第31話 10の腕
その瞬間俺の目の前にモニターが出現する。このコマンド、自身の眷属、すなわち自身と同じ種族のものを生贄にささげることでその数に応じて恩恵を得られるというもの。最上位種ではない俺が今回ささげることができた恩恵は最大数の1000体のミミック。そしてその恩恵はゲームシステムへの一部干渉。ただし、俺のスキルや性質を少しいじるくらいのことしかできない。
ただ、今回はそれで十分だ。
その作業が終わった瞬間、俺からは10本の腕が生えていた。
『Fallen Unique command』
それは《裏切の制約》を行ったユニークプレイヤーにだけ与えられる恩恵の1つ。《裏切の制約》を行うことで自身と同じ系統のモンスターはすべて眷属となる。その眷属の命を代償とすることで、世界に変革を起こすことができる。代償に必要な命は起こす変革にもよって変動するが、最上位種に至っている場合は最大数が設定されていない。正確にはその時点でゲーム内に存在している同系統モンスター全てを代償にすることができる。最上位異種に至っていない場合、その1つ下の種族なら上限が1か月あたり1000、それ以下の種族の場合は発動不可となる。
説明にはこう書いてあった。いわばゲームシステムを一部変更する権利。それが得られるってわけだ。今回変更したゲームシステムは「『UniquePlayerNo.1パンドラ』が一度に出現させることができる腕の本数の上限を増やす」というもの。それで上限まで生贄を捧げたら8本も増えた。1000体当たり8本ってかなり効率がいいな。しかもこの代償になったモンスターたちはそのうちランダムポップで元の比率と同じくらいになる。
つまりこれをするのは1か月の制限があり、上限があることを除けばほぼノーリスク。毎月やるとさすがに少しずつ数が減るだろうが、毎月最大数やるなんてことはないだろう。
それにこれはかなりでかいアドバンテージにもなる。特に今回みたいな状況、複数対1の状況に陥った時なんかはこうやって腕を増やしたり、対応力を上げることができる。
これだけの数の腕があれば十分だ。本来は頭を探し出す、もしくは本体と馬で担当を決めて複数人で戦うとかしなければならないだろう。ただ、これでその必要はなくなった。
俺はデュラハンの本体の四肢、馬の四肢をつかみ、本体の方だけを持ち上げる。物理攻撃は効かないものの、これなら問題はない。
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ」
出来るだけ遠くまでぶん投げる!これでグラッジシャドウを発動させなければすぐには戻ってこれない。しかも今の俺には腕が10本もある。暴れる馬を6本の腕で押さえつけ、残りの4本のうち2本には黒曜石の双剣、残りの2本にはサブウェポンとして作っていた鉄の双剣を装備する。
「スキル{神速}{暗殺者}」
{神速}で透明になり、{暗殺者}のバフを有効にする。そしてこのゲーム内には知っておかなければならない重要な仕様がある。それはAGIが上昇すると、動体視力・知覚速度に補正がかかる。それだけでなく、攻撃速度や、腕を動かす速度なんかもそれに比例して上昇する。
つまり、{神速}の効果で上昇したAGIは腕を動かす速度にも反映される。不可視、不意打ち補正、しかも腕の速度は倍!
腕4本を全力で振るう。
「{グラッジ・シャドウ}」
来た!だが、お前はもう間に合わない。馬は既に肉片になって飛び散った後だ。いくら回復をしたところで再生できるものではない。実際にこの状態になっていたら蘇生もできないだろう。
ただ、このスキルに付随している攻撃は{不壊}を貫通する上に超高威力、しかも俺のHPは残り1。一度でも{不壊}を貫通する攻撃を受けてしまうとゲームオーバー。つまり、すべての攻撃をはじくか回避しなければならない。
グラッジシャドウは拳による攻撃だ。剣による攻撃なら剣ではじくこともできるが、拳だと押し合いになった時に負ける可能性がある。ここは無難に回避をした方がいいか。背後にいるな。ここだ!
っていうか、何で{神速}下で俺に接近して攻撃出来てるんだよ!
動きが一瞬止まってまた動き出した。速度もだし、剣筋がさっきまでとは明らかに違う。さっきのがエリートのそれなら今のは達人のそれだ。
「死霊剣術『首狩りの太刀』」
ヤバイ!接近速度、剣をふるう速度そのどちらもがあまりにも速い。これは回避できない!




