第281話 VS『完璧』
戦場に飛ばされた俺たちは事前の打ち合わせ通り、ネイが突っ込み、残りのメンバーは初期地点で防御形態をとっていた。
なんだか嫌な気配を感じる。
「ネイが負けるとは思えないが、パルフがあんな喧嘩を吹っ掛けてくるってのは不穏だな。」
「だね。いざとなったらヴァルにも様子を見てきてもらうかもだからね。」
「不穏だといっておいてなんだが俺かよ。まぁ、戦力としてパンドラもロキもむ為替れないってのは分かるけどさ。」
「ただ、その必要はなさそうだね。」
「なんでだ?」
「パルフかな?そこにいるんでしょ?5人ってとこかな?」
そういって何もない空間を見る。こっちの方から気配を感じる。
「よくわかったな。」
パルフのその声とともに5人のプレイヤーが姿を現す。全員が同じマントをつけているあたり、あのマントで透明化していたみたいだな。
「透明化のマントか!」
「その通り。それにしてもまさかバレるとはね。」
パルフ、マルクルは知っているが、残りのプレイヤーに関しては情報がない。気を付けながら戦わないとな。
「まぁ、そんな人数で来てるし、気配で分かるよ。」
気配で気が付いたというのは嘘だ。さすがに透明化しているプレイヤーの気配までは察知できない。今回のフィールドは草地。あいつらのいる場所だけ草が踏まれていた。その痕跡さえ残っていれば十分だ。
「それにしてもたったこれだけの人数でかなうと思われているとは。なめられているな。マルクル。」
「あぁ。」
まずい!マルクルはもともと呪術系の魔法を中心に使うウィザードだ。ただ、この間のアップデートで新たなジョブ呪術師が追加されている。おそらく呪術師へとジョブチェンジしているだろう。呪術師の使う呪術系魔法には耐性貫通の効果が付与される。確定ではないものの、無生物である俺以外には効果があるだろう。
「スキル{虐殺者}」
「キキョウ、ナイス!」
キキョウがいち早く対処してくれた。ただ、これでキキョウは今日{虐殺者}を使えない。
「前に戦った時に使っていたスキルだな。残念ながら俺たちはスキル無効化のアイテムを所持している。」
スキル無効化!?いや、おそらく使い切りだ。所持という表現をしたし、装備でもないだろう。それにスキルの完全無効化なんて先生でもできなかった。先生ができたのはスキル効果の軽減と1日2回の回数制限付きのスキルの無効化だ。
普通のプレイヤーやNPCが作れるのはせいぜい1回の無効化が限界だ。
「スキル{虐殺者}
今度は俺だ。これで俺は1週間{虐殺者}を使えなくなるが、負けるよりかは幾分もましだ。
「なに!お前もか!」
バタッ
パルフのリアクションの横でマルクルが倒れた。
「びっくりした?強いでしょ?特にこういう少人数相手だと。」
「いったい何が起きたんだ!まさか即死スキルだとでもいうのか!?」
「その通り。即死スキルだよ。習得条件はめっちゃ厳しいけどね。ほら、呪術師がいなくなってビビってんの?かかってきなよ。特別に私が相手してあげるよ。」
これにも理由がある。万が一ネイが負けてしまった時のためにほかのメンバーを温存しておきたかったのだ。
「調子に乗るのも大概にしろよ。スキル{悪魔神化}{邪神化}」
なるほど。こいつがあれだけ自信満々だったのは2つの神化か。確かにこれは強力だ。運営からの告知で神化を2つ所持し、同時に発動することで自身の攻撃にほかのプレイヤー、モンスター、NPCのスキルが干渉できなくなるということだったし、これなら俺の{不壊}を貫通できるな。
「なるほどね。それじゃ私が相手をするのはやめかな。キキョウ、リン相手してあげな。」
「お前、神化同士の戦いを楽しみたいだけだろ。まぁいいか。{鬼神化}」
「頑張るね。{獣神化}」
「お前らも神化をとれたのか。だが、2つ所持する俺に太刀打ちできるかな?それにしてもUniquePlayerともあろうパンドラ殿が神化をとれていないとはなぁ」
「誰が神化スキルを持ってないなんて言った?まぁ、使わないけどね。」
「虚勢を張るのがうまいようで。」
この間にもキキョウとリンが攻撃を入れているが、瘴気に阻まれて届いていない。あの瘴気、おそらく触れたものを減速させる効果があるな。そのうえであいつが仲間ごと浮遊しているせいで跳躍力による勢いがあいつらに到達する前に消えてしまっている。
「キキョウ、リン。変わって。」
「いいのか?確かに俺たちじゃ決定打に欠けるが・・・」
「あれだけあおられて逃げるわけにもいかないしね。とりあえずあいさつ代わりにこれを。スキル{毒侵食}」
指定場所は全員の胃の中。毒への耐性など意味をなさない。内部からの毒に通常の毒耐性は機能していない。つまりこれを喰らって生き残れるのは毒を無効化する種族か毒無効のスキル所持者のみだ。
苦しみながらパルフ以外の3人は死んでいった。やはり悪魔、邪神のどちらかが毒無効のようだな。
「俺に毒は効かぬようだぞ?」
「そうかよ。それならもっと苦しませて死なせてやるよ!」
悪魔、邪神。どちらも生物だ。つまり呼吸が必要。
「スキル{毒侵食}」
今度は肺の中だ。これは呼吸をしようとして溺れ、呼吸ができなくなることを阻止するため安全装置が作動して強制的に死亡扱いになる最強のスキルだ。おそらく運営にばれれば修正がかかるだろうから使えるのも今日までだろう。
「言っただろう?スキル無効化のアイテムを持っていると。数個しか持っていないとでも思ったのか?」
なるほど。さっきので効いていなかったのはそういうカラクリか。だが・・・
「何も言い返せないか。そうだろうな。スキルも効かない。接近もできないと来てはお前らに勝ち目などないのだから。」
こいつは分かっていない。近づくにつれて遅くなるのではなく、瘴気に触れることで減速しているだけ。つまり相当な助走をつけて瘴気の減速すら超える勢いで突っ込めばその心臓に刃が届く。
俺は跳ねて奴に剣を突き刺そうとする。だが、それも届かない。
「そんなもの届くわけないだろう!」
「残念だけど、あんたの負けだよ。」
「は?何を言って・・・」
グサッ
最後まで言葉を紡ぐこともできず、その心臓からは刀が生えていた。
「まさか、ネイ・・・!」
ネイが敵軍をすでに殲滅していた。そしてものすごい勢いで帰って来ていたのだ。その勢いのまま突っ込めばこいつに刃が届く。
「まさか跳ねることでこいつに伝えたとでもいうのか!」
「まぁ、2人ともプロなんでね。それじゃさよなら。」
ギリギリで耐えていたものの、ネイが刀を振り上げたことでパルフは撃破された。
《WINNER『パンドラの箱』》




