変更できますよね?それで変更してうちにきませんか?」
「すまんな。今所属してるギルドのマスターがリア友なんだよ。裏切るわけにはいかないしさ。」
「リア友なんてどうでもいいじゃないですか。私たちのギルド女の子がいっぱいいますよ。」
掲示板で見かけたな。確か女性メンバーを多数抱えてそのメンバーに女性体制の低そうなメンバーを集めさせてるギルドがあるって。確か『青藍の薔薇』とかいうだっさい名前だったな。
「興味ない。これ以上関わるんだったらうちのマスターとやりあってもらうが。もしそれに勝てたなら考えてやってもいいぞ。」
「私とそちらのマスターですか?いいですよ。私はギルドの中でもナンバー3なんですから。」
中々の自信だな。それが本当だとしたらかなりの実力者だな。
「それじゃ、マスターに連絡するな。」
そういってキキョウがチャットを送るふりをする。とりあえず、決闘システムがあるからそれで決闘を申し込むか。決闘中のPKはペナルティの適応外になるし、さっと倒すか。確かこの決闘の申し込みって匿名でもできるんだよな。あと決闘の当事者のどちらかの希望があれば希望を受けた人を観戦に参加させることができる。
俺の決闘の申し込みを受けて相手のプレイヤーはすぐに受けた。プレイヤーネームはフレンというらしい。
決闘専用の闘技場に送られた瞬間フレンの顔色が青くなる。
「ちょっと待って!まさかあなたの所属しているギルドって!」
「そう、『パンドラの箱』だ。俺が決闘を受けてもよかったんだが、こっちの方が面白そうだったんでな。」
キキョウも意地が悪い。向こうも複数人の観戦を呼んでいるようだ。男女入り混じっているが、明らかに一人偉そうにしてる奴がいるな。多分ギルドマスターだな。
そんなことはどうでもいいとして、決闘システムは一度決闘を受けるとキャンセルできずリタイアも受理されない。観戦組は自由に出入りできる。相手側の観戦は結果がわかり切っているからか全員帰ってしまった。
「でも、パンドラだってレベル99のステータスなんだから倒せるはず。」
虚勢を張ってはいるが声が震えまくっている。
『パンドラVSフレン!3・2・1・・・スタートッ!』
アナウンスの合図により決闘がスタートする。ヤケになっているのか捨て身で攻撃してくる。戦闘スタイルは素手。おそらく職業は修行僧だな。バフガン積みでぶん殴ってくるタイプか。こりゃ恐ろしいね。
まぁ、{不壊}がある以上効かないんだけど。
しばらく殴る蹴るの応酬だったが、疲れたのかフレンが一旦距離をとった。どうしようかな。キキョウはフレンの絶望を楽しみたいみたいだし、こうなった以上俺も同じ気持ちだ。どれが一番絶望かな。{毒霧}だと耐性がなければ一瞬で終わっちゃうし、{大地の覇者}も一瞬だろうし、{暗殺者}と{神速}のコンボだとこっちの姿が見えないから期待しているものは見れそうにないし。
相手が殴る蹴るを主軸にしているならこっちもそれでいくか。俺の腕は10本中8本はゴーストなどと同じように当たり判定がない。ただ、こっちからの攻撃に関しては当たり判定があるらしく、こっちから殴る分には問題ない。それにダメージ判定もないのでその8本なら相手の攻撃を弾いてもダメージがない。ただ、もともとある2本に比べると威力自体は10分の1程度まで落ちる。武器による攻撃ならその変化が適用されないのだが。
「素手での戦闘が得意みたいだね。それじゃ私も同じようにさせてもらうよ。あなたはスキルを使ってるみたいだけど、私はスキルなしで戦ってあげる。」
「そう。そっちから動いてくれるなら好都合ね。あなたのスキル、動かないことが発動条件でしょ?」
「だからスキルを使わないって言ったじゃん?それがなくてもあんなくらい余裕で倒せるんだよね。ほかにも一撃で倒せるスキルがあるけど、まぁあなたに使うにはもったいないかな。」
「どこまでも舐めてるな。絶対に後悔させてやる!」
ん?あれは反撃領域か。確かにモンクの戦闘スタイルにはあってるね。でもその程度でどうにかなると思ってるのやら。俺の腕は1.5mくらいある。つまり、反撃領域内に侵入しなくても攻撃ができる。
反撃領域は物質が侵入することで自身のAGIを無限に上昇させるものだが、当たり判定のない腕は物質としてさえ扱われない。つまり、この腕であれば殴り放題だ。威力が低い分、死ぬのも遅いから苦しみが長く続くわけだ。ある程度の痛みはあるわけだし。
「そんなことしちゃうんだ。自分の首を絞めるとも知らずに。」
俺は反撃領域に侵入しないギリギリの位置まで接近し、本来の腕以外の腕をすべて展開。そしてフレンを攻撃し始めた。武器を装備すると反撃領域に引っかかるが、今は装備していない。
「なんで!?なんで反撃領域の効果が発動しないのよ!」
「教えてあげようか?ちなみに今の私の攻撃通常殴るときの10分の1の威力しか出ないから少なくとも反撃領域の効果が切れるまではあなたを倒せそうにないかな。」
絶望の表情を浮かべるフレン。いいね、性格悪いけど、人のこういう表情ってすごくいいよな。キキョウも同じなのだろう、楽しそうだ。
「くそが。でも、あなたの攻撃力が低いということはこの腕へのダメージの方が大きいということ。それなら先に沈むのはあなたでしょう。」
「それはないですよ。私の腕にはダメージの判定がないので。そもそも物質として存在している扱いではないので。」
「は?何を言っているの?物質として存在していないならなんで攻撃ができてるのよぉぉぉぉぉ」
悲痛な叫びが響くが無視して攻撃を続ける。こういうのって楽しいよね。自分の腕を信じて高圧的に出てた相手をぼこぼこに叩きのめすのって。




