第32話 撃破?
ヤバイ!接近速度、剣をふるう速度そのどちらもがあまりにも速い。これは回避できない!
ん?攻撃が来ない。何で命中しないんだ?
恐る恐る目を開ける、といっても感覚の中でのそれでしかないのだが。目の前には俺に対して剣を振り下ろそうとしているデュラハンの姿があった。なぜ振り下ろさない?確か攻撃してきたスキルの名前は「首狩りの太刀」だったか?ってことは首を切り落とすことに特化したスキルであり、首がない俺が異常なことでスキルが完結せずバグを起こしているのか?おそらくスキル発動と同時にAGIが超上昇、剣術系の常時発動スキルが達人級まで効果が上昇、そして首を切り落とすことでその効果が切れる。その代わり首以外に攻撃することができないという制限が設けられている。そんなところか。つまり、首を切り落とさない限りスキル効果もモーションも終わらない。首がない相手に対しては挙動がバグって攻撃出来なくなってしまうのか。まさかこんなにもあっけない終わりになるとは。けど、油断は禁物だ。今俺の中にはゲルマがいる。ふたを開けた状態だとゲルマの首を狙われてしまう。極力腕を外に出さずに倒さないとな。といっても俺が蓋を閉じている限りこいつは首がないことでバグを起こして動くこともできないけどな。あとで運営にバグ報告もしないとな。
「ゲルマ、もう大丈夫だと思うけど、ふたは開けれないからもうちょっと待ってね。」
「いきなり動かなくなったし、戦闘音も止んだけど、何かあったのか?」
「今大丈夫だから説明するね。えっと、デュラハンと馬を分離させて馬の方は倒したんだけど、馬を倒した瞬間に本体の動きが明らかに変わって、ものすごく強かったし私のHPも1だからものすごく危険な状態だったんだけど、デュラハンが発動させたスキルが私と相性が悪かったみたいでバグっちゃって硬直しちゃった。」
「バグ?このゲームバグがほぼ起こらないことで有名だぞ。」
「いやー、相手が使ったスキルが{首狩りの太刀}ってスキルだったんだけど、私首ないじゃん?」
「ないな。」
「それでたぶんなんだけど、そのスキルが、ステータスと首に対する攻撃の威力に補正をかける代わりに首にしか攻撃出来なくなる、スキルの効果は首を切り落とすまで。とかそんな感じなんだと思う。」
「確かにそれならバグが起こってもおかしくないな。お前が首なしなのにスキルを発動したから。」
「そう。多分ユニークプレイヤーでも私だけなんだよね、首がないの。」
「そうだろうな。首がないって言ったら無生物かデュラハンみたいな特殊モンスターくらいだからな。」
「そうだね。ただ、今ゲルマが出てきたり、ふたを開けたりしたら多分動き出すんだよね。」
「俺の首を狙うのか。確かにそうなりそうだな。」
「でしょ?だから残り回数はそこまで残ってないけど、{大地の覇者}でとどめを刺そうと思う。あいつのHP残量からしてとどめを刺せない可能性もあるから、その時は攻撃が来たら頑張って躱して。私にダメージは通らないはずだから。」
「オッケー。頑張ってくれよ。」
「うん!それじゃ行くよ{大地の覇者}」
硬直したデュラハンにダメージが入る。{大地の覇者}の残り回数はこれで残り3回。HPは削り切れそうだな。
動かないし、このまま倒すぞ。
・・・・・・・・・・・・・・
「{大地の覇者}」
無言のままデュラハンが光の粒子となって消えていく。こんなにもあっけない終わりになってしまうとはあまりにも予想外だったな。
「ゲルマ、終わったから出てきていいよ。周囲にモンスターもいないし、瘴気の範囲外まで移動したから。」
「ありがとな、パンドラ。」
「それにしてもなんか残念だね。かなり苦戦して戦った相手だったからこんなにもあっけない終わり方をするのは悲しいね。」
「その気持ちはわかるけど、今は倒せたことを喜ぼうぜ。」
「そうだね。あと、運営にバグ報告をしとかないと。」
「そうだな。頼んだ。」
GMへの報告ページを開いて文章を作成する。こちらの情報はメールと同時に送られるのでユニークプレイヤーであることは報告しなくてよい。
『ニュンペーの森跡地に出現していたモンスター『デュラハン』と戦闘したのですが、その際に馬を撃破後、デュラハンが発動したスキル死霊剣術『首狩りの太刀』に関して、バグの報告です。私は首がないためか、このスキルを発動時、剣を振り上げた状態でデュラハンが停止しました。スキル効果は分かりませんが、首を切ることがスキルのモーションを終えるのに必要な動作だったのではないでしょうか?その硬直の間に撃破をしてしまいましたが、バグはバグなので報告をしておきます。私の存在がイレギュラーなのは重々承知していますが、今後こう言った風なバグが起こらないようスキル調整をしていただきたく存じます。』
ちょっと下手に出すぎな気もするけど、こんな感じでいいかな。
「ゲルマ、バグ報告は終わったからいったんホームに戻ろうか。キキョウにも連絡したからすぐに戻ってくるだろうし。」
「そうだな。ずっと中にいただけだが、なんか疲れたしいったん戻るか。」
「うん、さっきも言ったけど、私HP1しか残ってないし、さすがにもう戦えないよ。」
「それじゃそれぞれ転移しようか。またホームで。」
「うん。」




