第293話 面は生ける鬼となり、更なる変貌を遂げる
予想通りではあるが、悪い予想が当たった。一応調べた情報はユズハにも共有してあるけど・・・
「パンドラさんのいうとおりになっちゃったね。どうするの?」
「{格闘領域}の効果時間はまだ切れてない以上もう一回使うわけにもいかないし。」
外に出ることはできても再使用にはまだかなりの時間がかかる。
「だからどうするのって聞いてるんじゃん。対策くらいは考えてきてるんでしょ。」
まぁ、そうなんだけどね。
「ちょっと勿体無いけどやるしかないかな。ユズハこれを装備して!」
パンドラの箱を投げてよこす。これでユズハは1日に1回俺のスキルを使用できる。
「何この指輪?」
「それをつけて橋姫を対象に{虐殺者}のスキルを発動させて!」
「よくわかんないけどわかったよ。スキル{虐殺者}」
かろうじて橋姫の魔法を俺に寄せることでユズハを守り抜けてはいるがこのままではジリ貧だった。魔法に詠唱はなく、クールタイムなしで連射してくるとか無法にも程がある。だが、{虐殺者}なら・・・
「苦しんでるみたいだけど、このスキルってどんなスキルなの?」
「これは選んだ対象を即死させるスキルだね。イベントとかでもよく使ってたでしょ?」
「それは見たことあるけど強すぎない?」
「そうだね。だからクールタイムが1週間に設定されてるんだよ。私はイベントで使ってから1週間経ってないからね。でも、このパンドラの箱はクールタイム関係なく私のスキルを使うことができるっていう指輪。大事にしてね。」
「もしかして『パンドラの箱』のギルド武器?」
「そういうこと。ほら、くるよ!」
『エンシェントモンスター『怨霊【異形の面:生成】と遭遇しました』
ここからは鬼と化している。魔法を使ってくるのかすら怪しいところだが・・・
キィィィン
「え・・・?」
生成の爪がユズハの目の前で止められていた。もちろん止めたのは俺だが。
「ユズハ一旦下がって!この速度だと正直ユズハは役に立てない!」
「うん。」
少し厳しい言い方をしてしまったが正直余裕がない。俺ですらカウンターできる速度ではなかった。さっきまでが魔法の物量をどうにかすることを要求するのなら今度は圧倒的なフィジカルに対抗することを要求される。だが、今の俺のAGIで追いつけるということは
「スキル{神速}」
AGIが倍になった俺の敵にはなり得ない。
圧倒的速度で撹乱してからの背後からの一撃!
キィィィン
これを止めるのかよ!それでも立場は逆転している。この1分の間に倒すしかない。
それにしてもステルス状態の俺の攻撃を止めるとは。侮っていたかもしれないな。それでもこれだけ速度の差があれば・・・
グサッ
急所を貫くことなど容易い。生成は生きながらにして鬼と化した状態。つまり人間の頃と変わらず心臓は急所になるはずだ。
バサッ
生成が倒れて今度はそこから黒いドロドロとしたヘドロのようなものが現れ形を成していく。ここまではボスとはいえサクサクと倒すことができているが問題はこの後の2体だ。
『エンシェントモンスター『怨霊【異形の面:般若】と遭遇しました』
「さて、ここからが本番だね。」
「ユズハ、戦いはこっちで引き受けるけど自分の身は頑張って守ってもらうことになるかもだからね。一応分身のロキは置いとくけど分身だしそこまで戦えないからね。」
分身を出してユズハの護衛につける。気休めにしかならないとは思う。ここまでの戦闘では、強力な魔法を使用する魔法使いかつ、一撃目のほぼ即死の攻撃への対処を要求される泥眼、高密度の魔法の処理とその合間を縫った攻撃を要求される橋姫、高いAGIから繰り出される急所への攻撃を防ぎ、その速度を上回ることを要求される生成。
般若は読めないが、最後の真蛇に関しては魔法に加えて高いフィジカルがあると考えるべきだろう。
手を空に掲げて何をしようとしているんだ?まさか魔法か?
「鬼魔術{天変}」
突如豪雷が降りそそぐ。それと共に豪雨も降り注ぎ視界が奪われ、体も思ったようには動いてくれない。だが、ミミック状態の俺ならまだ動きづらいくらいで済んでくれている。
あれ?般若はどこに・・・
「パンドラさん後ろ!」
その叫び声とほぼ同時に背後に猛烈な寒気を感じる。間に合うか!
キィィィィン
なんとか剣で受けることはできたがあまりにも一撃が重い。こりゃおそらく{不壊}を貫通されそうだな。ユズハなら一撃だ。
般若でこれってことは般若が最終形態か?確かに俺が調べた面の中で有名なのは般若くらいな気もする。もしこの後の形態があるとしたら・・・
考えたくもないな。一応ユズハは分身が結界で守ってくれているし魔法で死ぬことはないだろう。今は目の前の敵に集中するしかないな。




