第282話 ロキとダークサイス
何とか『完璧』に勝利した俺たちは待機室に戻されていた。
「それにしてもあの状況でよく伝えてくれたわね。」
「わかってくれたネイのおかげだよ。」
「お互いのおかげね。それにしても執念はすごかったわね。」
「まぁね。でもこれで『完璧』は終わりだね。どっちかっていうとパルフがだけど。」
「ようやく平和にプレイが出来そうね。現状友好関係にはないけど、敵対してるギルドがあるわけでもないし。」
「そうだね。もうイグザミナが例の情報を流してるはずだから。」
俺たちは勝利する前提で、勝利したときのこちらの要求である、向こうから喧嘩を吹っ掛けてきたときの文面とそれに対するうちの返答を勝利後すぐに拡散するようイグザミナに頼んであったのだ。掲示板を見てみるとすでにかなり荒れているな。
「うわ、すごい荒れようだな。」
「まぁ、うち以外にはそれなりにいい顔してたみたいだからね。多分メンバーも離れていくだろうし、そもそも解体されるんじゃないかな?」
「立て直しも厳しいだろうしな。」
「それよりも今はイベントを優先しないか?」
「確かに先生の言うとおりだね。向こうはもう終わってるの?」
「確認したが、まだ終わってないみたいだ。両方が終了後10分間休憩を挟んでから決勝戦が開始されるらしい。残ってるのは特殊なジョブのプレイヤーが集結したギルド『テクニシャンズ』と『神の集い』だ。」
「『テクニシャンズ』は知らないけど、やっぱり『神の集い』も上がってきたね。」
「パンドラの読みが当たったみたいね。運営としては頭が痛いでしょうね。小規模ギルド同士の決勝戦なんて。」
「ゲームバランスが崩壊してるとか言われても仕方ないくらいだな。」
「実際うちは神化スキル所持人数まで考えても異常なほどの人数がいるし、バランスが崩壊してるのはもともとだしね。あ、そうだ。決勝戦は私でないから。」
「「「「「え?」」」」」」
これに反応したのはヴァル、ミルナ、キキョウ、リン、レントルだ。ユイユイは何を言ってるのかわからないといった表情をしていて、ネイと先生は今更驚いてもという感じなのか呆れているようだ。
「どういうつもりなの?」
呆れつつも状況が読めていないほかのメンバーの代わりにネイが尋ねてくる。
「みんな落ち着いて。今から説明するから。その前にスキル{分身体}解除」
「何でロキを消したんだ?」
ヴァルはようやく状況を飲み込み始めたようだ。
「今回はパンドラとしてじゃなくてロキとして出るよ。指揮は変わらず私がとるけどね。表向きにもうちのギルドのナンバー2ってことになってるし、その実力も見せつけとかないとね。」
「そうなると俺の{裁き}は使いどころもなさそうだな。」
「そうだね。まぁ、秘匿しておきたい情報ではあるし。万が一の時に使えるようにはしといて。」
「もちろんだ。」
「ロキとして出るってことは普段使ってるスキルなんかは使わないってことだよな?」
「まぁ、そうなるね。基本は魔法かな。一応この体での近接も練習したからいけるよ。武器種も変えてるしバレないでしょ。」
そう。俺はロキの姿での戦闘の幅を広げるために新たな武器にチャレンジした。最初はいつもの短剣から入り、両手剣、片手剣+盾、片手剣の二刀流、斧、刀など、刃物を中心にいろいろなものを試した。そして最終的に決まったのが・・・
「それにしてもその鎌、見た目すごいわよね。ユーオンでここまで禍々しい武器なんてなかなか見れないわよ。」
「確かに不気味だし割と気持ち悪いよね。それでも短剣以外だとこれが一番人型での戦闘で手になじんだんだから仕方ないでしょ。」
鎌だ。先生お手製で名前はダークサイス。ロキの姿は身長150㎝ほどしかないとはいえかなり不釣り合いに見えるほどの大きさだ。
「サイズが不釣り合いには見えるが、それでも相手を懐には潜り込ませず、相手が距離をとるなら魔法で距離を詰めて2つの鎌で切り刻む。結構えぐ目の戦略だよな。」
「でしょ?にしてもここまで要望通り作ってくれる先生はさすがだよ。」
個の鎌は2つに分かれる。その時はよくある草刈りするときに使うくらいの大きさの鎌にはなるもののその形状はグリップは最低限しかなく、刃に重きが置かれている。その刃は鋭利で敵を切り裂くことに特化している。
「おっと、終わったみたいだぜ。勝者は『神の集い』だとよ。」
「やっぱりだね。みんな今から10分休憩だから何かある人はいったん抜けてもいいからね。私は一回抜けて水飲んでくる。」
それだけ言い残して俺はいったんログアウトした。さて、ようやく決勝戦だ。ロキの力を最大限見せつけてやろうじゃないか。




