第3話 初のボス戦
さて今日はどうしようか。あの事件はプレイヤー間で「毒霧事件」といわれるようになった。俺にとっては非常に今後動きづらくなる。プレイヤーに狙われる可能性が高くなるし、プレイヤーキルをせずにレベル上げをするのはかなり面倒だ。一応{毒霧}の範囲は自由に設定できるらしいから、プレイヤーが近づいてこない限り殺してしまうことはないだろうけど、何か他の攻撃手段を見つけないと不便極まりない。
解説書で調べた感じだと、ミミックは上位種があるんだよな。まず最も下位のレッサーミミック。次にミミック、グレートミミック、アークミミック、エルダーミミックと続く。それぞれの種のレベル50が1つ上の上位種のレベル1に相当するらしい。要は今の俺はグレートミミックのレベル1と同じくらいの力があるということになる。
そしてエルダーミミックの上位に位置しているのがミミック系統最上位に位置するパンドラ。
俺のプレイヤーネームと一致してはいるが、これに関してはあくまで図書館で閲覧できるモンスター図鑑に書かれているだけで、現在確認されていないらしい。
というかアークミミック以上はいまだ未確認だ。
モンスターの進化条件がわからない以上何かできるわけではないけれど、すこしでもレベルを上げることが必要になってきそうだ。インする前に経験値効率のいい場所を調べとくか。
えーっと、《ディクティオンの百穴》の最奥部にいるボスモンスターの経験値がめっちゃ多いらしいな。弱点が状態異常だからプレイヤーからすれば倒しづらいかもしれないが、俺に最適なボスかもな。それにボスエリアは完全に隔離されるからキルをするのもされるのも心配いらないし、このゲームは回想の機能がある。回想では、自身しか入ることのできない空間でこれまで勝利したことのあるモンスターと戦闘することができる。それも回数制限がない。これを使うことでレベル上限の99になっているプレイヤーもかなりの数いるらしい。
サービス開始から数日で本当にすごいな。
とりあえず《ディクティオンの百穴》のボスを倒して周回でレベルを上げまくるか。
それからインした俺はボスエリアまでの地図を思い出しながら進んでいた。ステ振りはボスを倒してから考えようと思っていたから後回しだ。今はとにかくボスを倒さないと。
ここだな。透明なバリアが空間を覆ってる。これが他のプレイヤーが入れないようにするための対策だな。このなかに戦闘中のプレイヤーがいる限り他のプレイヤーは入れないみたいだ。もちろんプレイヤーと一口いいっても1パーティー単位だが。
俺の場合ソロだからそんなことは関係ない。{不壊}が発動した状態で{毒霧}を使い続ければいいだけだ。今は中にプレイヤーもいないみたいだし、さっさと終わらせるか。
中入ると、ボス感を漂わせるドラゴンがいた。地龍ガイア。それがこいつの名だ。弱点は状態異常のみで基本的に魔法が利かず、物理攻撃力が高い。それで、状態異常系のスキルに乏しいプレイヤーからすればかなりの鬼畜ボスとして早くも名を馳せているらしい。
でも俺からすれば関係ない。
「スキル{毒霧}」
箱の口を1㎝開けてスキルを発動。範囲をこの洞窟内に指定。それだけで簡単に片が付く。
うんうん。いい感じに苦しんでいるね。これならそう時間もかからないはずだ。HP量がかなり多いみたいだけど、大丈夫だな。おっと、爪を振り下ろしてきた。まぁ、ダメージはいらないし大丈夫だろ。
高をくくっていた俺に強烈な痛みが走った。
やべぇ。HPが残り1になってやがる。一部のモンスターなのか、スキル所持の場合なのかわからないけど、{不壊}が意味をなさないことだけは分かった。この残った1のHPは幸運値の高さのおかげだろう。
仕方ない。自分から動いてよけ続けるしかないか。あいてのHPは残り半分。俺がよけ続けてればさっきの{毒霧}の効果が消えるころに死ぬはずだ。
俺のAGIは600あるんだ。勝負と行こうじゃねぇか地龍ガイア!
次の攻撃は魔法系か?少し溜めがある。それなら発動と同時に大ジャンプで躱すのが最適か。地龍という名前なのだから、地震などのフィールドに干渉する攻撃の可能性もある。ドラゴンだからブレスも考えなければならない。まぁ、どんなものでも関係なく回避してしまえばそれまでだ。
来る!大ジャンプだ。空中に飛び上がった俺が目撃したのは一瞬ではあるが、戦闘フィールド全体を効果範囲とした攻撃魔法だ。名前は分からないが、あれはヤバイ。すべてのエリアが巻き込まれるように地面からものすごく鋭い2mはありそうな棘が生えてきた。一瞬で元に戻ったとはいえ、回避できなければ棘に刺さるか、運よく刺さらなくても棘と棘の間に挟まれて大ダメージを負ってしまう。
ジャンプで回避して正解だったな。そして必殺級のスキルなだけあって溜めの時間が長かった。現時点での経過時間は50秒あと30秒耐久出来れば俺の勝ちだ。次はどう来る?物理攻撃っぽいな。スキルのためのモーションとは少し違う。なら動きを見極めて回避するだけで済む。
右足を上げた?今俺は地龍ガイアの手がちょうど届く距離にいる。つまり、近づく目的ではなく踏みつぶす目的か。それならさっと横移動すればいいだけだな。俺のAGIを舐めるなよ。
この程度なら余裕で躱せるんだよ。どれだけ連撃を仕掛けて来ても、俺に攻撃が命中することはない。
{毒霧}の効果が切れるまであと5秒。4,3,2,1,……。効果の消失とともにガイアが倒れて赤い光となって消えていった。よくあるVRゲームでの死亡エフェクトだな。プレイヤーは青色でモンスターが赤色らしい。ユニークプレイヤーは金色のエフェクトが表示されると公式発表があったらしいけれど、本当かわからない。
そんなことは良いから今はレベルの確認だ。レベルは1上がってるな。確かに今の俺からすれば十分に効率は良いか。あとは回想機能でひたすら周回するだけだな。ステ振りはそれが終わってからにしようか。もしかしたらモンスターの進化条件がレベルの可能性もあるし、それによってはかなりステ振りの方向性が変わってくるし。
それから1分20秒の戦闘を約300回2日間、6時間半以上かけて終え、レベルは93まで到達した。ステ振りをしていないためステータスに変動はなし。SPは1500pt余っている状態。
なぜ上限のレベル99ではなくここで止めたのかというと、これ以上上げれなかったからである。正確にはこれ以上挑戦できなかった。
というのも理由は分からないが強制ログアウトさせられた。運営のSNSを確認しても特に異常はないし、メンテナンスなどの予定も入っていない。ほかのプレイヤーたちがプレイしているのも確認できる。
だが、俺に関してはログイン制限がかかっていてログインできないと表示される。
VRメットに付属している接続確認専用のカセットを挿入して起動してみる。そちらでは異常がなかった。つまり異常があるのはVRメットではなくユーオンのソフトの方だということだ。
とりあえずユーオンの販売運営会社のカスタマーセンターに連絡でもしてみるか。どうせAIに適当にあしらわれて終わりだろうけど。えっと、確かVR空間内での通話だけじゃなくてスマホから電話でも行けたよな。
「ご連絡ありがとうございます。VRMMOユートピアオンラインカスタマーセンターです。」
へぇー。このゲーム専用のカスタマーセンターを用意してるんだ。
「VR機器に異常がない状態でログインができないのですが。」
AIとはいえ最近は人間の発言から意図を察してくれるレベルになっている。こういう感じでの発言でも
「プレイヤーネームをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ん?ほかのゲームだったら、いろいろと対処策を言われて終わりなのになぜプレイヤーネームを聞く?不具合の補償を個人にすることはないだろうし、まるで誰かがログインできなくて電話をかけてくると知っているかのような感じだな。
「パンドラです。」
俺は認めていないが、勝手に設定された以上仕方がないだろう。
「パンドラ様。あなたのアカウントは現在進化処理中となっているためログイン不可となっています。」
「わかりました。」
「失礼いたします。」
わかりましたとは言ったが意味が分からんぞ。もしかしてSPをためるのが進化条件だったりするのか?レベルではないことだけは確かだ。それに強制ログアウトの時点で切りのいい数字だったのはSPだけだし、間違いないだろうな。
まぁ、次も同じ進化条件とは限らないし、慎重にいかないといけないが、こういう進化条件があることをここで知れてよかった。それにレベル上限になったら、俺にはSPを追加する手段がない。人間アバターなら人間の町でSPポーションを購入できるが(ただしめちゃ高い)、俺の場合それもできない。
偶然とはいえ進化にこぎつけてよかった。解除される時間もわからないし、明日も学校だし今日は早めに寝るか。