第37話 カイザ
俺とゲルマはゲルマは《紅蓮騎士団》のクエストに関して計画を立てた。計画は至ってシンプル。俺たちは事前に口裏を合わせて鎌をかけに行く。それで相手がぼろを出せばその内容次第で臨機応変に対応していく。それで相手がぼろを出さないようなら、深読みだったということにしてそのままクエストを進める。
「とりあえず私が話を進めるね。」
「助かる。俺はそういうのに慣れてないから。」
「それじゃ行くよ。」
再び《紅蓮騎士団》の扉を開く。
「パンドラ殿とゲルマ殿、お待ちしておりました。」
さっきと鍛冶場のものの位置がわずかに変わっている。道具はどう見ても新品だし、わからないように片づけてはあるが、あの後誰かが使っている可能性が高いな。そもそもさっきもだが物の配置からして専門職がいるようにしか見えないんだよな。
「お待たせいたしました。それで、そちらの依頼に入る前にお聞きしたいことがあるのですがいいですか?」
「もちろん何でもお聞きください。」
「なぜお宅には生産職の方がいらっしゃるのにそれをお隠しになっているのですか?鍛冶場の整備具合からしてどなたかが整備されていますよね。」
「いえ、そんなことはありませんよ。私共は使用していなかった鍛冶場に新品の道具を用意し、使いやすいであろう位置に置いただけです。」
しらを切るつもりか。ほんとうにNPCか?それを疑いたくなるほどに高度なAIだな。
「カイザ殿しらを切るおつもりですか?道具は確かに新品ですし、一見すると誰も使っていないように見えます。鍛冶場の汚れなどもきれいに掃除されていますし。ですが、明らかにどなたかが利用された形跡がいくつか見受けられます。もし隠したつもりなら詰めが甘いと言わざるを得ません。」
「先ほどから何をおっしゃっているのでしょうか?」
ギルドマスターであるカイザが落ち着いた様子でそう返答する。
AIとはいえ、ぼろが出たな。本当に知らないんだったらもう少し動揺した表情が見られるはずだ。ここまで落ち着いていられるわけがない。自分の身に覚えのない罪を着せられているのだから。
「詰めが甘いといっているでしょう?こちらからざっと見て詰めの甘い部分を教えておきましょう。今後交流が続く場合、そちらの詰めの甘さでこちらの情報が漏れたりしても困りますので。」
そこで言葉を切るが、カイザは何も言ってこない。これも詰めの甘さの一つだ。本当に知らないならここで何か言ってきてもいいと思うんだが。
「1つ目、道具の配置があまりにも実用的すぎる。これはあなた方の中に知識がある方がいたという可能性もありますが、それは2つ目の理由で否定されます。2つ目、さっき私たちが来た時と比べてわずかにですが物の位置が変わっていますね。それも誰かがその鍛冶場を使用したかのような移動の仕方ですね。先ほどよりもさらに利用しやすい位置に来ています。そして3つ目、最初に私が詰めが甘いといった時にあなたの様子がおかしかったですね。」
「私の様子ですか?」
明らかに動揺しているな。そういうところがいけないって言ってるんだけど。
「なぜあんなに落ち着いていたのですか?状況的には冤罪を掛けられているようなもの。それなのにあそこまで落ち着いているのは不自然。そして4つ目、私が詰めの甘さを説明し始める前に間を開けた際に何も言わなかった。本当に知らないのなら動揺して何かしら声が聞けてもいいと思いますが。そして最後はゲルマから言ってもらおうかな」
「あぁ。いくら未使用のようにつくろったとしても生産職視点で見ればその鍛冶場がどのくらい前まで使用されていたかくらいは分かる。その鍛冶場、俺の見立てだと前回使ってから1日も経過していないな。」
「これだけ詰めが甘いと、交渉は不利になるよ。今回の勉強代は無料でいいけど、今後は話術も鍛えた方がいいかもね。これからもっとたくさんのギルドが出てくる。その時に騙されてギルドがつぶされたり、大金を巻き上げられたりってことがないように警告って感じだから、問い詰めるつもりはないよ。今後も交流を続けたいとは思うけどね。それでどうする?たぶんあなたたちの依頼を受けれるのはゲルマしかいないけど、依頼する?」
「さすがユニークプレイヤー殿、魔法まで使用して偽装したというのに。」
「ゲルマは生産職を極めていて、私は対人の話術には自信があるからね。」
「今後の交渉の際には気を付けようと思う。私としても貴殿たちとは友好を続けたいと思っている。依頼も継続してお願いしよう。ただ、今後の交流に関して一つ条件がある。」
「それなら依頼を受けるにあたってこっちから出す条件も飲んでね。」
「内容次第だができる限りはかなえよう。こちらの要求を先に告げさせていただく。そちらのギルドホームの場所を教えてはくれぬか?」
「それならいいけど、先にこっちの条件も言っとくね。こちらが依頼を受けるにあたってそちらに要求するのはもともと提示されていた報酬に加えてなぜ生産職がいることを隠していたのか、その理由を教えること。」
「それであったらこちらも条件を呑もう。」
「それじゃ契約は成立だね。ギルド《パンドラの箱》を今後ともよろしくお願いします。」
「こちらこそ、ギルド《紅蓮騎士団》のギルド長として貴殿らとの友好を誓おう。」
「それじゃ依頼を完遂で来てからこっちのギルドホームに案内するから、ゲルマ、さっと終わらせちゃって」
「あぁ。素材はあるか?」
「もちろん用意してあります。こちらでお願いします。」
そういってカイザの横に控えていたNPCがゲルマに素材を手渡す。あとはゲルマに任せて、カイザに話を聞こうか。
「それではカイザさん、ゲルマが作業している間に先ほどこちらが提示した条件についてお教えください。」
「そうですね。確かに私たちのギルドには専属の鍛冶師がおります。もちろん彼は玉髄は加工できないのですが、かなり鍛冶師としての腕は立つのです。ほかのギルドにそういった腕の立つ鍛冶師がいるという情報を流出させたくなかったのです。隠していた理由なんてそんなものです。今後対立する可能性もありますし、うその情報を流すことには意味があると判断しまして。」
「それは確かに大事なことですね。私たちのギルドもメンバーの情報は私と、私の親友についてしか知られていないですし。」
「情報戦が戦の結果を左右することもありますし。それにしてもそれほどの話術を持つとはそちらをミミックだと侮っておりました。さすがUniqueの名を冠する魔物ですね。」
「この姿だと種族もパンドラではないですけどね。それでもあなた方全員を相手取って勝つ自信はありますけど。」
「でしょうね。私たちもあなたとは敵対したくありませんよ。勝てない戦いをするほど馬鹿でもありませんので。」
「あなたの性格からしてそうですよね。私も勝てない戦いはしたくないですね。ほかのプレイヤーと違って私は死んだら生き返れないですし。」
こんな感じでカイザと雑談しはじめてなんだかんだで1時間が経過したころ、ゲルマの作業が終わった。




