第283話 ジャスミン
『パンドラの箱』VS『神の集い』
ついに戦いが始まった。開始直後、相手に動きはない。あくまでもこっちの動きに合わせてくる戦略のようだ。事前情報では積極的にガンガン戦うようなギルドではないことはわかっている。
「それじゃ私が行ってくるよ。みんなは奇襲なり私を無視してみんなを襲ってくる敵を殲滅して。指揮はネイが取ってね。」
「わかったわ。ロキとしての初陣、派手にかましてきな!」
「もちろん!」
今回はパンドラのように高速移動はしない。できればダークサイスすら使いたくない。高速移動でき、近接での高速線を得意とするとなるとパンドラとの共通点が多く勘のいいプレイヤーや疑い深いプレイヤーにはバレてしまいかねない。
敵陣がだんだん近づいてくるが、向こうに動きはない。そして声の届く範囲まできた。
「舐めてるのかい?まさか、決勝戦にパンドラ本人が出てきもしないなんて。しかも一応ナンバー2とは聞いてるけど新米を先陣によこすなんてね。」
「まぁ、これでもパンドラさんの次に強いので。」
「へぇ。ちょっと気になるわね。」
先頭にいる1人しか返事を遣さないところを見るとこいつがリーダーのようだな。おそらくギルマスだ。
「スキル{智慧神}」
神化持ちか。厄介ではあるが、智慧の神とは一体どう言った力を持つんだ?
「智慧スキル{看破}」
なるほど。その状態限定のスキルを追加するということか。おそらくステータスの補正もかかっていそうだ。そして{看破}おそらくこっちのスキルや魔法は見破られたな。だが、神化前のパンドラまでは見抜けないはずだ。わざわざアバターと偽名まで用意されているんだ。運営がその対策をしていないはずがない。
「へぇ。あなたなかなか面白い状態じゃない。さっきの発言は撤回するわ。全力でかかってきなさい、智慧スキル{模倣}対象:魔神ロキ」
魔神について知っている。そして面白い状態という表現。極め付けにあれだけ不機嫌そうだった機嫌が治った。これはバレてるな。
そしてギルドマスターだったはずのプレイヤーは俺そっくり、というか全く同じ姿をしている。
「なるほど。相手の能力を見抜き、相手の力を模倣する。確かに強い。小規模でここまで上がってくるわけだ。でもこの特殊なビルドに対応できるの?」
「舐めないでもらいたいわね。『神の集い』ギルドマスターとしてこのジャスミン、負けないわ。」
話している間に他のメンバーたちに包囲されたな。俺とジャスミンはその中にいるわけだ。ただ、決勝戦を見ているプレイヤーからしたら厄介この上ないよな。どっちがどっちかわからなくなるっての。
「あなた{虐殺者}というスキル持ってるわね。」
「まぁ。」
「これは試合的につまらないし、お互い禁止にしましょう。」
「まぁ、いいけど。」
助かった。俺はさっき{虐殺者}を使ってしまっているから、ジャスミンに使われては勝ちようがなかった。
ただ、ジャスミンと戦っている間に他の敵に攻撃される心配もあるが、それはそれで面白いな。
「こっちからも1つ。あんたらのメンバーだけど、一斉に来てよ。せっかくなら私の本気を見せたいし。」
「へぇ。この人数相手に勝てるっての?自分を相手にしながら。」
「まぁね。」
「それなら全員行くわよ!」
その声を合図に戦いの火蓋が切られた。まずは・・・
「呪法{召雷の呪}」
ユイユイに連れて行ってもらったあの魔法書の店にあった魔法の1つ。呪法というのは特定の儀式を行うことで使用可能な魔法だ。この{召雷の呪}の儀式は人差し指と中指のみを伸ばした状態にし、その手で雷のマークを空に描き、その真ん中にその手を振り下ろすというものだ。簡単ではあるものの、見ている側の視点でいけばとてつもなく痛いやつだ。
ただ、その効果は絶大。指定した位置に雷を落とすことができる。範囲は自身から20mと狭いものの、何箇所に落とすのかという点においては制限がない。そして俺は先生の作ってくれた電気属性無効の装備をつけている。
轟音と共に落ちた雷に相手のメンバーは全員瞬殺される。このゲームにおいて最も強い攻撃方法は自然現象なのだ。雷や溶岩など自然現象を引き起こした攻撃に触れてしまうと即死してしまうほどの威力がある。
「やっぱり、防具類までコピーできるんだ。」
「当然でしょ?」
ジャスミンは何もなかったかのように立っている。まぁ、俺が何できるかわかってるんだからそりゃどうなるかわかってただろうな。
「そしてあなたは今の電気無効だけじゃなくて魔力を霧散させるとかいうチート防具をつけている。ということは・・・」
そう。ここからは
「「殴り合いと行きましょう」」




